時計とジュエリー、永遠のパートナーともなりうるこのふたつ。だからこそ、ブランドやそのモノの背景にあるストーリーに耳を傾けたい。いいモノにある、いい物語を語る連載「いいモノ語り」。
今回は、シャネルの時計「J12 BLEU」の話をお届けします。
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CHANEL
J12 BLEU

スペシャルなブルーに熱い視線。
進化を続けるシャネルのアイコンウォッチ「J12」コレクションに、新たなカラーが加わった。マットな質感に仕上げた、深みのあるブルー。開発に5年をかけたという限定カラーだ。
注目の新作「J12 BLEU」は、ガブリエル・シャネルのクリエイションに度々用いられた独特のネイビーブルーを高耐性セラミックで再現。文字盤に輝くのは12石の同じ色合いのサファイア。ブルーは、マドモアゼルが生涯唯一発表したダイヤモンド ジュエリーコレクションのボックスに採用した色であり、ファッションにおいても彼女や歴代のデザイナーが取り扱ったカラーとして度々コレクションに登場した、メゾンにとってはヘリテージのある色のひとつなのだ。
再現、といってもそう簡単ではない。高耐性セラミックで思いどおりの色を出すのは至難の業。しっとりとした夜を思わせるブルーの高耐性セラミックを完成させるには、原料の調合や焼成など、化学的な試作を繰り返さなければならない。さらに、それとぴったりマッチするブルーサファイアを探すのもまた難しい。自然が生み出す宝石だけに、微妙なニュアンスを持つサファイアを同じクオリティで完璧に揃えるのには、長い時間がかかったことだろう。
こだわりの固まりのような「J12 BLEU」を手がけたのは、シャネル ウォッチ メイキング クリエイション スタジオのディレクター、アルノー・シャスタン。2013年の就任以降、「ボーイフレンド」「コード ココ」などのアイコンウォッチをはじめ、自社製ムーブメントデザインを6つ手がけており、話題性の高いスマッシュヒットを次々とデザイン。ウォッチメイキングへの深い理解と洗練された美意識、そしてメゾンの歴史への敬意によって、これまでの伝統的な高級時計のイメージを塗り替えるクリエイションを大胆に打ち出してきた人物だ。

今回、彼がアーカイブから見つけ出したブルーは黒に近いほど濃く、かっちりとしたフォーマルなシーンにも似合うし、リラックスしたリゾートにもフィット。身に着ける人のスタイルによって、さまざまな可能性を見せてくれる。
2000年に初登場した「J12」の色はブラック。そして3年後にはホワイトがデビュー。コレクションの誕生から25年を経て、アルノーは初めてブルーのインパクトを「J12」にプラスした。甘さを抑えた知的な「J12 BLEU」は、どんな日も手放せなくなるほどフレキシブルで、新しい魅力にあふれている。
ジュエリー&ウォッチジャーナリスト
4月は高級時計見本市「ウォッチズ&ワンダーズ」の取材でジュネーブへ。市内のブラッスリー・リップで山盛りの生牡蠣を食べるのが毎年の楽しみ。
*「フィガロジャポン」2025年6月号より抜粋
photography: Ayumu Yoshida styling: Tomoko Iijima text: Keiko Homma editing: Mami Aiko