「本当に大事なものは目に見えない」 世界で活躍する俳優・山下智久の現在とは?

インタビュー 2023.06.07

俳優、山下智久のキャリアにおいて、最も儚い男性像かもしれない……。6月9日からプライムビデオで独占配信される主演映画『SEE HEAR LOVE 見えなくても聞こえなくても愛してる』で演じた、泉本真治のことだ。

厳しい競争社会である漫画界でキャリアを積んできた真治は、連載中のコミックに映画化の話が舞い込む。編集者の助言で、自身の目指す方向性を曲げてまで読者に読まれること、愛されることを選んできた彼の我慢がようやく報われかけた時、病で視力を失い、絶望の淵にたたきつけられる。だが、生きる気力を失ったとき、聴覚障害がある愛読者、相田響(新木優子)が現れ……。

『私の頭の中の消しゴム』で知られるイ・ジェハン監督が描き出すのは、不幸が連打するジェットコースターのような物語。山下が演じた真治のもがきとは。日韓合同制作のラブストーリーに挑んだ舞台裏を聞いた。

>>【写真】山下智久が演じた、最も美しく儚い男性像とは?

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Tomohisa Yamashita/1985年、千葉県生まれ。2022年はドラマ「正直不動産」(NHK総合)、「TOKYO VICE」(WOWOW)、映画『ザ・マン・フロム・トロント』など国内外の作品で活躍。2023年9月には海外ドラマ初主演となる「神の雫/Drops of God」(Hulu)の配信が控える。

――『SEE HEAR LOVE 見えなくても聞こえなくても愛してる』での泉本真治は、山下さんのキャリアにおいて最も弱い人物と言っていいのではないでしょうか?

確かに、これまで人にあえて見せていなかった部分が出ているかもしれない。弱さというか、いままで隠していたものが出てきたという感じですね。それは年齢的に、こういう面を見せても平気になったということも大きい。弱さを学ぶことは大事だし、弱さを乗り越える作業があるから、強くなっていくんだとも思う。そういう意味で、この作品との出会いは役の幅としても、シンプルに広げていけることができたんじゃないかと思います。

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視力を失った真治と、彼を支えることになる響。目が見えない、耳が聞こえないという困難を抱えるふたりに待つ未来とは?

――「視力を失う」という思わぬ事態に遭遇しての怒り、悔しさ、絶望、涙などいろんな感情が表現されていますね。これまでクールな役が多かった山下さんとしては、感情表現の増幅も演じ甲斐があったのではないでしょうか?

そうですね。台本から読み取った感情を自分のフィルターを通して出すという点ではこれまでの作品と同じ作業でしたけど、真治の感情表現は確かにいままでとは、ちょっと違った部分だったと思います。海外での仕事をするようになってから、ひとりで考える時間の大切さはもちろんあるけど、それ以上に自分の意見をみんなでシェアすることの大切さを学んだというか。監督とのやり取りでもそうですし、演技レッスンでも自分の意見をシェアすることで深みや広がりが見えたりするから、そういう作業を物理的にやるようになったのは大きいなと思っています。特にこの映画の中では、真治は情けなくて、不器用で、いろんな人に支えてもらわないとダメなヤツなんですね。だからこそ、周りの人の優しさがしっかりと見えてくる。そういう意味では「ダメなやつ」でいなければいけなかったんだと思う。山下智久としての視点で見ると、真治は不甲斐ないし、切ないし、同世代として「もっと、頑張れよ!」という気持ちもあるんですけど(笑)、彼なりに一生懸命やっていたんで、そこはしょうがないかな。

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――「役をシェアする」ということを話されましたが、2010年、『あしたのジョー』の撮影で、川口市に作られたドヤ街のロケセットを取材した折、山下さんが誰とも話さずずっと静かに集中されていた姿をいまもよく覚えています。当時とは撮影に挑むスタイルが変わりましたか?

