自然の暮らしが本物の音楽家にしてくれた。
ガブリエル・アプリン|ミュージシャン
両親の影響で聴いていたブルースやフォークをルーツに、エレクトロニックやポップを融合し、ガブリエル・アプリンは幅広い音楽活動で表現力を磨いてきた。過去には、日本人ミュージシャンとのコラボレーションも実現している。近年は、イギリス南西部のサマセットを拠点に活動中だ。
「いろんな意味で外部と距離感をとった暮らしをしています。それが私の音楽作りにいい影響を与えているのは確かですね。時代のトレンドや商業的な感覚に惑わされず、自然体な自分を追求できるようになりました。ようやく本物の音楽家になれた気分」
2年ぶりに完成させたアルバムは、物質が光を発する現象を指す燐光をタイトルにした。アートワークも、ナチュラルでありながら幻想的な光を反射したようなものに仕上がっている。
「今回は、できる限り自然の放つエネルギーをたくさん取り入れたものにしたかったんです。これまで経験したことを表現し、自分の人生を捧げるようなアルバムを制作したいと思っていました」
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これまでは外部のプロデューサーとタッグを組んで制作することが多かったというが、本作ではピアノやギターを用いて、ほぼ自身で完成させた楽曲が揃っている。
「これまでたくさんの人と仕事をしてきたことで、気付かないうちにソングライターとしての力をつけてきていたみたい。目から鱗のような体験でしたね(笑)」
休日のゆったりとした朝の風景を感じさせる楽曲から、満天の星の下で身も心も解放させるようなエレクトロニックなダンストラックまで、優美なストーリーを感じさせる構成だ。
「晴れたスローな朝から始まり、素晴らしい夜を体験して最高の一日が終わるような構成にしたかったんです。そのほかの楽曲も、いままでにないくらいまとまりあるものになりました。あまり決め込みすぎず、その日の気分で作った、導かれたようなアルバムです」
戦略的に楽曲を制作したわけではない。若くして世界中に名を轟かせた彼女だが、デビュー盤をリリースして2023年で10年になる。今後は、もっと肩の力を抜いて音楽と向き合いたいと語る。
「いままでの経験すべてが、私にとってのマイルストーンです。それを糧に、ミュージシャンであることを誇りに思えるような音楽を残していきたいですね」
さまざまな経験を積んだからこそ生まれたゆとりの音楽が、自然に暮らすことの大切さを教えてくれる。
1992年、イギリス・ウィルトシャー生まれ。2013年に発表したデビュー盤『イングリッシュ・レイン』が全米チャート2位を獲得し、日本でも映画のテーマ曲に起用されて人気に。23年1月からイギリスツアーがスタートする。
*「フィガロジャポン」2023年2月号より抜粋
text: Takahisa Matsunaga