「目に見えない敵と戦ういまだからこそ観てほしい」ジョニー・デップが語った映画『MINAMATA』への思い。

インタビュー 2021.09.03

1970年代に熊本県水俣市で起こった、大企業が引き起こした水銀による公害事件。大企業による隠ぺい工作の中でその事実を世界に知らしめたのは、1冊の写真集『MINAMATA』だった。撮影者の名はユージン・スミス。第二次世界大戦で報道写真家として、サイパン、日本などで惨憺たる状況を撮り続けたジャーナリストだ。パートナー、アイリーン・美緒子・スミスとともに3年間にわたる過酷な取材を敢行。その姿をアンドリュー・レヴィタス監督が映画『MINAMATAーミナマター』というドラマに醸成した。

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ジョニー・デップとアンドリュー・レヴィタス監督

1971年、ニューヨーク。アメリカを代表する写真家のひとりと称えられたユージン・スミスは、いまでは酒に溺れ荒んだ生活を送っていた。そんな時、アイリーンと名乗る女性から、熊本県水俣市にあるチッソ工場が海に流す有害物質によって苦しむ人々を撮影してほしいと頼まれる。水銀におかされ歩くことも話すこともできない子どもたち、激化する抗議運動、それを力で押さえつける工場側──そんな光景に驚きながらもシャッターを冷静に切り続けるユージンは、チッソの社長からのネガを大金で買うという申し出を拒否したために危険な反撃にあう。追い詰められたユージンは、水俣病と共に生きる人々にある提案をし、彼自身の人生と世界を変える写真を撮る──。

劇中でユージンを演じ、本作のプロデューサーを務めたのはジョニー・デップ。本作を中心となって作り上げたふたりがオンラインの記者会見に登場、この映画に込めた熱い思いを聞いた。

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小さな漁村で実現できた「MINAMATA」の奇跡は、
世界中のどこでも実現できるはずだ

ジョニー・デップ

―今回、プロデュースを引き受けるにあたって思ったことは?

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ジョニー・デップ(以下ジョニー) 制作を引き受けることに、まったく迷いはありませんでした。もともと、ユージン・スミスという伝説の写真家の存在は知っていました。脚本を読んだ瞬間、これは映画化しなくてはいけないと確信したのです。この作品を通して伝えたいのは、水俣の人々が苦しんできた事実、そしていまもなお、世界中で同じような事態が繰り返されているということです。私たちはいま、目に見えないウイルスとも戦争状態にあります。この映画を通じて、企業や政府に腐敗が存在しうるということ、それを見逃してしまえば、本来摘発されなければならないことが世界にはびこってしまうことを思い出してください。

アンドリュー・レヴィタス(以下アンドリュー) ジョニーと打ち合わせしてすぐ、同じメッセージを共有することができました。それは、アーティストの存在価値は「人に何かを伝え、助けることにある」ということです。「観て楽しい」作品であるのはもちろん大切です。同時に、ユージン・スミスの写真を見た時のように、心奪われるような映画にする必要性を感じました。

水俣の皆さんの、いまも続く戦いを知ってもらう。工業汚染は水俣に限った話ではありません。この映画に、自分を、友人を、世界の状況を投影してほしいのです。この映画を作る時に、ユージン・スミスというアーティストの視線はとても効果的でした。非常にクリエイティブで詩的に、水俣の真実を伝えられると思ったのです。

ジョニー この映画は、まさにユージンというジャーナリストの視線を追体験するわけです。水俣という題材に初めて触れる若い世代にも、この作品が届くといいと思っています。

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「真田広之の献身と、役者としての姿勢に感動した」

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劇中では抗議活動の代表の役を演じる真田広之。©Larry Horricks

―撮影スタッフ、また真田広之、國村準、浅野忠行、美波といった日本の俳優陣についての思いはありますか?

ジョニー このパンデミックの中で、映画作りは極めて難しい状況になっていますが、最高のスタッフが揃い、みな全力で取り組んでくれました。監督のアンドリューは、多くの知識と適切なビジョンを持っていて、この映画に適任だと思いました。カメラマンは”カラヴァッジョ”の目を持つ天才、ブノワ・ドゥロームを抜擢。このふたりが世界観を作り上げてくれたので、俳優としての私は演技をするというより、その場に自由に存在して、起こっている事件に反応すればよかった。

日本の俳優陣は、直感的にこの作品の意味を理解してくれ、作品に重みと深みをもたらしてくれました。ヒロインを演じた美波さんは、実在したユージンのパートナー、アイリーンさんの勇気に敬意を表し、それを讃える演技を披露してくれたと思います。

真田広之さんは、とても献身的に作品に貢献してくれました。たとえば2日連続で撮影して、次の日がオフだったとしても、毎日現場にいらっしゃる。作品内の日本語の表記の監修を自ら買って出てくれたり、エキストラの皆さんの演技を助けてくれたり。若手俳優の演技の指導などもされていました。自分のことを顧みず、人のために行動する。一緒にいるととても楽しい方でした。そして、同時に集中力を失わず、俳優として、内的に自分を見つめることを忘れない姿勢に感動を覚えました。

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人間であることの傷を、抱えながら生きる。

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水俣病患者の入院病棟のメイキングシーン。©Larry Horricks

―ドキュメンタリーではなく、あえてフィクションに挑んだのは?

