チャド・ローソン/作曲家・ピアニスト

1975年、アメリカ・ノースカロライナ州生まれ。アルバム『Set on a Hill』(2009年)でソロデビュー。コロナ禍にEP『Stay』(20年)でメジャーデビュー、出演するポッドキャストも話題に。アルバム『Where We Are』(24年)も高評価を得る。今年9月、東京でフリーライブを開催、来年には新作をリリース予定。
奏でるのは、人の心に沁みて共感を呼ぶ音楽。
「これまでの人生で自分にとっての重要なエッセンスは、長年ウェイターをやっていた経験だと思う。テーブルで待つお客さんから、自分がどういうことを求められていて先に何をすべきか、すぐに察せられるようになったからね」
この5月にアルバム『Where We Are (Unity Edition)』を発表したチャド・ローソン。今年で50歳を迎えた彼のキャリアは多岐にわたる。学生の頃はスタジオミュージシャンを目指してジャズピアノの腕を磨いていたが、友人からの誘いでひと夏だけ参加したフリオ・イグレシアスのツアーから人生が一変。毎晩3万人もの観客の前で演奏する歓びを味わった。しかし、自分もソロ活動を始めようと思い立った矢先に潰瘍性大腸炎に罹る。曲を書くことで心身を癒やし、それらの楽曲を2日間でレコーディングしたものの、1カ月ほど入院する。療養中にリスナーから届くメールで、自分の音楽が過酷な時を過ごしている人々の慰めになっていることを知り、テクニック重視のジャズから完全に離れ、リスナーの心に沁みるようなオリジナル楽曲を制作していくようになる。
「ある日、なぜ音楽を聴くと気持ち良くなるのかを調べていたら、神経細胞を成長させ、その機能を維持したり、修復を促したりするタンパク質(BDNF)が分泌されるからだと知った。この"幸せホルモン"みたいなものは、ふだんは散歩など自発的に行動を起こすことで分泌されるけれど、音楽に関しては3〜5分ほど受動的に聴くことによって分泌される。そこからは音の響き方などにも気を配るようになった」
以降、「もしショパンがいまの時代に生きていたら、どんな音楽を作っていただろう」と仮定しながら、ショパンを再解釈したアルバムで若い層にもショパンを広め、ピアノを弾けなくてもiPadで音楽を演奏できることをアルバム『Re:Piano』で披露。コロナ禍にはポッドキャスト番組「Calm It Down」をスタートし、メンタルヘルスや瞑想のテクニックなどを100万人超のリスナーに語りかけてきた。最近は世界精神保健連盟(WFMH)の国連大使としても活躍する。
「この10年間、ヒップホップが人気なように、音楽からメロディが欠けているとすごく感じていた。自分の原点にあるのは音楽で、メロディがすべて。だから曲作りは必ずメロディから始めて、曲が語るストーリーを時間をかけて理解し、題名を決めている。丁寧に時間をかけることで、人の心に沁みて共感を得られる音楽を創っていけるのだと思う」
そう話すチャドは、今年5月からスタートしたアップルミュージックのサウンドセラピーの開発にも、2年前から携わっている。現代に求められる音楽を早くから察知し、心安まる音楽や集中力を高める音楽作りにも尽力しているそうだ。

「Sanctuary(together)(feat. Esther Abrami)」
9月にリリースした最新曲「Sanctuary(together)」には、人気曲をレディー・ガガとコラボしたバイオリン奏者エスター・アブラミが共演。
Chad Lawson Decca US ¥421
https://mora.jp/package/43000006/00602478925122_L/
*「フィガロジャポン」2025年12月号より抜粋
text: Natsumi Itoh