あの時はもうエネルギー不足だったから。減量で食べていなかったのと、当時は知識がなくて、ただがむしゃらにやっていただけだった。でも、そういうことが活きる役だったとは思います。いまは大分知識がついて、減量も別に辛くないし、やっぱり学ぶと答えが見えてくる。僕の強みは撮影現場でリーダー然として振舞うということよりは、いい人たちとの出会いに恵まれること。真治ともそこが大きな共通点ですね。

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――「TOKYO VICE」、『ザ・マン・フロム・トロント』、「THE HEAD」、「神の雫 / Drops of God」と海外の混合チームで仕事をされることが多くなり、グローバルな視聴者を想定されて演技されることが多くなったと思うのですが、表現やアプローチが変わった点はありますか?

リアルにキャラクターを追求することが増えたかもしれません。自然に、自然にという方向性で。コメディタッチとか、オーバーに見せるやり方もあり、どちらの良さもありますけどね。今回の真治役は目が見えなくなる役なので、それを表現していくのってとても大変でしたけど、やれてよかったと思います。

――真治役の設定として興味深いところは、視力を失ってしまう漫画家と、聴力障害があり、発声できないモデルの恋愛を主題としているのですが、だからコミュニケーションは不全である、というメッセージではなく、それでもコミュニケーションはできるという前向きな姿勢で描かれていることですね。

コミュニケーションっていろんな方法があるんだなっていうことも学べましたし、状況をマイナスからプラスに変えることもひとつのテーマなのかなと思いました。視力を失ったら、もう漫画家はおしまいってなりそうな話だけど、いろんな方法で続けていく。

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――山下さん自身が、自分の表現活動において、これを失うと相当きついなというところは?

僕の中では夢や目標、ゴールみたいなものが大きい。その気持ちがなくなっちゃうと、仕事ができる気がしないです。それと、応援してくださっているファンの皆様に恩返ししなきゃな、みたいな感情。その感謝と向上心がなくなったら、ダメになってしまうでしょうね。

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――いまの話と関連して映画の話に戻しますが、新木優子さんが演じる響は真治の熱烈なファンという役柄です。自分から押しかけて、全身全霊で支えるという、いわば“推し活”の究極だと思いますが、支えられる方である山下さんからすると、響のような愛情の掛け方には怖いと思う部分もあったりしませんか?

健常な状態だったら怖いと思うところもありますが、状況として、真治が暗闇に落ちたところというタイミングもあると思います。視力を失うことは受け入れがたいことではあるんですけど、その真っ暗闇の中で、ある意味、光を照らしてくれた人だっていうことになったんじゃないかな。出会いも結局、タイミングですからね。人と人の出会いも、自分の気持ちも、このタイミングで会ったから、ということは大きいし、そういう状態は誰も計算して作れるものではない。だから、ロマンチックだなとも思います。

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――この作品は世界同時配信ですが、ここが伝わってほしいと考えていることは?

僕がイ・ジェハン監督の『頭の中の消しゴム』を見たのは高校生の時だったんですけど、いまだに記憶に残っていますし、最近また観直したんですけど、色褪せないものがあった。それは、「本当に大事なものって目に見えない」ということ。本作に関しては、魂という言葉がひとつのキーワードだったかもしれない。セリフにもよく出てきたんですけど、日本だと魂ってそんなに普段使う言葉じゃないじゃないですか。それが、この作品の真治と響に関しては、常識では考えられないレベルの、魂でつながっている関係性というか。いろんな意味で、深いところで全うしている関係だと思う。真治はいろんな常識に捕らわれて、本音を隠して生きてきたけど、それを響の愛が解き放ってくれた。愛の強さ、愛の力で。それが届けばいいですね。

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『SEE HEAR LOVE 見えなくても聞こえなくても愛してる』
●監督/イ・ジェハン
●出演/山下智久、新木優子、高杉真宙、山本舞香、深水元基、山口紗弥加、夏木マリ ほか
●主題歌/山下智久 「I See You」(Label9)
©2023「SHL」partners
2023年6月9日(金)、プライムビデオで独占配信
https://see-hear-love.com/

 

text: Yuka Kimbara photography: Mirei Sakaki styling: Takeshi Momose hair & makeup : Ikki Kita(Parmanent)

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