大学の講師が偽の「殺し屋」に⁉︎ 信じられない実話を映画化した『ヒットマン』とは。

インタビュー 2024.09.12

映画という神話で、本当のことを伝えたい。

リチャード・リンクレイター|映画監督

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RICHARD LINKLATER/リチャード・リンクレイター
1960年、テキサス州生まれ。『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』(1995年)、『6才のボクが、大人になるまで。』(2014年)で2度のべルリン映画祭監督賞を受賞。『スクール・オブ・ロック』(03年)などメジャー作品も手がける。

「ビフォア」3部作シリーズや『6才のボクが、大人になるまで。』などのヒット作品で知られる映画監督リチャード・リンクレイターは、地元テキサスのオースティンを拠点に、独自のスタイルで活動を続ける唯一無二の監督だ。高い作家性とコメディのような大衆性を両立させる彼の多彩なフィルモグラフィにおける共通点を挙げるとするなら、それは事実とフィクションの融合性となるだろうか。

「僕はいつも現実の世界、たとえば自分や誰かの経験からヒントを得ているんだ。人は現実よりも神話が好きだが、私は映画という"神話"の中で本当のことを伝えたい。今回の『ヒットマン』のような信じられない物語でも、常に本物とは何かを問いかけているんだ」

ヴェネツィア国際映画祭でワールドプレミアされた最新作『ヒットマン』は、1990年代に実在したゲイリー・ジョンソンの物語にインスパイアされている。大学の講師でありながら地元警察に協力、偽の殺し屋になりすまし、70件以上もの殺人依頼人の逮捕に協力したという、にわかには信じられないような実話である。

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「主演を務めたグレン・パウエルはオースティン出身で10代の頃から知っている。約10年前に『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』で会った時には本当に成長していて、それ以来は大人の友人として付き合っている。コロナ禍で家にいた時、グレンから電話があって『ゲイリー・ジョンソンのストーリーは知っているか』と言うので、『君が中学生の頃に月刊テキサスで読んだよ』というところから話が始まった。偽の殺し屋としておとり捜査をする男が本当は大学の講師でオタクっぽい男だったという話はおもしろい。で、そのキャラクターを掘り下げることになったんだ」

当初パウエルは主演俳優としてだけの参加予定だったが、監督から「一緒に書かないか」と共同脚本を誘ったのだそう。クリエイティブなパートナーとしてとてもいい着地となった。パウエルはトム・クルーズ最大のヒット作となった『トップガン マーヴェリック』のハングマン役で脚光を浴び、今年だけでも『恋するプリテンダー』、『ツイスターズ』と大作の主演が目白押しな時の人でもある。リンクレイターらしいウィットに富んだ会話劇でもありラブストーリーで
もある本作中で見せる、さまざまな偽の殺し屋になりきる七変化は、パウエルの俳優としての技量の見せどころだ。

「人は自分に疑問を持ち、アイデンティティを模索し、自分が変われるのかを問う。それこそこの映画の主題だ。人の"変容"をダークなコメディという形で表現できたことは、本当におもしろかったよ」

 

『ヒットマン』
ニューオーリンズで2匹の猫と暮らしながら、大学で心理学と哲学を教えるゲイリー・ジョンソン(グレン・パウエル)は、技術スタッフとして地元警察に協力していたが、職務停止となった刑事に代わって偽の殺し屋役としておとり捜査に加わる。ある日、マディソンという若い女性(アドリア・アルホナ)から夫殺しの依頼を受けるが......。●『ヒットマン』は新宿ピカデリーほか全国で9月13日より公開。
https://hit-man-movie.jp/

*「フィガロジャポン」2024年10月号より抜粋

text: Atsuko Tatsuta

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