時計とジュエリー、永遠のパートナーともなりうるこのふたつ。だからこそ、ブランドやそのモノの背景にあるストーリーに耳を傾けたい。いいモノこそ、いい物語があります。今回は、レポシのジュエリーの話をお届けします。
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REPOSSI
ANTIFER
10周年のアニバーサリーを祝う、ミニマルな10のリングのスタック。
ヴァンドーム広場に本店を構えるジュエラー、レポシのアイコニックなコレクション「アンティフェール」。その誕生10周年を祝い、とびきりスペシャルなリングがパリから届いた。
リングをいくつもランダムに重ね着けしているかのような、ごくシンプルなデザイン。無造作に重ねたようにも見えながら、実際は10本ものリングが動かないようにひとつにまとめられていて、絶妙なバランスを保つように考え抜かれている。リングを10本作って職人の手で重ねて留めるという手間のかかったやり方でないと、こうした精緻なシャープさは表現できないのだという。
このコレクションはノルマンディ地方の景勝地、アンティフェール岬の名を取ったもの。デザインを手がけたのはガイア・レポシ。創業者の孫であり、2007年に21歳の若さでメゾンのクリエイティブディレクター兼デザイナーに就任した才媛だ。
レポシは1957年にイタリアのトリノで創業し、ガイアの父、アルベルト・レポシの時代にモナコ王室御用達の栄誉に輝いた国際派ジュエラー。かつては故ダイアナ妃もヴァンドーム広場の本店を訪れ、モナコのロイヤルウェディングに際してはシャルレーヌ公妃のダイヤモンドエンゲージリングをレポシが仕立てている。
そんな名門に若くして参加したガイアは、メゾンの伝統や卓越した職人技を深くリスペクトしつつも、タイムレスでアヴァンギャルドなデザインを次々に打ち出す。ラグジュアリーなイヤーカフのトレンドを牽引したのもガイア。旧態依然としたジュエリー界に新しい風を吹かせたデザイナーとして高い評価を受けている存在だ。
彼女がデザインした新作「アンティフェール」リングのインスピレーション源は、コンテンポラリーアートや近代建築、そして日本の伝統的な文化や建築。ミニマルな造形や虚と実が調和する建物のディテールに触発されて、何本も積み重ねられたリングがリズムを生み出すという、このスタイリッシュなリングが完成したのだそう。
イタリアの工房で、職人たちによって丁寧に作られた「アンティフェール」は、ガイアのクリエイティビティを惜しみなく注いだ逸品だ。それはどんな角度から見ても隙のない、小さなオブジェのような美しさ。指に着ければダイヤモンドが光を放って視線を惹きつける。伝統的でもあり、未来的でもある「アンティフェール」は、ジュエリーの新しい楽しみ方を教えてくれるリングなのだ。
photography: Ayumu Yoshida styling: Tomoko Iijima text: Keiko Homma editing: Mami Aiko