クリエイターの言葉 「環境破壊は『水面化』で進行している」ニコラ・フロックが描き出す、世界の本当の姿とは?

インタビュー 2024.04.23

抽象的な水の色は、生物についての物語を語る。

ニコラ・フロック|アーティスト

フランス出身のアーティスト、ニコラ・フロックはダイバーとして自ら世界各地の海や河川に潜り、水面下の風景とその生態系の撮影を続けている。私たちからは普段目に見えない自然環境や人間の活動領域を、科学的かつコンセプチュアルな手法で記録してきた。

「子どもの頃からフリーダイビングが好きでした。やがて、人工物と自然物が共生するクリエイティブな水中の環境に興味を持つようになり、ふたつのパッションが交わる仕事に携わるようになりました。

プロジェクトによっては海洋探索船に乗船し、科学者との共同作業で作品が生まれることもあります」本展では3つのシリーズを展示している。南仏のカランク国立公園で制作された『Invisible インヴィジブル』では、多様な生物と人工漁礁などが共存する水深30メートル間の海景を撮影した。『InitiumMaris 海の始まり』では、ブルターニュ地方や伊豆下田近海などで水中を漂う植物の姿を捉えた。

モノクロで示される海底のイメージはいずれもこの世のものとは思えない精緻な美しさだが、気候変動や生物多様性の低下といった問題が、文字どおりに「水面化」で進行していることを解き明かしているのだという。「海中は陸上の6倍ものスピードで環境が変化します。地球環境はすべて繋がっているので、地上の温暖化を反映して海水温が上昇し、珊瑚や海藻に影響が出ています。水陸ともに景観の問題がいかに政治的な問題であるかということを自分の作品を通して問いかけたい」

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ニコラ・フロックが南仏の海で撮影した『La couleur de l'eau, Colonnes d'eau 水の色、水柱』(2019年)。エコロジーを広義の「循環するエネルギーの有り様」として捉え、地球環境におけるつかの間の漂いである人間の生やモノについて探求を続けるニコラ・フロック、ケイト・ニュービー、保良雄、ラファエル・ザルカら4名のアーティストを紹介する『エコロジー:循環をめぐるダイアローグ2「つかの間の停泊者」』展は銀座メゾンエルメスフォーラムで5月31日まで開催中。

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一方、『La couleur de lʼeau, Colonnes dʼeau 水の色、水柱』は南仏の海で水深5メートルごとに潜水しながら撮影した作品だ。

青から緑への色調が鮮やかな抽象絵画のようだが、そこにも見過ごすことのできない環境の諸問題が炙り出されている。「水深と微生物の数によって変化する色の濃度を分割し、海中の環境を可視化しました。マルセイユから流れ込む生活や工業の廃水が景観に影響を与えていることがわかります。水の色は抽象的ですが、生物について多くの物語を語っています。水中の風景を読み込むことで、人間の視点を超越した考察ができるのです。

私の作品は10年単位の長期的スパンで取り組んでいるものが多く、後世の科学者のための研究材料としてアーカイブされることを望んでいます」このようにフロックは遠大な展望を語ってくれた。いま水面下で起こっているあらゆる出来事がそのまま未来の地球環境へと繋がること、そして私たち自身もまた海とその生態系の一部であることを、ニコラ・フロックの作品は鮮明に示してくれる。

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ニコラ・フロック/アーティスト
1970年、フランス・レンヌ生まれ。写真家、ビジュアルアーティストとしてパリを拠点に活動。自然光の下で水中の風景を撮影し、自然環境の移ろいの過程を捉えたモノクロのドキュメンタリー写真などで知られる。

*「フィガロジャポン」2024年6月号より抜粋

text: Chie Sumiyoshi

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