SNSや出会い系アプリに疲弊した世代の歌。
ウェット・レッグ|ミュージシャン
BBCや「ザ・ガーディアン」が大絶賛する、UKでいま最もホットなアーティスト。そんな前評判に躍らせられまいと思っても、ウェット・レッグに関しては興奮を抑えきれない。衝動的で知性があって、それでいてこの上なくポップなセンスのロックンロールは、聴く者の心を鷲掴みにするパワーを持っている。ロックフェスで知られる英国のワイト島で結成された、リアン・ティーズデイルとへスター・チャンバースによるウェット・レッグの初アルバム『ウェット・レッグ』について、リアンに話を聞いた。
「私たちは大学で出会って、友だちのバンドでバックボーカルをしていた。すごく楽しくて各地のフェスを回った後、次は自分たちのバンドでフェスに出ようと思って結成したの」
なぜデュオなのかを問うと「誰も私たちに加わりたがらなかった」と笑うが、すでに5人のバンド編成でライブ活動を行っており、アルバムでもロックバンド然としたサウンドを聴かせてくれる。
「歌詞とメロディとコード進行は一度にできるの。アレンジはたいてい最後に遊んでいる。でも、そこが私たちにとって最も重要な部分かもしれない。レコーディングではダン・キャリーがプロデュースをしてくれたのだけれど、まるで魔法使いのようだった」
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ストレートなビートとキャッチーなフレーズが一体となった彼女たちのロックチューンは、心地よい疾走感に満ちあふれている。キングス・オブ・レオン、ヴァイアグラ・ボーイズ、PJ・ハーヴェイといったエッジの効いたパンキッシュなアーティストからの影響を公言するだけあって、快楽的なサウンドが満載。しかしその半面、歌詞はかなり辛辣でメディアやSNSへ批判も感じられるのだが、そのうえでユーモアを忘れないのも彼女たちの個性だ。
「パーティで嫌な思いをしたことや、元カレに辛辣な言葉を投げかけたりすることを歌っているの。歌詞にメッセージを込めるより、むしろ私自身や私が出会った人たちに起こったことを語っているだけ。みんなソーシャルメディアや出会い系アプリの時代に疲弊し、幻滅している。私たちも間違いなくそのひとりだし、こういった歌詞が生まれるのも自然なこと」
殺伐とした現代社会が背景にありながら、決してディストピア的な描き方をするのではなく、最終的にハッピーな雰囲気に落とし込む彼女たちの音楽は、いまの時代に最も必要ではないだろうか。
「音楽は楽しいものであるべき。自己満足なものだから、それが楽しくないとなると、そこに何の意味があるのかな?」
英国ワイト島出身のリアン・ティーズデイルとへスター・チャンバースによる女性ふたり組ロックグループ。2021年に登場してすぐ精力的にライブを行って話題となった。イギー・ポップが絶賛したほか、メディアの評価も高い期待の新人だ。
*「フィガロジャポン」2022年6月号より抜粋
text: Hitoshi Kurimoto translation: Mami Tamada