アンドリュー 映画を作る前に水俣を訪れ、患者の方、親類の方との時間を過ごしました。真摯に、どのような生活を送っているのかを「外から来たものの目線」で紹介したいと思っていたのです。それが、ユージン・スミスの目で記録をするということにもつながりました。

ユージンの目を借りて、水俣の人たちの英雄的な戦いを撮れたわけですが、同時に、水俣だけでなく、世界中に支援をされるべき人たちがいることに気付いてほしいのです。本来であれば政府や関係機関から支援を受けるべきなのに、それが受けられていない人たちがいる。この映画を観た人たちが、周りの人たち、世界中の困窮している人たちについて思いを馳せ、行動してほしいと思っているのです。いまは全く支援を受けられていなくても、声を上げることができるんだということを、勇気を出して現状に抵抗し、自分たちの存在を示せるんだという行動の一助になることを願ってやみません。

―ユージン・スミスというキャラクターは、どのように作り上げていったのですか?

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ジョニー・デップ演じるユージン。モデルとなったユージン本人の風貌にそっくりだったことも、大きな話題に。©Larry Horricks

ジョニー 私にはこの作品が本当に稀有な機会であること、特別な作品を作っているという自覚がありました。ユージン・スミスが生きてきた証、成し遂げたものを演じるという責任感を感じていたのです。

役作りに関しては、他の作品とまったく同じアプローチでした。まずリサーチをして、脚本の中にいるキャラクターをよく観察するんです。その中で、私にできることはなんだろうか、私が加えられるポイントはなんだろうかということを、私という俳優の人間性が見えすぎないようにアプローチしていきます。もちろん、彼のパートナーだったアイリーンさんが提供してくれた情報からもリサーチを行いました。

その中で見えたのは、ユージン・スミスが戦争時代に心身ともに、特に心に傷を負っていたということです。他の偉大なアーティストもそうした傾向があるのですが、ユージンはいろいろな経験をしてしまったがゆえに、自己破壊的な要素があったと思うのです。自分が創り出す芸術に、まだまだ納得がいっていない面がある。そして、彼は過剰に繊細な一面があったのではないか。それゆえに彼は気難しい隠遁者のようで、一般的に「いい人」という印象を持たれる人ではなかったのだろうと思います。

そんな時、あることを思い出しました。わたしの出演作『ラスベガスをやっつけろ』(1998年、テリー・ギリアム監督)の原作となった同名の本の中で、ドクター・ジョンソンという人物が冒頭でこんなセリフを語ります。

「獣と化せば人間としての苦悩から逃れられる」。つまり、彼は人間であることの傷を抱えながら生きているというセリフなのですが、これを書いた作家のハンター・トンプソンはユージン・スミスと同じ点があると思いました。「痛みを抱えている」、それは繊細であるがゆえに抱えてしまった痛みなのです。

アンドリュー 私はアイリーンさんに、ユージン・スミスはいつも目にどこか希望の輝きがある、そして人に寄り添う気持ち、愛が見える人だったと聞きました。ジョニーは、まさにそういう目を持っていると思います。どういう状況でも、スクリーンからそういうパワーがほとばしる。人々の状況がよくなって欲しいと願っている、そういうジョニーの思いが、アイリーンさんから聞いているユージンの姿に重なるんだと思います。

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水俣は世界で起きることの予兆だった。

―映画の製作前後で、世界は大きく変動しました。気持ちに変化はありましたか?

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ユージンのスタジオのメイキングシーンにて、ジョニーとアンドリュー。©Larry Hrricks

ジョニー 私の情熱はさらに高まりました。世の中には不正がたしかに存在します。犠牲を見なかったことにし、誰かの銀行口座が膨らんでいくおかしな状況が続いている。水俣で起きていたことは、その後世界にさまざまなことが起きる予兆に過ぎなかったのです。科学、政府、医療に何ができるかを考えた時、パンデミックでわれわれが何を失ったのかについても思いがおよびます。

私たちは愛する人たちから引き離されていき、近所の人を見る目すら変わってしまった。困っている人を見かけたら手を差し伸べるのが当たり前だったのに、そのことに恐怖を感じることもある。世の中の分断と孤立化が進み、非常に自己中心的な考え方をする習慣が根付きつつあるのです。人々に決定権はなく、一部に権力が集約してしまっている。そして腐敗が蔓延しています。政府や大企業は都合のいいことしか告知せず、必要な情報が手に入らない世の中になっている。

この映画は、それらを暴き出します。世界には腐敗が存在する、それを人々は動かすことができることを見せる。水俣という小さな漁村でできたことは、その他の多くの場所で実現できるはずではないでしょうか?

 

 「MINAMATAーミナマター」

●監督/アンドリュー・レヴィタス
●出演/ジョニー・デップ、真田広之、國村隼、美波、加瀬亮、浅野忠信、岩瀬晶子、ビル・ナイ
●2020年、アメリカ映画 115分
●配給/ロングライド、アルバトロス・フィルム
●9月23日(木・祝)TOHOシネマズ 日比谷他にて全国公開
© 2020 MINAMATA FILM, LLC 
longride.jp/minamata

 

text: madame Figaro japon

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