篠原ともえを魅了した、CGアニメのクラフト感。

インタビュー 2021.06.29

世代を超えて楽しめる、CGアニメーション。ツールの発達とともに、その表現はますます多彩に進化している。先ごろ開催された「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア(SSFF & ASIA)」は、そんなCGアニメーションによる世界中のクリエイションが一堂に会する機会だ。

今年、CGアニメーション部門の審査員を務めた篠原ともえにインタビュー。クリエイターとしての視点から作られた背景やチャレンジ精神にも深く共感する、彼女をとらえた作品とは。

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どんな状況でも作品を作る、クリエイター魂を感じて。

――今回、CGアニメーション部門の審査員として作品をご覧になっていかがでしたか。

特に印象的だったのは、SDGsなど社会問題を背景にしたメッセージ性の強い作品が多く見受けられたことです。どんな状況下でもものづくりを続け、作品という形にして、アジアで開催されるフィルムフェスティバルに世界各国のクリエイターが挑戦している、その意味で感動しない作品はありませんでした。

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『渡り熊』
地球温暖化で故郷を追われた2頭の北極熊。新たな住まいを探す中、ヒグマの縄張りに辿り着いた2頭は共存を試みる。地球を救え! J-WAVEアワードを受賞。
●監督/Hugo Caby, Antoine Dupriez, Aubin Kubiak, Lucas Lermytte & Zoé Devise ●2020年、フランス映画 ●8分17秒

――審査員である篠原さんと落合賢監督、デジタルハリウッドの杉山知之学長の3人の意見が大きく分かれたと聞きました。篠原さん自身が特に好きだったのはどんな作品でしょうか。

私が一押しにしていたのは、『渡り熊』というニットで編んだ熊の作品です。作品を選ぶ時にはクラフト感があること、そして誰かに勧めたくなる作品であるということを大切にしていました。『渡り熊』はその両方であり、時折動物たちが見せるリアルな動きは、作者の研究の成果を物語っていて、ストップモーションアニメーションのような懐かしさもありながら、CG技術の高さを感じさせる作品でした。地球温暖化をはじめとする環境問題や、移民・人種問題といったシリアスなテーマを、誰にでもわかりやすく、そして、最後には考えさせる展開へと落とし込む表現は秀逸でした。時間をかけて丁寧に作っていることが想像できる作品でしたね。

ただ、技術面のバリエーションの多さから『私、バルナベ』という作品が群を抜いていたので、3人で激論を交わした末、優秀賞はこの作品に決まりました。

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『私、バルナべ』
嵐の夜、ひとり酔い潰れた男の前に不思議な鳥が現れ、自らの人生を見つめ直させる。CGアニメーション部門優秀賞を受賞。
●監督/Jean-François Lévesque ●2020年、カナダ映画 ●15分06秒

――ほかにも印象に残っている作品を教えてください。

『Yello』という作品もすごく好きでした。コロナ禍で起きてしまった人種差別という国際的な問題を、柔らかな色彩とキャッチーなイラストで表現することで、その深刻さがよりあらわとなり、胸が痛みました。ただ、最後に登場した無邪気な少年や、終始カラフルで親しみやすいアニメーションは、どこか希望の光を感じるものでした。この大きな問題、そして、私たち日本人も含まれるアジア系の人々に対するヘイトクライムについて、短いながらも考えさせられる作品でした。このような状況下だからこそ生まれた作品であり、2021年の「SSFF & ASIA」に届けずにはいられない、というクリエイター魂のようなものを感じました。それから、パンデミックをテーマにした『哀しみの美しさ』もすごく美しい作品でした。

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『Yello』
ある女性が、空港で体験した人種差別的な出来事を通し、自身の感情を整理する過程を真っ直ぐに語るアニメーションドキュメンタリー。
●監督/King Yaw Soon ●2020年、アメリカ映画 ●4分54秒

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『哀しみの美しさ』
大気汚染が進んだ世界で、絶滅していく動物たちに心を痛める女性。細菌による感染症で病に倒れた彼女に、自然界が幻覚となってメッセージを伝える。地球を救え! 環境大臣賞を受賞。
●監督/Arjan Brentjes ●2020年、オランダ映画 ●9分50秒

