コロナ禍にあっても国内外から多彩な作品が集結し、各方面で話題となった「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア(SSFF & ASIA) 2021」。俳優の別所哲也が主宰する、米国アカデミー賞公認映画祭にも認定されている国際短編映画祭だ。23年目を迎えた今年、“縦型”の映像作品の部門「バーティカルシアター部門 supported by smash.」が新設された。そのプレゼンターを務め、6月23日(水)には自身が企画・プロデュース・出演する縦型のオリジナルインプロビゼーション(即興)シネマの配信を控えた齊藤工にインタビュー。縦型の映像から得た気づき、そして自身が世に送り出す新作に込めた思いとは。
真っ黒の画面に自分が映り込む、かつてない映画体験。
――国内外から集まった縦型の短編映画を観て、どう感じましたか。
2〜3本観たら「どうしていままで横型だったんだろう」という気がしてきました。(スタッフが持っていた首掛け式スマートフォンホルダーを指して)あれを装着すると、ここが劇場になるというか、いまはおそらく横型のテレビや映画館以上に、観ている画角としては縦のほうが多くなっていると思います。縦の映像にこんなにも違和感がなくなるのか、と思うと同時に、横のよさも見えてくるような体験でした。
僕は昭和のアナログ人間ですけど、映画の歴史を振り返っても冷蔵庫くらいのサイズの機材で撮っていたヒッチコックの時代からどんどん技術が進化したり、サイレントからトーキーになったり、時代の流れの中でいまひとつの分岐点にいるような気がします。
『スマホラー!』
女子高生の玲奈は、過去に学校で自殺を配信した女子生徒がいたことを知る。しかし動画がフェイクだとわかり、玲奈は友人たちと肝試しを試みるが……。バーティカルシアター部門supported by smash.最優秀賞を受賞。
●監督/西山将貴 ●2021年、日本映画 ●17分
――特に画期的だと感じたり、印象に残っていたりする作品やシーンを教えてください。
観る環境にもよりますが、僕はほぼスマートフォンで観ていたんです。インスタライブのような画面の演出をしている作品が多くて、とても身近なその見慣れた画角は、自分がすでに持っているシアターみたいなものなんだなと。あと、ホラー作品を観ていたら真っ黒な場面があって、シーンを繋ぐその黒い画面に観ている自分が映るんです。テレビや劇場では起こりえなかった、まさに『COMPLY+-ANCE コンプライアンス』という映画で自分がやりたかったことが、このスマホの表現にはあるのかもしれない。観ている間抜けヅラの自分が映るという(笑)、いままでと違う観点というか、非常に近い距離感で観られる気がしました。それが監督の狙いなのかどうかわかりませんが、映り込む自分が作品の一部のような気もしておもしろかったです。
――バーティカルシアター部門の最優秀賞に選ばれた『スマホラー!』ですね。
はい、あと『過ち』という盗撮を扱った作品もブラックアウトが多くて、題材も題材だったので、時々自分の顔が映ることで、いままでの映画体験とは違うものになったと思います。
『過ち』
高校3年の冬、暇を持て余していた佐藤悠人は、ゴシップ写真の撮影のバイトを始める。仕事のたびに人を信用できなくなっていく悠人は、ある人物と出会う。バーティカルシアター部門supported by smash.U-18を受賞。
●監督/加藤岬太 ●2021年、日本映画 ●24分
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テレビや映画ではできない、ライブ即興劇という実験。
――齊藤さん自身も縦型作品『Hitch×Hook(ヒッチホック)』を企画・プロデュース・出演します。縦型の画面を二分割して、さらに即興劇を織り交ぜるという画期的な作品で、まもなく配信されますが、これはどんな作品でしょうか。
まもなく配信で、一部生放送です(笑)。縦を二分割すると、アスペクト比は正確に一対一ではないですが、グザヴィエ・ドランの『Mommy マミー』(2014年)じゃないけれどインスタの画角というか、そのひとつの“箱”をひとりひとりが担当します。画面は縦にもなるのでサイズは2種類ありますが、その中のひとりが「スジナシ」のように生で演じるという、映画館やテレビではできないことをしたいと思いました。昔の生放送のドラマに近いかもしれません。
自分が担当する箱をどう埋めていくか、そこに人とのお芝居の醍醐味みたいなものが生まれるんじゃないかという、かなり実験的な作品です。とはいえスジのベースはあって、西条(みつとし)さんにしっかりと台本を作ってもらえたので、比較的ブレずに物語を描けたと思います。
『Hitch×Hook(ヒッチホック)』は、一棟のマンション上下に住む住民たちの間で巻き起こるトラブルを描くサスペンス。バーティカルシアター部門supported by smash.の招待作品として製作された、smash.オリジナルインプロビゼーション(即興)シネマ。
――いつ頃この作品の着想を得ましたか。
昨年のコロナ禍にスタートした「STAY HOME MINI-THEATER」だったり、『TOKYO TELEWORK FILM』の清水康彦監督やスタッフたちと、リモートを含めて何かできないかと模索しながら、いままでに10本近くの作品を作らせてもらってきました。その延長線のようなタイミングで、(バーティカルシアター部門に協賛する)「SHOWROOM(ショールーム)」の前田社長との縁をいただきました。
