時計とジュエリー、永遠のパートナーともなりうるこのふたつ。だからこそ、ブランドやそのモノの背景にあるストーリーに耳を傾けたい。いいモノこそ、いい物語があります。今回は、エルメスの時計の話をお届けします。
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HERMÈS
Galop d'Hermès
「ギャロップ ドゥ エルメス」(クオーツ、ステンレススチール×カーフストラップ、H40.8×W26mm)¥458,7000/エルメス(エルメスジャポン)
心を奪う不思議なフォルム。オブジェのような、ころんとした小石のような。文字盤の数字は12が小さく6が大きく、パースがかかったように傾いて見える。リュウズも6時方向に付いていて、なんだか時計らしくない。
「ギャロップ ドゥ エルメス」を手がけたのは、新進気鋭のデザイナー、イニ・アーシボング。馬具のあぶみをモチーフにしつつ、曲面に反射する光の美しさを意識して、流線形のシルエットを生み出した。丸みのあるフォルムは人間工学にも即していて、着け心地がよく目に優しい。
時計といえば、最も一般的なのはラウンド形。針が丸く弧を描いて文字盤をめぐるのだから、ラウンドなのは本来当たり前なのだ。でも、エルメスはそんな形式や先入観にはとらわれない。フューチャリスティックな上下非対称のこのウォッチは、まるで未来へと向かう宇宙船。女性的であり、男性的でもあるアンドロジナスなムードを漂わせつつ、いかにもエルメスらしい明快な存在感で惹きつける。
「ギャロップ ドゥ エルメス」というネーミングは、ギャロップ(最速の駆け足を意味する馬術の歩法)と、小石(フランス語でギャレ)を思い出させる。小石の上をギャロップする水のように、きらめく時の流れとともに全力で前へと進むイメージが、デザインにさりげなく込められているのだ。
時間は決して巻き戻ったりはしないし、止まったりもしない。それなら未来へとどこまでも力強く走っていきたい──。そんなポジティブな生き方に、このフューチャリスティックな宇宙船「ギャロップ ドゥ エルメス」は、いつも優しく寄り添ってくれるはずだ。
photo : SHINMEI (SEPT), stylisme : YUUKA MARUYAMA (MAKIURA OFFICE), texte : KEIKO HOMMA