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短編だからこそ、想像力を豊かに膨らませる。

――篠原さんにとって、CGアニメーションの魅力はどんな点でしょうか。

今回、審査の話をいただいた時、CGアニメーションというとすごくデジタルなイメージがありましたが、実際に作品を観てみたら、手描き感を残しながら作られているものがとてもたくさんあったんです。クリエイターが手を動かし、心で作っている、それは全世界共通なのかもしれませんね。CGアニメーションといえどクラフトなのだと思いました。

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篠原ともえが最も好きだったと語る『渡り熊』は、フランス北部の町ルーベのPôle 3D schoolの卒業生5人が共同監督。原題は『Migrants(移民)』。編みぐるみの愛らしい熊たちが、今日的な問題を投げかける。

――アワードセレモニーには篠原さん自身がデザインした衣装で登壇しました。衣装のポイントやこだわった点を教えてください。

今年から始めた版画作品をテキスタイルにして、着物にインスパイアされて取り組んできた、余りが出ないように四角いパターンで作る衣装に落とし込んだものです。今回作品を拝見したクリエイターのみなさんからのインスピレーションも受け、自分の手の感じが出るように制作したいと思いました。私はクラフト感があってオリジナリティのあるものづくりにこれからも挑戦していきたい、というメッセージドレスです(笑)。

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――ちょうど、リニューアルした「フィガロジャポン」で「石井ゆかりの星占い」のために篠原さんが描いたイラストも版画ですね。

はい、こちらも版画作品をもとにしたイラストです。版画創作のきっかけはタダジュンさんというアーティストのすごく素敵な版画作品を観て、私も作ってみたいと思って始めたんです。いい作品は人に影響を与えますね。

――ショートフィルムという表現の特徴や魅力はどんな点だと思いますか。

今回、多くの作品を観て感じたのは、ショートフィルムは短いからこそ観る側の気持ちが試される、大きな想像力をはたらかせて観るものだということです。あえて説明が少なかったり、小さな世界を描いて簡潔に伝えたりすることで、観る側にたくさんのことを投げかけてきます。いろいろなジャンルの作品を30本近く観ていたら、旅しているような気持ちになって、すごくいい時間でした。

きっとひとつひとつのシーンで何度も手直ししたのだろうな、と背景も想像しました。映像というクリエイションを通じて、アーティストたちがどのようなことを考え、届けようとしているのか、その真っ直ぐな想いをすべての作品から受け止めることができました。さまざまな作品が生み出されるように、心動かされる作品も人それぞれだと思いますが、そのようなリテラシーの多様性も、今回の審査を通して学ぶことができました。私自身もさまざまなコンペティションに挑戦したり、デザインした作品をたくさんの人に見てもらうためのアクションをしたりしているので、社会問題についてのメッセージなど、時代性を取り入れながらオリジナリティを持って作っていく、そんなものづくりを学んでいきたい、と刺激をいただきました。

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篠原ともえ Tomoe Shinohara
1995年歌手デビュー。文化女子大学(現・文化学園)短期大学部服装学科デザイン専攻卒。歌手・ナレーター・女優活動を通じ、映画やドラマ、舞台、CMなどさまざまな分野で活躍。現在はイラストレーター、テキスタイルデザイナーなど企業ブランドとコラボレーションするほか、衣装デザイナーとしても松任谷由実コンサートツアー、嵐ドームコンサートやアーティストのステージ・ジャケット衣装を多数手がける。2020年、アートディレクター・池澤樹と共にクリエイティブスタジオ「STUDEO」を設立。
篠原ともえ公式サイト:www.tomoeshinohara.net
公式インスタグラム:www.instagram.com/tomoe_shinohara/
「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2021」
受賞作品を6月30日(水)まで無料でオンライン会場にて公開中!
https://www.shortshortsonline.org

photography: Aya Kawachi, hair & makeup: Masayoshi Okudaira

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