時計とジュエリー、永遠のパートナーともなりうるこのふたつ。だからこそ、ブランドやそのモノの背景にあるストーリーに耳を傾けたい。いいモノにある、いい物語を語る連載「いいモノ語り」。
今回は、ミキモトのペンダント「ラッキー アローズ」の話をお届けします。
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MIKIMOTO
LUCKY ARROWS
光り輝くアローのモチーフは、幸運を射止める古き良きお守り。
モダンに洗練されたミキモトのペンダント「ラッキー アローズ」に、ピンクゴールドとダイヤモンドを組み合わせた新作が2024年11月に登場した。幸運を射止める矢のモチーフをあしらったメダイヨン(メダル形のジュエリー)で、放射状に光を放っているかのようなデザインが魅力的だ。ディテールに奥行きを与えているのは、白く上質なマザーオブパール。南洋真珠を育む貝、シロチョウガイから美しい光沢を持つ部分をカットしてあしらっている。
またチェーンは約65センチの長さで、冬のざっくりしたニットの上からでも合わせやすいレングス。スライド式アジャスターが付いたチェーンなので、好みの長さに調節できるのもうれしい。
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さらに、ペンダントに用いられたアローのモチーフには歴史的なバックストーリーが隠されている。メゾン独自のスタイルをシンボライズする、伝説的なハイジュエリー「矢車」だ。
1937年に開催され、世界中から多くの人々が訪れたパリ万国博覧会での展示作品「矢車」。弓の矢羽根を放射状に並べた日本の伝統的な装飾文様、矢車をモチーフにして、アコヤ真珠やダイヤモンド、カラーストーンを配した美しいデザイン。帯留としてだけでなく、リングやブローチ、かんざしなど12通りもの使い方ができるマルチウエアな仕立てになっているのが驚異的。この当時の日本のデザインや職人技のレベルが目を見はるほど高かったことを物語る、まさにレジェンドなハイジュエリーなのだ。
万博の後、発売されてから長い間行方がわからなかったこの作品は、89年にニューヨークで開催されたオークションに突如として登場。それをミキモトが落札し、現在は鳥羽にあるミキモト真珠博物館で「矢車」は大切に保管されている。
デザイン、職人技、素材のすべてに極めて高い水準を求めるミキモト。その美意識を象徴する「矢車」が「ラッキー アローズ」のインスピレーションの源。日本人として誇りを持って着けられるジュエリーとして、そして心の中に明かりを灯すジュエリーとして「ラッキー アローズ」は生み出されたのだ。
日本古来の矢車文様は、悪しきものを払い、良きものを射止めるおめでたいモチーフ。それを、西洋では護符によく用いられるメダイヨンとしてスタイリッシュに仕立てたこのペンダントには、きっと幸運を招くプレシャスなパワーが宿っているはず。
*「フィガロジャポン」2025年1月号より抜粋
photography: Ayumu Yoshida styling: Tomoko Iijima text: Keiko Homma editing: Mami Aiko