時計とジュエリー、永遠のパートナーともなりうるこのふたつ。だからこそ、ブランドやそのモノの背景にあるストーリーに耳を傾けたい。いいモノこそ、いい物語があります。今回は、シャネルのジュエリーの話をお届けします。
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CHANEL
Coco Crush
リング「ココ クラッシュ」上から(18Kベージュゴールド× ダイヤモンド)¥572,000、(18Kベージュゴールド×18Kホワイトゴールド×ダイヤモンド)¥379,500、(18Kベージュゴールド×ダイヤモンド)¥368,500/以上シャネル(シャネル カスタマーケア)
女はこうあるべきと決めつけたり、既成の枠にはめようとする社会に、ことごとく「NON!」を突きつけたマドモアゼル シャネル。キルティングモチーフが特徴の「ココ クラッシュ」には、自分らしく生きることを何より大切にしたマドモアゼルの情熱がひそやかに息づいている。
キルティングというアイデアが生まれたのは1904年のこと。マドモアゼルが恋人とともに訪れた馬術競技場で、騎手たちが着用していたキルティングジャケットや、アーガイル柄のセーターに魅せられたのがきっかけだという。その後、キルティングはシャネルのモードにたびたび登場し、やがてあの伝説的なキルティングバッグが誕生する。男物の服のディテールをクリエイションに取り入れる大胆さも、マドモアゼルならではの「NON!」だったのかもしれない。
このリングは、実は宝石をふたつ並べたアンティークジュエリーの伝統的なスタイルを再解釈したもの。本来ならとてもクラシックなルックになるはずなのに、このリングではCHANELとCOCO CRUSHを表すシンボリックなCのイニシャルが重なり合って、グラフィカルなモダンさが生まれている。2本のリングを重ねた普通の重ねづけとはひと味違い、絶妙なバランスが手元に生き生きとした表情を与えてくれるから不思議だ。
「私は偶然にも、思いがけず、一種の革命を起こした」──これはマドモアゼルが残した言葉。マドモアゼルは、女性たちを解放するための革命を成功させたのだ。堅苦しいルールに、自由を制限する圧力に「NON!」と高らかに宣言することで。
*「フィガロジャポン」2021年6月号より抜粋
photography: SHINMEI (SEPT), styling: YUUKA MARUYAMA (MAKIURA OFFICE), text: KEIKO HOMMA