クリエイターの言葉 画面に映らない"余白"を追求した、父親の内面を探る旅......『aftersun/アフターサン』
インタビュー 2023.06.08
画面に映らない“余白”を追求して。
シャーロット・ウェルズ/映画監督
昨年のカンヌ国際映画祭の批評家週間で上映され、スタジオA24が北米配給権を獲得するなど、すでに大きな話題を呼んでいる『aftersun/アフターサン』。短編が高い評価を得てきたスコットランド出身の新鋭、シャーロット・ウェルズ監督にとって初めての長編となる。
11歳のソフィがトルコのリゾート地で父親、カラムと過ごした夏休み。家庭用小型カメラの映像や90年代の音楽をちりばめながら、大人になったソフィの視点で思い出が綴られる。
「自伝ではありませんが、パーソナルな要素もたくさん入っています。私自身、何年もかけて過去の思い出を振り返ってきたので、この映画を撮ることは私にとってセラピーであり、父親の内面を探る旅でもありました。どんな記録も完全ではないからこそ、そこに映っていないものや感情を探し求めるのだと思います」
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父と娘の親密な空気感を生み出すために、キャスティングには多くの時間を割いたという。娘を深く愛しながらもどこか不安定な父親を演じたポール・メスカルはアカデミー賞主演男優賞候補となり、一気に若き演技派俳優として知られることになった。
「最初にソフィ役のフランキー・コリオをオーディションで選ぶまでに半年ほどかかりました。その後、ポールがカラムを演じることが決まり、撮影に入る前に絆を深めてもらうために2週間ほど一緒に過ごしてもらったんです。トルコで本当に休暇をとっているような時間を過ごしながら、ふたりが意気投合してくれたことは本当にラッキーでした。ポールは彼女にアイスクリームを買ってあげたりしていたようです(笑)。彼は役者としても、人間としても素晴らしい人。ポールがこの作品を信頼してくれたお陰で、役者と関係性を深めていくという長編ならではの喜びを感じることができました」
監督が目指したのは物語や人物の輪郭をくっきりと描くのではなく、余白を残す作品だ。五感が研ぎ澄まされるような詩的な映像や音が心に残り、エンディングも含めて解釈は観客に委ねられるが「どのように受け取ってもらえるのか不安だった」と胸の内を明かす。
「カンヌで上映した後で、うつ病に悩んでいたという青年が『カラムが抱える苦しみを優しく、正確に描いている映画だと思う』と伝えてくれました。違うところで上映をした時にも同じような声が聞こえてきましたし、『家族に連絡をしたくなった』という反応もありましたね。悲しい側面がある映画かもしれないけれど、希望も感じてほしい。日本の観客のみなさんにも、ソフィの中で父親の愛情が生き続けていることを感じてもらえたら、と思っています」
1987年、スコットランド生まれ。ロンドン大学キングスカレッジ古典学部で学び、オックスフォード大学でMA(文学修士号)を取得。その後、ニューヨーク大学ティッシュ芸術学部へと進み、3本の短編を製作した。
*「フィガロジャポン」2023年7月号より抜粋
text: Mika Hosoya