垣根のないアイスランドの音楽を美しく伝えたい。
レイヴェイ|ミュージシャン
ビョークやシガー・ロスをはじめ、幻想的な風景を感じさせるサウンドで独特の存在感を放つミュージシャンが多数登場している北欧・アイスランド。そこで広がる日々の移ろいをジャズやクラシックをベースにしたサウンド、低音の効いた艶やかなボーカルで表現しているレイヴェイ。先日開催したブルーノート東京での彼女のパフォーマンスは、会場を埋め尽くした観客に優美な時間を提供した。
「私の音楽は母国の美しい景色に強く影響を受けているし、その自然をおとぎ話のように感じとっている気がします。とても小さな国なので、ジャズやクラシック、ポップスといった垣根があまりなく、さまざまなジャンルに影響を受けながら、クリエイションしています。だから、私の音楽も自然といろんな要素が混ざった楽曲になっているんだと思いますね」
今年5月に発表され大きな話題を呼んだ新曲「フロム・ザ・スタート」はボサノヴァテイストを交えた、この季節にふさわしい透明感のある楽曲に仕上がった。発表からわずか1日で100万回再生を突破するという記録を打ち立てた人気ぶりだ。
「前作は『自分はこれまで胸を焦がすような恋に落ちたことがない』ということを、冗談めかして表現したのですが、その後には出会いもあって。まぁ、いつまで続くかわからないのですが(苦笑)、この想いを大切に、そしてちょっとユーモアを交えて描きました」
この楽曲を含むセカンドアルバム『Bewitched』を秋に発表する。
「1枚目のアルバムを発表して感じたことは、多くのリスナーがオーセンティックなジャズやクラシックの楽曲に興味を持っているということ。だから、今回のアルバムでは、そういう部分に焦点をあてて、ライブレコーディングにこだわって制作しました。また、最初から最後までストーリーのある展開にしたことで、映画やミュージカルを観ているような気分を味わっていただけたら」
今後はもっと幅広いリスナーにジャズやクラシックの魅力を伝えていきたいという。
「私にとってポップスとは、自分が等身大で聴く音楽という印象ですが、ジャズやクラシックは360度で身体に響くもの。その空間の緊張やリラックスをサラウンド(五感)で感じられる、実はボーダーのない音楽であることを伝えられたら」
俯瞰で物事を見つめ、そこから美しいものを抽出し、審美眼を高めたいと語る彼女。これからもさらに日々を芳醇にする音楽を紡いでいくのだろう。
1999年、アイスランド・レイキャビク生まれ。幼い頃から音楽に親しみピアノやチェロを演奏。米バークリー音楽大学へ進学後、2022年に発表したデビュー作『Everything I Know About Love』は4億回以上の再生数を記録。
*「フィガロジャポン」2023年9月号より抜粋
photography: Mirei Sakaki text: Takahisa Matsunaga