時計とジュエリー、永遠のパートナーともなりうるこのふたつ。だからこそ、ブランドやそのモノの背景にあるストーリーに耳を傾けたい。いいモノにある、いい物語を語る連載「いいモノ語り」。
今回は、ルイ・ヴィトンのメカニカルウォッチ「エスカル」コレクションの話をお届けします。
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LOUIS VUITTON
ESCALE
旅へのオマージュをちりばめた、ドレスウォッチの洗練された美貌。
ルイ・ヴィトンのハイクオリティなメカニカルウォッチ「エスカル」コレクションから、とびきりシックな新作が登場した。時針・分針・秒針だけの時刻表示にフォーカスしたデザインは、このコレクションでは初めて。ユニセックスなスタイルで着用できる直径39ミリのサイズで仕立てられ、すっきりとした顔立ちが魅力的。ごくシンプルな造形ながら、ディテールをじっくりと見ていくと、ルイ・ヴィトンならではのシンボリックなモチーフや特徴的な質感がちりばめられているのに気付くはずだ。
文字盤の青い部分の仕上げは、アイコニックなモノグラム・キャンバスの風合いを巧みに再現したもの。時刻を表す小さなドットの目盛りは、トランクの外側に沿って並ぶロジンのビスを彷彿とさせる。12時、3時、6時、9時位置に配されているのは、トランクのメタリックパーツをイメージした目盛り。時計ケースの側面にも、トランクのコーナーにリベット留めされたメタリックパーツを思わせるデザインがあしらわれていて、メゾンを象徴するアイコニックなディテールがウォッチのあちこちに見て取れる。ファンにとってはうれしい発見があるデザインなのだ。
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このモデルを仕立てているのは、スイスにある自社のウォッチメイキングアトリエ、ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン。高度な技術を持った職人たちが集結しているので、細部のほんの小さな部分にいたるまで丁寧な仕事がなされている。ウォッチを裏返してみると、輝くような仕上げを施したムーブメントが見える。ジュネーブにある検定機関の厳しい検査をパスしたムーブメントを搭載しているので、精度の高さは折り紙つきだ。
コレクション名の「エスカル」とは、寄港地を意味するフランス語。つまり、このウォッチに込められているのは旅へのオマージュなのだ。メゾンの創業者、ルイ・ヴィトンの成功も旅からスタート。フランスのジュラ山脈地方で生まれた彼は、14歳の時に故郷を離れ、2年かけて徒歩で花の都パリに向かったという。
時代がどんなに便利な移動手段を提供してくれるようになっても、メゾンにとって中核となるフィロソフィは、旅。いつも暮らしている場所とは違う遠い街の景色は、高揚感や驚き、懐かしさなどさまざまな感情を呼び起こしてくれるもの。「エスカル」を手に取って、次の旅の寄港地をどこにするか夢想してみるのも悪くない。
*「フィガロジャポン」2024年12月号より抜粋
photography: Ayumu Yoshida styling: Tomoko Iijima text: Keiko Homma editing: Mami Aiko