監督の宿題は、クールな店で料理がサーブされる感じ。
アニャ・テイラー = ジョイ|俳優
Netflixオリジナルドラマ「クイーンズ・ギャンビット」で、チェスの世界にて成功を掴む女性を演じ、ブレイクしたアニャ・テイラー=ジョイ。エドガー・ライト監督の最新作『ラストナイト・イン・ソーホー』で、スクリーンでも再び脚光を浴びている。
「エドガーとはこの映画の撮影が始まる3年くらい前に会ったんです。私がロバート・エガース監督の『ウィッチ』(2015年)に出た頃から応援してくれていて、今回の話も持ちかけてくれた。脚本はまだなかったけれど、すぐにおもしろそうな話だと思ったわ」
本作は、デザイナーを目指す学生のエロイーズが夢の中でタイムスリップした60年代で、歌手の卵のサンディ(アニャ・テイラー=ジョイ)に起こった出来事を追体験し、ある悲劇を知るというサスペンスだ。ジャンル映画でありながら、男社会であるショービジネス界の暗部を告発する#MeToo的な視点でも評価されている。
「自分の居場所を見つける苦労は、誰もが経験する普遍的な話。知り合いもいないのにどうやって映画界に入ればいいのか、模索していた時期があったので、とても共感できました。成功者たちのインタビューでは『運良く』なんてよく書かれているけど、そんなこと言われたって私の努力じゃ無理! って若い頃は思っていたから」

ロンドンのソーホーにあるデザイン専門学校に入学したエロイーズは、アパートでひとり暮らしを始める。ある日、夢の中で60年代のソーホーで歌手を目指すサンディに出会う。サンディに魅了されたエロイーズは、毎晩、彼女の夢を見るようになる。次第に身体も感覚もサンディとシンクロし、夢の中が現実に影響を与えるようになり、徐々に精神をむしばまれていく……。●『ラストナイト・イン・ソーホー』は、TOHOシネマズ日比谷ほか全国にて12月10日より公開。
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『ベイビー・ドライバー』(17年)でも音楽センスを高く評価された監督だが、スウィンギングロンドンと呼ばれたクールな60年代の音楽、ファッションやデザインも、今作の魅力のひとつだ。
「私が初めて好きになった音楽は60年代の曲だったので、今回は本当に楽しかった。16歳くらいの頃に聴いていた音楽ばかり。いつも役作りのために脚本に合わせて自分でプレイリストを作ったりするのだけど、今回はエドガーがオススメのCDやDVD、本をどっさりくれたの。でも宿題を与えられているというよりは、クールな料理が出てくるレストランに来ているような感じだった」
歌手の卵の役だけに、歌やダンスシーンも登場するが、これはアニャにとって大きな挑戦となったという。
「いつもシャワー中には歌っているのだけど、正直、カメラの前で歌うことは怖かったですね。でもエドガーが背中を押してくれたので、なんとか楽しく撮影できました」
浮き沈みが激しい世界で、幸運にも成功を掴むことができた。
「でも結局のところ、私がすることは、毎朝、起きて仕事に行くこと。仕事に対する愛着もどんどん強くなってきているので、この仕事がずっと長く続けられるように祈るばかり」
1996年、アメリカ・フロリダ州生まれ。アルゼンチンとイギリスで育ち、14歳で女優を志してニューヨークへ渡る。モデル活動やドラマ出演を経て、映画初出演となった『ウィッチ』(15年)がサンダンス映画祭で上映され、高評価された。
*「フィガロジャポン」2022年1月号より抜粋
text: Atsuko Tatsuta