韓国の“演技ドル”の新境地とは?
イム・シワン|シンガー、俳優
K‒POPは世界の音楽界でひとつのジャンルとして確固たる地位を築いているが、実は優れた若手俳優の宝庫でもあり、“演技ドル”なる俗語も存在する。そんな中で頭ひとつリードしている実力派が、ボーイズグループZE:A(ゼア)出身のイム・シワンだ。大ヒットドラマ「太陽を抱く月」(2012年)で俳優デビュー後、主役に抜擢された「ミセン –未生–」(14年)は、大ブームを起こした。
「何よりも演技は遊んでいるように楽しく仕事ができるのが、いちばん大きな魅力です。もちろん“仕事”なんですけど、演技の勉強のためという口実で映画やドラマを観ることができるし、僕にとって、この仕事はご褒美のように感じられるんです」
『ザ・キング』(17年)などのヒット作を手がけるハン・ジェリム監督の『非常宣言』では、ソン・ガンホ&イ・ビョンホンという二大スターと共演し、カンヌ国際映画祭にも参加するなど注目を集めた。「ミセン」では逆境を乗り越え成長していく等身大の若者を体現し、共感を得たが、本作ではバイオテロを仕掛ける若き科学者という悪役を演じている。人懐っこい普段のイメージとかけ離れた役は、若き演技派の面目躍如といえるだろう。
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「いままで演じたことのない役のオファーは積極的に受けたい。それが俳優の醍醐味ですから。今回のリュ・ジンソクという役は、映画ではその背景をほぼ省かれています。でも僕は、彼がこれまでどんなふうに生きてきたのか、その個人史を自分なりに考えました。人であれ国であれ、歴史は大事。彼がなぜそういう行動をするにいたったのか、感情を作り上げるうえでも役作りにおいても重要なポイントでした。もちろん、共感はできない役でしたけどね」
あくまでも個人的な考えと前置きをして、シワンはこの“悪役”の半生をじっくりと語ってくれた。社会から阻害されたことによって被害者意識が歪曲されて肥大化し、やがて、自分こそが悪を断罪できる存在だという使命感を持つようになる……。運動が得意でヴァイオリンを奏で、ルービックキューブが好きだという、シワンの多面性が垣間見られる興味深い瞬間だった。
「俳優としては、まったくの発展途上の状態だと自覚しています。イ・ビョンホンさんたちに演技のコツをお伺いしたい気持ちはあったのですが、そんな大それたことはできず、ただ傍らで観察していました。発見したのは、素晴らしい役者はカメラの前に立つだけで人を惹き付けてしまうということ。その術はまだわかりませんが、インスパイアされっぱなしだったことは確かです」
1988年、韓国・釜山広域市生まれ。2010年、ボーイズグループZE:Aのメンバーとしてデビュー。12年に「太陽を抱く月」の子役で俳優デビュー。アイドルと俳優を兼業する“演技ドル”の草分け的存在に。『名もなき野良犬の輪舞』(17年)に出演。
*「フィガロジャポン」2023年2月号より抜粋
text: Atsuko Tatsuta