「太陽のような音楽」を奏でる、若き鬼才。
ブルース・リウ|ピアニスト
2021年のショパン国際ピアノコンクールにおいて、優勝の栄冠に輝いたのはカナダ国籍のブルース・リウ。第1予選から本選にいたるまで、常に聴き手の心に深く浸透する上質で表現力に富む演奏を展開し、耳の肥えた審査員と聴衆を魅了した。その後、名門レコード会社ドイツ・グラモフォンと契約を結ぶ。世界各地で一流のオーケストラと共演、活発な演奏活動を展開してきたが、今回は初めてのスタジオ録音が登場した。『ウェイブス~フランス作品集』と題されたアルバムでモーリス・ラヴェル、ジャン=フィリップ・ラモー、シャルル=ヴァランタン・アルカンという200年にわたるフランス作曲家たちによる鍵盤音楽の作品が選ばれている。
「僕はフランスで生まれたため、フランス音楽をぜひ収録したかった。ラモーは昔から大好きなのですが、いい曲が多いため選曲はかなり悩みました。1曲目の『ガヴォットと6つのドゥーブル』はキャッチーな曲なので、これで幕開けしたいと考えたのです」
こうしたバロック音楽の場合、ブルース・リウはチェンバロをかなり意識するそうだが、現代のピアノのよさを生かしたいと考えた。
「チェンバロ奏者で歴史に名を残すワンダ・ランドフスカとラルフ・カークパトリックが大好きで、昔から録音を聴いています。チェンバロは強弱表現が難しく、右手と左手を微妙にずらすなど独特の奏法が存在する。現代のピアノはより表現が豊かになり、とても自由です。僕はそれを存分に生かすようにして演奏しています」
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ラヴェルからは組曲『鏡』が選ばれ、5曲とも個性的な演奏だ。
「5曲のキャラクターを生かす演奏を心がけました。パリ郊外ランブイエの森近くのモンフォール・ラモリーには、ラヴェルの住んだ家が残っていて見学できます。そこを訪れ、ラヴェルの完璧主義、ウィットやユーモア、デリカシーなどが理解でき、それらが作品に投影されていることに気付きました。ラヴェルの音楽は高貴で完璧な美を備えています。弾けば弾くほど魅了されてしまうのです」
ここにアルカンという、あまり演奏されない作曲家が加わった。
「多作家で、素晴らしいピアニストだったようです。『舟歌』『イソップの饗宴』を選び、両曲の異なった個性の対比を描きました。超絶技巧が出てきますよ。アルカン、ぜひ覚えてください!」
ブルース・リウは陽気で率直な性格。演奏も「太陽のような音楽」と称され、聴き手の心を温かく包むが、その奥に作品の真意をひたすら探求し、常に新しい面を見出そうとする精神が潜む。その姿勢こそが彼の演奏の醍醐味であり、また最大の美質である。
1997年、フランス生まれ。2021年にショパン国際ピアノコンクールで優勝後、直ちに世界ツアーで名だたる交響楽団と共演。今年10月、24年2月に来日、サントリーホールをはじめ全国各地での公演が予定されている。
*「フィガロジャポン」2023年12月号より抜粋
photography: Christoph Köstlin text: Yoshiko Ikuma