時計とジュエリー、永遠のパートナーともなりうるこのふたつ。だからこそ、ブランドやそのモノの背景にあるストーリーに耳を傾けたい。いいモノにある、いい物語を語る連載「いいモノ語り」。
今回は、ピアジェのウォッチ「シックスティ」の話をお届けします。
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PIAGET
SIXTIE

輝かしいゴールデンエイジが放つインパクト。
ピアジェから発表されたばかりのウォッチ「シックスティ」は、ラウンドでもスクエアでもない、とびきり個性的なスタイル。トラペーズ(台形)と呼ばれるシェイプで、どことなくレトロな雰囲気を醸し出しつつも、コンテンポラリーアートのような斬新さも感じさせる。ひと目で心に強い印象を残すこのデザインは、1960年代に社交界を席巻したピアジェのゴージャスでアヴァンギャルドなジュエリーウォッチにオマージュを捧げたもの。メゾンの伝統と現代性を融合させた、独自のスタイルを見事に表現している。
1960年代から70年代は、さまざまなアートカルチャーが火花を散らしながら交錯し、まったく新しい潮流が生み出されていった時代。急速に変わりゆく社会通念やモードのトレンドを反映し、ウォッチに新しい価値観をもたらしたのが、この頃のピアジェだ。ポップアートやオプティカルアートなど、最先端のエッセンスを注ぎ込み、従来のお決まりだった丸い文字盤ではなく、多様なシェイプのジュエリーウォッチを生み出していった。この頃に培われたジオメトリカルなフォルム、抽象的なパターン、着け心地のよさ、洗練されたダイナミズム、表現の自由さといったピアジェのオリジナリティは、21世紀の現代においても少しも色褪せていない。

1969年、スイスで行われた国際時計見本市で、機械式ウォッチをデザイン重視のグラマラスなハイジュエリーへとドラマティックに変貌させ、一大センセーションを巻き起こしたピアジェ。愛用者となったセレブリティは、エリザベス・テイラーやジーナ・ロロブリジーダなど、そうそうたる顔ぶれだ。
時計愛好家だったアンディ・ウォーホルが愛用していたのも、丸くも四角くもないクッション型のピアジェのウォッチ。彼の時計のベゼルには、建築や金銀細工に使われるゴドロン(畝)と呼ばれる装飾モチーフがあしらわれていて、時代を象徴するシグネチャーコードとしてこのゴドロンが新作「シックスティ」のベゼルを煌びやかに飾っている。
今年の春に開催された世界最大級の時計トレードショー「ウォッチズ&ワンダーズ・ジュネーブ」で、ラグジュアリー感あふれる広大な会場の中でもピアジェはひと際豪華なブースを構え、誇らかに「シックスティ」をローンチ。韓国から女優チョン・ジヒョンもブースを訪れて、熱い視線を浴びていた。60年代に花開いたピアジェの黄金時代はいまなお続き、人々のハートに火を灯している。
ジュエリー&ウォッチジャーナリスト
アンティーク商さん、人気漫画家さんと3人でパーティ帰りにチョイ呑み。職種は違えどみんな広い意味でのジュエリー関係者で、オタク話がヒートアップ。
*「フィガロジャポン」2025年8月号より抜粋
photography: Ayumu Yoshida styling: Tomoko Iijima text: Keiko Homma editing: Mami Aiko