リメイクだからこそ、私たちの物語を語りたかった。
ロマン・デュリス|俳優
製作費約300万円の日本インディーズ映画ながら大ヒットし、社会現象にまでなった『カメラを止めるな!』(2018年)がフランスでリメイクされた。この『キャメラを止めるな!』の監督は、『アーティスト』(11年)で米国アカデミー賞5部門を制覇したミシェル・アザナヴィシウス。主演は『真夜中のピアニスト』(05年)などで知られる、スター俳優ロマン・デュリスという豪華な布陣。映画愛に満ちた“キャメ止め”が今年のカンヌ国際映画祭のオープニングを飾ったのは、デュリスにとってうれしいサプライズだった。
「オープニングになると聞いて、本当にうれしかったですね。映画を作っている人たちすべてに見てもらいたいし、笑ってもらいたい作品ですから。製作中はまったく予想していませんでしたが、カンヌでプレミア上映されたことは素晴らしい機会だったと思います」
そもそもフランスのスターがなぜ日本の低予算コメディのリメイクに興味を持ったのだろうか。
「カンヌでこの作品を初めて観た観客と同じように、私も日本のオリジナル版を観た時、本当に驚いたんです。映画が始まって数十分の間、前情報なしで見たら戸惑わない人はいないと思います。映画の中で迷子になってしまう……というか、何か間違ったものを観ているのかと不安になります。しかし、それを通り過ぎて、この映画の構成がわかり始めると夢中になる。本当にこのオリジナル版が大好きでした。そして、私はプロジェクトの規模で出演作を選びません。予算の額にも興味がないんです。もし私がよい映画に出ていると思われているならば、それは、低予算の作品でもその場しのぎの作り方をせず、工夫のもとにしっかりと製作できるスタッフたちと一緒に仕事をしているせいかもしれません」
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30分ワンカットで撮られるB級映画とその製作の顛末で構成された『キャメラを止めるな!』は、ストーリーはほとんどオリジナルと同じだが、“日本で大ヒットした映画のリメイク”という設定を新たに加えることによって、単なるリメイク以上の作品になっている。
「ある意味オリジナルから解放され、私たちの物語を語らなければならないので、フランスの文化や映画産業にまつわる要素も取り入れました。アザナヴィシウス監督は知的で愉快な脚本を書き上げてくれたので、前のめりでこの企画に参加できました」
映画界全体にエールを送っていることも需要な点だと強調する。映画の作り手たちが困難を極める時代、この映画で描かれるようなインディペンデント映画の存在がさらに重要になっていくだろう。
1974年、フランス・パリ生まれ。演技経験なしでスカウトされ、セドリック・クラピッシュ監督『青春シンドローム』(94年)でスクリーンデビュー。主演作『真夜中のピアニスト』(2005年)がアカデミー賞外国語映画賞を受賞し、国際的名声を得た。
*「フィガロジャポン」2022年9月号より抜粋
text: Atsuko Tatsuta