大注目の映画『ジョイランド わたしの願い』に込められた祈りとは。

インタビュー 2024.10.18

現状を揺さぶる、パキスタンの新星。

サーイム・サーディク|映画監督

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SAIM SADIQ/サーイム・サーディク
1991年、パキスタン生まれ。短編『DARLING』(2019 年)がパキスタン映画として初めてヴェネツィア国際映画祭に選出され、オリゾンティ部門最優秀短編映画賞を受賞。現在は、ビン・リュー監督の新作の脚本を執筆中。

 

カンヌ国際映画祭にパキスタン映画として初選出され、「ある視点」部門審査員賞とクィアパルム賞をW受賞、さらに米国インディペンデント・スピリット賞最優秀国際映画賞をはじめ多くの映画賞を受賞。フランス、アメリカ、イギリスなどでもヒットを記録した映画が『ジョイランド わたしの願い』。監督はパキスタン出身のサーイム・サーディク。ラホール経営科学大学を卒業後、米国コロンビア大学で映画制作を学び、本作で長編デビューを飾った新鋭だ。

「『ジョイランド わたしの願い』のアイデアを最初に思いついたのは、コロンビア大学に通っていた頃。構想に8年ほどかかりましたが、それだけ思い入れも強いのです。まず、私が生まれ育ち、いちばんよく知っているパキスタンという土地を舞台に物語を語りたいと思いました。家父長制度社会で人々が感じている抑圧や欲望、伝統そしてセクシュアリティ。あからさまな自伝ではありませんが、私のトラウマ的な体験も盛り込まれています」

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舞台はパキスタンの大都市ラホールに住む伝統的な大家族・ラナ家。家長である父親、長男夫妻、その3人の娘たちと暮らす次男ハイダルは失業中で、メイクアップアーティストとして働く妻が家計を支えている。ところが、バックダンサーの仕事を得たハイダルがトランスジェンダーの女性ダンサーと懇意になったことから、物語は転がっていく。家父長社会におけるマイノリティである女性やトランスジェンダーといった生きづらさという厳しい現実が、自由への渇望に寄り添った視点で描かれる。

「トランスジェンダーのキャラクターに関していえば、ほかの主要なキャラクターと同等に扱いたいと思いました。たとえば、トランスジェンダー女性は働くことはできる一方で、次男の妻のように働きたくても仕事を持つことをよしとされない女性もいる。ハイダルのように"強くない"男性もまたマイノリティです」

本国では保守系団体から「パキスタンの価値観に反する」と反発を受け上映禁止となるも、ノーベル平和賞受賞マララ・ユスフザイやパキスタン系イギリス人俳優のリズ・アーメッドらの支援を得て、公開にこぎつけたことでも話題となった。

「映画としては、そのニュースによって注目を集めたのですから、複雑な気持ちでもありますね。当初は(祖国に)裏切られたと感じ、怒りやフラストレーションを感じましたが、精一杯の努力をしました。苦しい原因とは何か、どこで差別が生まれるのか、さらに暴力は何に起因するのかといった微妙な関係性を描いた映画です」

『ジョイランドわたしの願い』
パキスタンの大都市ラホールで伝統的な暮らしを営んでいるラナ家の次男・ハイダルは、失業中で妻の弁当作りや脚の悪い父の世話で日々を忙しく過ごしていた。早く仕事を見つけ、家族を養い、男児をもうけなければという焦りもある。そんな時、トランスジェンダーの女性ダンサー、ビバと知り合いそのパワフルな生き方に惹かれていくが......。●『ジョイランドわたしの願い』は新宿武蔵野館ほかで10月18日より全国順次公開。
https://www.joyland-jp.com/


*「フィガロジャポン」2024年12月号より抜粋

text: Atsuko Tatsuta

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