何度か打ち合わせをする中で、作品をしっかり作ることに加えて、SHOWROOMとだったら速度感への挑戦ができるんじゃないかと思いました。インプット・アウトプットの速さを、僕らのバイオリズムじゃなくてメディアの現代的速度感に合わせていったらおもしろいものが生まれるんじゃないかと感じて、パッと思いついたのが「スジナシ」をやりたい、ということだった。
いまはたぶんサブスクとか、みなさんのスケジュールが観たいもので埋まっていると思うんですよね(笑)。さらに新しいものを観るというプライオリティを感じてもらえるものって、なかなか生み出せない。唯一できるのは生のスポーツ中継だと僕は思っていて、それに近いものをエンターテインメントでできないかという試みとして、実際にひとりだけライブ出演します。どんな結果になるかわからないけれど、理想的には出演者全員がライブでできるような、ひとりがひとつの“箱”を担当するライブの即興劇みたいなものがこの先できるんじゃないか、もしかしたら縦を横にして劇場でも上映できたりしないか、なんていう考えもありつつ、実験をさせてもらっているという感じです。
6月21日(月)に開催された「SSFF & ASIA 2021」アワードセレモニーでは、バーティカルシアター部門supported by smash.のプレゼンターとして登壇。写真右は同部門の最優秀賞を受賞した『スマホラー!』の西山将貴監督。
――齊藤さんはこれまでにも「SSFF & ASIA」にさまざまな形で関わってきました。コロナ禍という特殊な状況でリアル・オンライン同時開催となった今回感じたこと、今後期待することを教えてください。
昨年も感じたことですが、ほかの世界中の映画祭と比べても、“中断かオンラインか”という二者択一を迫られた時、ショートフィルムというものがいみじくも時代とマッチしていると感じました。もともと「SSFF & ASIA」は無料で上映するという懐の深い、映画を身近に感じてほしいということを訴え続けている映画祭で、このパンデミックの状況下でなおさら、ショートフィルムの多様性を示し、営利というよりもちゃんといろんな人にチャンスを作り、才能を伸ばすという、この映画祭の理念に最も順じた開催なのではないかと思いました。
それはやはり、事業として数々のスポンサーをきちんと映画祭につける、きっと別所さんが誰よりも見えないところで企業とコミュニケーションを取っているからこそ、世界中の若い才能にこういう場を提供できているんだな、と。オープニングセレモニーを見ていても、協賛企業を紹介する時間がしっかりある。それだけ同じ方向に向かって夢を追う、応援し後押ししたくなるような映画祭を続けていることは本当に素晴らしいなと思いました。特に昨年のような分岐点の年もスポンサーが離れずにサポートしていることは、この映画祭の意義や必要性に強く共感したからだと思いますし、若い才能が毎年、この場所から生まれて、その後チャンスを掴むという流れが映画祭本来の姿ですが、その役割がこういう状況下でいちばん機能している映画祭だと思うんです。
長編初監督作『blank13』では国内外の映画祭にて8冠受賞。20年、企画・脚本・監督等の『COMPLY+-ANCE』がLA日本映画祭にて最優秀監督賞、作品賞をW受賞。 また、オレゴン短編映画祭2020にて監督作『Balancer』が最優秀作品賞。 同年HBO asiaのプロジェクトで日本代表監督を勤めたFOODLORE『Life in a box』がAsianAcademyCreativeAward2020にて、日本人初の最優秀監督賞を受賞。現在、監督最新作『ゾッキ』及び『裏ゾッキ』が全国公開中。主演作『シン・ウルトラマン』Netflix「ヒヤマケンタロウの妊娠」テレビ朝日系ドラマ「漂着者」をはじめ、『狐狼の血 LEVEL2』『CUBE』等が待機中。 企画・制作を手がけたクレイアニメ『オイラはビル群』がWOWOWオンデマンドで配信中。また、18年にパリ・ルーヴル美術館のアート展にて白黒写真作品【守破離】が銅賞受賞。19年も出品。移動映画館「cinéma bird」の主宰や「MiniTheaterPark」の活動等。フィガロジャポンにて「齊藤工 活動寫眞館」を連載中。
302号室に住む占い師の和島晋助(塚地武雅)、和島の客である伊井野太一(吉野北人)、301号室に住む藤田卓也(磯村勇斗)、藤田卓也の浮気相手・野田智香(福田麻貴)、202号室に住む藤田卓也の彼女・桑原柚子(剛力彩芽)、荷物の配達でマンションを訪れた配達員・佐藤正人(荒牧慶彦)、諸事情でマンションを訪ねる私立探偵・楠木洋平(齊藤工)が同じ時間軸で、即興を交えながらさまざまなドラマを見せていく。
●監督/清水康彦
●企画・プロデュース・出演/齊藤工
●出演/塚地武雅、吉野北人、磯村勇斗、福田麻貴、剛力彩芽、荒牧慶彦
●2021年、日本映画 ●40分37秒
●6月23日(水)19時より、オンラインでの発表イベントをsmash.にて無料で開催。6月24日(木)よりsmash.で独占配信スタート。6月30日(水)までは完全無料での配信となる。
発表イベント参加URL:https://sharesmash.page.link/ZVVx
作品視聴URL:https://sharesmash.page.link/sbsq ※6/24にアップ
バーティカルシアター部門 supported by smash.
ノミネートされた全23作品を6月30日(水)までsmash.にて無料で独占配信中!
https://sharesmash.page.link/sbsq
photography: Aya Kawachi