『Rodeo ロデオ』が描く、男性目線の心地悪さからの脱却とは?

インタビュー 2023.06.02

『TITANE/チタン』(21年)のジュリア・デュクルノー、『あのこと』(21年)のオードレイ・ディヴァンなど女性監督の躍進が目覚ましいフランス映画界からまたひとり新星が登場した。2022年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門で、長編デビュー作『Rodeo ロデオ』で“審査員の心を射抜いた”という意味のクー・ド・クール・デュ・ジュリー賞を受賞したローラ・キヴォロンだ。

ヘルメットを装着せずにアクロバティックな技を操りながら公道を全速力で疾走する「クロスビトゥーム」というバイカー集団に入り込み、自分の存在を証明しようとする女性ジュリアを主人公とした本作は、ジェンダーについての深い洞察に満ちた作品としても注目を浴びている。ノンバイナリーを公言するキヴォロンが、記念すべきデビュー作に込めた思いとは?

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――あなたはフランスの名門映画学校フェミス卒ですが、在学中に撮った短編でも『Rodeoロデオ』に共通する男性社会に乗り込んでいく女性という設定で、ジェンダーにまつわるさまざまな批評的な表現をされていますね。映画界における女性性の捉えられ方、描かれ方には、以前から疑問を抱いていらっしゃったのでしょうか?

子どもの頃から物事を俯瞰して見る傾向があり、男性が持つ特権性、あるいは世の中が男性中心に回っていることなどを強く感じとっていました。私には弟がいるのですが、自分と男性である弟の扱いが明らかに違うことも感じていました。さらに成長するにしたがって、自分の中で男と女とを分けて考えることに対して疑いを持つようになりました。特に言葉によって、何かを決めつけてしまう傾向がある。私自身はノンバイナリーであり、ジェンダーに関しての自認は水のように流れる存在であると感じています。常に動いていることで得られる自由や、既成概念に囚われない自由を得られるように思います。凝り固まった定義にこだわらないものの見方、違う観点から世界を眺めることによって、物語の作り手としても豊かになったと思います。

――ノンバイナリーという言葉がありましたが、男社会の中でノンバイナリーとして生きること自体が、既存の社会に対する抵抗なのでしょうか?

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バイクに乗って風を浴びている時だけ、その束の間、彼女たちは自由を感じることができたーー。© 2022 CG Cinéma / ReallyLikeFilms

確かに、私は男性からの眼差しを常に意識していました。『Rodeo ロデオ』のジュリアは常に男性の視点に晒されています。男性が見るのは、女性の体躯や顔という身体的なレベルに留まっている。ジュリアは“見知らぬ人”と呼ばれますが、それはハリウッドの西部劇でよく見かける“よそ者”に通じます。ただ、そうした男性の期待を裏切ることで、“闘う”ことができるのだと思いました。自分で自分自身を決めつけない、男性や女性の既存の定義に当てはめないことで、逆に自由になれる。私自身は男性からの眼差しを受け流すこともあるし、弄ぶこともあります。そういうカタチで男性社会における男性からの眼差しに対抗しています。ノンバイナリーであること自体は大変なことではありません。他者からの抑圧的な視点に耐えることのほうがよっぽど苦痛です。ジュリアは大きな怒りを抱えていますが、あれは他者、主に男性からの視線に晒されるままにはしておかない、という強い意思の現れなのです。

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――あなたは「クロスビトゥーム」というバイカーグループの中に、実際に入り込んで取材をされたと聞いています。あなた自身は、そのグループの中で居心地の悪さを感じたのでしょうか?

映画の中でジュリアが置かれているのは、男性社会の規範を象徴させた世界なので、私が体験した世界とは異なっています。私自身は彼らと出会った初日に彼らの練習を見に行ったんですけど、その時から非常に快く受け入れてもらいました。というのも、私はカメラマンという役割があったので、特に女としてその輪に入ることの居心地の悪さは感じずにすみました。あえて居心地が悪かったことと言えば、その場にいる女性たちの扱われ方ですね。トレーニング場に来ている女性は、ほとんどはバイカーの彼女たちで、大体みんな車の中で待っているんです。そういう人たちを見て何かしら心地悪さは感じましたが、私自身は水を得た魚のように、非常に自由な気持ちでいることができました。

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描かれるのは、バイクを中心にした徹底した男性主義的な社会だ。© 2022 CG Cinéma / ReallyLikeFilms

――ジュリア役にジュリー・ルドリューを選んだ理由は?

