クリエイターの言葉 少年同士の初恋を描く映画『Summer of 85』、オゾン監督と主演俳優にインタビュー。

インタビュー 2021.08.23

フランスの名匠フランソワ・オゾンの新作『Summer of 85』は、オゾンが17歳の時に読んで感銘を受けたエイダン・チェンバーズの小説『おれの墓で踊れ』(徳間書店刊)を原作とする青春映画だ。16歳のアレックスと18歳のダヴィッドの突然の嵐のようなひと夏の恋を描く。35 年の時を経て、念願の映像化を実現したオゾンに聞いた。

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フランソワ・オゾン/François Ozon 1967年、フランス生まれ。カトリーヌ・ドヌーヴなど大物女優が共演した『8人の女たち』(2002年)やベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞した『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』(18年)で知られる。

「チェンバーズの小説は17歳の時に読んだけれど、普遍的な恋愛が描かれていると思った。少年同士の恋愛に対しての罪悪感などが暗いカタチで描写されているわけではなく、その物語に感動した。シンプルで美しいと思ったんだ。80年代の映画は、同性愛を語るとすると暗いものが多かったから、なおさら気に入った。10代って、恋愛も人生も“発見する”年代だと思う。発見して傷ついて、そして回復していく。その青春を映画にしたいと思ったんだ。当時もこの小説を映画化したいと夢見たけれど、英語の小説だし、僕が監督する前にアメリカやイギリスの監督が映画化してしまうだろうな、と思っていた。『グレース・オブ・ゴット』(2018年)を撮った時に、フランスのカトリック教会が公開を阻止しようと動いたりして、精神的にかなり疲れたんだ。次の作品はもっと軽やかなものにしたいと思っていた。そんな時、本棚にあったこの小説が目について読み返してみたら、昔と同じような感情が蘇ってきて、初めて読んだ思春期の少年だった頃の気持ちをスクリーンに投影したくなった。だから、ロマンティックであり、メランコリックでもある映画になったと思う。だけど、最後には希望もある。つまり、僕自身が観たかった青春を映画にしたとも言えるね」

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時にクセモノ監督といわれるオゾンだが、本作ではその独特な毒が影を潜めている。繊細で多感な青年たちの初恋、ときめきと痛みに、多くの観客が共感するだろう。
「人格が形成されていない頃というか、アイデンティティ的にあやふやな時期であるキャラクターを描くのが好きなんだ。いろんな試練があり、人生とはどういうものかを学んでいく。そのプロセスを映画化したいと思っている。登場人物たちは過程を歩むわけだけど、観客にも一緒に体験してほしいんだ。僕自身にも自分が誰だかわからない時期があったから、彼らの思いに寄り添いながら、その思いを観客にシェアしていきたい。映画監督にとって、自分が描く人物を理解して愛することは絶対条件だよね」
舞台は、オゾン監督が青春時代を過ごした80年代。90年代生まれの主演のふたりには、80年代の魅力をどのように伝えたのだろうか。
「彼らには、80年代の音楽をたくさん聞いてもらった。フェリックスは、“僕のお母さんはこれらの音楽を全部知っていた”って言っていたよ(笑)。それくらい80年代はみんなが同じ音楽を聞いていた。ディスコシーンでは目配せをしているけれど、映画の『ラ・ブーム』(80年)を観てもらったんだ。この映画は、80年代の若者の青春を代表しているものだからね」

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本作で描かれるふたりの青年のラブストーリーは、ロマンティックであると同時に痛みを伴うものだが、30年前とは、同性愛の描かれ方も観客の受け止められ方も大きく変わった。
「僕自身がやりたいのは、物語を語ること。それが、僕が映画監督である意味なんだ。映画を通して感動してほしい。政治的な理由で映画を作っているわけではないし、そこにプロパガンダを入れ込もうとも思わない。観客に影響を与えようとも思わないね」

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いっぽう『Summer of 85』で主役に抜擢されたことで、いま注目を浴びているフェリックス・ルフェーヴル。彼は、オゾンの目に留まった時には物語をよく知らなかったという。

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フェリックス・ルフェーヴル /Felix Lefebvre 1999年、フランス生まれ。駆け出しながら本作のオーディションでオゾンに見いだされ、「リヴァー・フェニックスの再来」と言わしめた。出演作はTVドラマシリーズ「ル・シャレ― 離された13人」や『スクールズ・アウト』(2018年)など。

「実はオーディションを受けた時は、オゾンという有名監督の作品ということだけで、どんな物語かまったく知らなかった。エージェントに受けるように言われたら、ノーと言えるような立場じゃなかったからね。でも翌日、オゾンが気に入ってくれたという電話をもらった。まるで天から宝物が降ってきたような気持ちだったよ」

オゾンが17歳の時に深く感銘を受けたというこの物語を、若き彼はどう受け止めたのだろうか。
「恋、そして大切な人を失うことを初めて体験して、幼虫が蝶になるように自立していく少年の話。特にアレックスと母親との関係は自分と似ている部分があり、シンパシーを感じたよ。ふたりの少年の恋愛だからLGBTQの映画のカテゴリーに入るかもしれないけど、この映画が素晴らしいのは、彼らの個人的な感情や愛にフォーカスしているところなんだ。初恋は、誰でも経験したことのある本物の感情。だからこそ、僕らはこの物語に共感できると思う」

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80年代を理解するためにオゾンからレクチャーを受けたというが、ロッド・スチュワートやマイケル・ジャクソンなど、80年代ヒットソングのプレイリストを作ったりして、当時の音楽や映画にどっぷり浸かったという。
「ダヴィドは、アレックスのファンタズムの結晶なんだ。彼が虜になった理由を理解するためにも、ダヴィドが影響を受けていた80年代のカルチャーを知ることが大事だったんだ」
本作で、フランスの権威あるセザール賞の若手有望男優賞にノミネートされた彼には、いま多くの出演依頼が舞い込んでいる。
「プロとして自覚が生まれ、俳優としても人としても学ぶことが多かった。その後、2本の作品を撮り終えたけど、アレックスのイメージを引きずらず、まったく違う役を演じられたと思う。伝説的なスポーツ選手や一芸に秀でた人物も演じてみたい役のひとつだよ」

『Summer of 85』
1985年の夏、ノルマンディの海辺の町。セーリングを楽しもうとヨットでひとり沖に出た16歳のアレックスは、突然の嵐によって転覆してしまう。ヨットで近くを通りかかった18歳のダヴィドが、アレックスに手を差し伸べる。運命の出会いを果たし、友情を超えた恋愛感情を持ち始めるふたりだったが……。美しき少年たちの初恋と永遠の別れ、ひと夏の恋を色鮮やかに切り取ったラブストーリー。8月20日より新宿ピカデリーほか、全国にて公開。
●監督・脚本/フランソワ・オゾン 
●出演/フェリックス・ルフェーブル、バンジャマン・ボワザンほか 
●2020年、フランス映画 
●100分 
●配給/フラッグ、クロックワークス 
●新宿ピカデリーほか、全国にて公開中。

*「フィガロジャポン」2021年9月号より抜粋

text: Atsuko Tatsuta

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