クリエイターの言葉 常習的なレイプ事件に対し、女性たちはどう向き合ったのか......。『ウーマン・トーキング 私たちの選択』
インタビュー 2023.07.05
女性の尊厳と子どもたちの未来のために。
サラ・ポーリー/映画監督
長編デビュー作『アウェイ・フロム・ハー 君を想う』(2006年)や自らの出生の秘密に迫るドキュメンタリー『物語る私たち』(12年)で映画監督としての類まれなる才能を開花させた俳優のサラ・ポーリー。
10年ぶりにメガホンを取った『ウーマン・トーキング 私たちの選択』は、人の感情に寄り添うサラの、監督としての美点が最大限に生かされた深い洞察に満ちた傑作だ。ある宗教のコミュニティで起こった常習的なレイプ事件に対し、“黙って赦す”、“残って闘う”あるいは“コミュニティから出ていく”という選択肢を巡って女たちが話し合う様が描かれる。牧歌的な風景、テレビや携帯のない簡素な暮らしや服装、読み書きができない女性たちの描写から、はるか昔の物語だと勘違いしがちだが、自動車が登場することで時代は現代であることが仄めかされる。
「この映画は2000年にボリビアのメノナイト(キリスト教の一宗派)のコミュニティの中で起きた事件にインスパイアされたミリアム・トウズの小説が原作です。実際に彼女たちが受ける教育はとても限られたものでした。興味深いのは、読み書きができなくても対話したり自己決定したりする能力はあること。この映画で表現したかったのは、人間として生まれたならば、人は議論し民主主義を実行し、よりよい世界を創れるということ」
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三世代の女性たちがそれぞれの視点、立場から白熱した議論が展開される。犯人への怒り、男性によって作られてきたヒエラルキー、それを容認してきた自分たちの在り方。父親を知らない子どもを宿した主人公を演じるルーニー・マーラを始め、ジェシー・バックリー、クレア・フォイ、そしてプロデューサーでありこの企画の発起人のフランシス・マクドーマンドらが自分たちはどう生きるべきかを模索する。そのアンサンブルは圧巻で、連帯感さえ感じさせる。
「私は完璧な“劇団”を作ることを目指していました。いい映画を作ること以上に、参加してくれた人がいい経験を積めることを望んでいたからです。誰も犠牲になることもなく、いい作品が作れることを証明したかったんです。」
生まれたばかりの赤ちゃんを連れて撮影に望んだルーニー・マーラを筆頭に、サラが作った映画界における働き方改革の新基準は出演者たちから大きな支持を得ている。アカデミー賞で脚色賞を受賞したサラは、映画中、若い母親が赤ちゃんに語る「あなたたちの物語は、私たちのものとは違う」という言葉を引用。女性たちの悲劇を元にしているが、この映画は未来に向かって開かれているのだ。
1979年カナダ生まれ。映画関係者である両親の影響で子役からキャリアを積み、『スウィート ヒアアフター』(1997年)『死ぬまでにしたい10のこと』(2002年)などで多くの俳優賞を受賞。06年に長編監督デビュー。
*「フィガロジャポン」2023年7月号より抜粋
text: Atsuko Tatsuta