ジュリー・ルドリューとの出会いによってジュリアというキャラクターが出来上がりました。そもそも外見よりも、内に秘めている怒りや暴力性といった、目に見えないものを重視していました。実際に映画の中で、彼女は美しく見えたかと思うと、突然怒りによって、まったく一変してしまったりもする。私は、彼女の内面で起きていることが、外側にどう出てくるかということに興味がありました。ちなみに、ジュリーは徹底した役作りを経て演じていて、実際の彼女はあの役柄とは実はまったく違うタイプの女性ですよ。

――ドミノの妻オフィリーは、男性社会の価値観に慣れてしまった女性として登場しますね。ジュリアと対照的に描いた理由は?

オフィリーは、確かにある意味ステレオタイプな女性として描かれています。夫は監獄にいるけれど、彼女はそんな夫に縛られている。彼女がいくら着飾っても、化粧しても、誰のためにしているのかすらもわからない。ただ、ジュリアがオフィリーに出会うことは、非常に大切です。ジュリアは男勝りのところがあるので、もしかしたら女性のことが嫌いなんじゃないかなと、観客は思うかもしれないんですけど、むしろオフィリーに一種の母性であるとか女性性をジュリアが感じるということが大切だと思いました。ジュリアが暴力を受けた時にオフィリーは手当をし、ふたりはお互いに理解し合います。つまり、女性の在り方も必ずしもひとつではなくて、いろんな在り方があるということを私は示したかったのです。

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――あなたはこの映画についての別のインタビューで、「女のチンピラが見たかった」と言っていますね。とてもユニークでおもしろいと感じました。そう感じるようになったきっかけは? そして、「女のチンピラ」の定義は何でしょうか?

私はアクション映画やギャングが出てくるようなフィルムノワールが好きなんです。たとえばマーティン・スコセッシの『タクシードライバー』や(フランシス・フォード・)コッポラの作品だとか。ただ、このジャンルの映画には女性の主人公はほぼいません。若い頃は、そういう男性の登場人物に自分を同一化させていたのですが、それにはかなり無理があったと思います。やはり“男の世界”ですから。「男のチンピラ」がいるなら「女のチンピラ」がいてもいいんじゃないかと思いました。優しい男がいてもいいように、暴力的な女性がいてもいい。私にとって男と女、生と死、夢と現実などは、はっきり分けられるものではないんです。男と女がいるのではなく、人間がいるというだけ。そういう思考の過程を経て、ジュリアのような人を主人公にした映画を撮りたいと思いました。ジュリアは、『理由なき反抗』のジェームス・ディーンの女性版です。あるいは『タクシードライバー』の主人公トラヴィスのような、非常に不透明でよくわからないミステリアスな人物です。

――女性の暴力性ということでは、ジュリア・デュクルノーの『TITANE/チタン』の主人公もかなり暴力的でしたね。デュクルノー監督には親近感を感じますか?

デュクルノー監督は、実際に会ったことはないんですけど、とても近いものを感じています。なので、彼女の作品と関連づけて観てもらえるのはうれしく思います。彼女の場合は、どちらかというと怪物性とか、死への衝動などを主に語られていると思いますが。他にも多くの女性監督がいますが、あまり枠からはみ出さない、つまりルールに則った形で物語を描いていたり、ヘテロセクシャルな価値観に基づいたスタンダードな見方で手がけている人が多い気がします。ただ、#MeToo運動以降は女性たちが力を持ち始め、どうしたらこれまでと違うやり方でやっていけるだろうかと意識し、動き始めていると思います。いまあるシステムを脱構築していくことで、新しい表象が生まれてくるのではないでしょうか。

『TITANE/チタン』の主人公も、今作のジュリアも、ある種ウィルス的な存在であり、クリエイティブな存在ともいえます。女性が媒介となって世界を変えていくことは、境界線を越えること。そういうカタチで私は世の中の価値観をひっくり返したいと思います。次回作では、私はマフィアの世界を描こうと思っていますが、女性が主人公になる予定です。

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Lola Quivoron/1989年、パリ生まれ。現代文学を学んだ後、映画の修士課程に進む。2012年、映画学校フェミス(Fémis)の監督コースに入学。彼女の中篇作品『Son of the Wolf』(2015年)は、ロカルノで開催されたPardi di domani - Concorso internazionaleで賞を獲得。
『Rodeoロデオ』
●監督・共同脚本/ローラ・キヴォロン
●出演/ジュリー・ルドリュー、ヤニス・ラフィ、アントニア・ブレジほか
●2022年、フランス映画 105分
●配給/リアリーライクフィルムズ、ムービー・アクト・プロジェクト 
●6月2日より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国にて順次公開
www.reallylikefilms.com/rodeo

 

text: Atsuko Tatsuta, photography: Mirei Sakaki

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