異なる愛の言葉を持つからこそ、共存できる。
アンドリュー・スコット&ポール・メスカル|俳優
大林宣彦監督による同名の映画やラジオドラマ、舞台などの原作としても知られる山田太一の傑作小説『異人たちとの夏』が、『さざなみ』(2015年)で知られるイギリスのアンドリュー・ヘイ監督の手によって再映画化された。英国インディペンデント映画賞で最多7冠制覇の立役者となったのは、アイルランド出身のふたりの気鋭俳優である。主人公アダムを演じるのはドラマ「SHERLOCK /シャーロック」の印象的な黒幕、モリアーティ役で英国アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞した名優、アンドリュー・スコットだ。
「ヘイ監督の書いた脚本は完璧でした。形而上学的であり、スリラーやホラー的な要素もあり、とても感動的だった」(スコット)
個人的な物語として脚色したというヘイ監督は、主人公アダムのセクシュアリティをゲイに設定し、アイデンティティの模索という新しい核を設けた。幽玄的な美しさとロマンティシズムを纏った物語は、同性愛がまだ完全に受け入れられていない時代に育ち、傷ついたアダムの心の旅でもあるのだ。アダムと親密な関係に落ちる同じマンションに住むハリーを演じるのは、『aftersun/アフターサン』(22年)でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされ、リドリー・スコット監督の新作『グラディエーター2』の主役に抜擢され、世界的な注目を集めている28歳の新鋭、ポール・メスカルである。
「この映画は、観る人に自分の両親との関係や過去における恋愛関係を振り返らせてくれます。愛の形について、あるいはどのように人を愛するかについての物語でもある。私たちは、過去からしか学ぶことはできません。過去が、現在や未来を決定づけるのです。この作品は難しい問いをエレガントに投げかけてくる」(メスカル)
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孤独感、親密さ、"男らしさ"という定義への疑問、社会の寛容性といった今日的なテーマを内包した本作は、実際にLGBTQコミュニティにも大きなインパクトを与えているという。
「人類が誕生して以来、異性愛以外のさまざまなセクシュアリティが存在する。私たちが取るべき合理的な選択肢は、闘いではなく、すべての異なるタイプの人々がともに生きることなんだ。私はゲイだけど、ゲイにも多様性がある。女性的なゲイだからといって男性でなくなることはない。男はいろんなタイプになりうるし、女性も然り。つまりありのままでいい、ということ」(スコット)
「僕も、異なる愛の言葉を持つ人々は共存できるのだと思う。それぞれの違いを痛感するからこそ、お互いにコミュニケーションをとり、相手を理解しようと思うものだからね」(メスカル)
右:アンドリュー・スコット。1976年、アイルランド生まれ。舞台でも活躍、2度のローレンス・オリヴィエ賞を受賞。 左:ポール・メスカル。96年、アイルランド生まれ。初主演のドラマ「ふつうの人々」(2020年)で英国アカデミー賞主演男優賞を受賞。
*「フィガロジャポン」2024年5月号より抜粋
text: Atsuko Tatsuta