すべてが絡み合い、暮らしを彩っていく。
ヨアキム・コーンベク・エンゲル-ハンセン|デザインディレクタター
20世紀後半から、デザイン大国として確実な歩みを続けてきたデンマーク。高度な木工の技を得意とする老舗メーカーはもちろんのこと、2000年代に入ると、伝統と革新を絶妙にブレンドする感覚に長けた新興ブランドが続々と登場。新しいデザインの波が巻き起こっている。
昨年生まれたブランド「Audo Copenhagen/オドー・コペンハーゲン」はまさにその最たる例のひとつだ。
「オドー・コペンハーゲンの源流は、僕の祖父が1979年に始めた『MENU /メニュー』というホームアクセサリーブランドです。日常を彩る雑貨は、確かに"生活の脇役"として大切なもの。でも、細々とコーナーを彩るだけでなく、もっと暮らし全体で心地よく過ごす場所と時間、感覚を積極的に表現したい。僕自身は常々そう思っていたんです」
そう答えるのは、同社のブランド&デザインディレクターのヨアキム・コーンベク・エンゲル‒ハンセン。08年頃から本格的に家業に関わり始めたヨアキムは、交流のあった建築集団、ノーム・アーキテクツとともに雑貨のほか照明や小さな家具を発表。さらに、モノから生まれる体験や感覚の広がりを感じられる場がほしいと考えるようになった。
「僕たちはブランドを通して出会う人たちを、商品を買ってくれる"カスタマー"ではなく、丁重にもてなすための"ゲスト"だと捉えています。だから、モノと触れ合う場もショップではなく、ギャラリーやサロン、そしてホテルのような存在でなければならない。時を重ねるなかで、そんなふうに考えるようになったんです」
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ヨアキムは昨年、メニューともうひとつのブランド、バイ・ラッセンとを統合し、オドー・コペンハーゲンとしてアップデート。コペンハーゲン市北部のノースハーバー地区に、滞在型ショールーム、オドー・ハウスもオープンした。ギャラリーやショップ、飲食施設も付帯した企画展やトークイベント、ライブなどが次々に行われるオドー・ハウスは、感性の優れた人々が日々訪れている。
「Audoの語源は、論語の"一を聞いて十を知る"に似たラテン語の表現、Ab Uno Disce Omnesの頭文字。小さなことの起こりがすべてと絡み合い、暮らしや環境のすべてを創り上げていく。そう信じながら、日々新しい取り組みにチャレンジしています」
今春には東京・六本木にショールームをオープンし、本格的に日本上陸も果たしたオドー・コペンハーゲン。この空間を通じて、どのような暮らしの感覚を私たちに見せてくれるのだろう。
1992年、デンマーク生まれ。10代の頃から家業を手伝いつつ、独学でデザインを学ぶ。2016年に家業のリブランディングを開始し、2023年オドー・コペンハーゲンを設立する。休暇に妻と3人の子どもと過ごすのがいちばんの癒やし。
*「フィガロジャポン」2024年6月号より抜粋
text: Hisashi Ikai