チョン・ジェイル/作曲家

1982年、韓国生まれ。幼少期にピアノやギターを習得。シンガーソングライターを目指した時期もあったが、ポン・ジュノ監督との仕事で才能が開花。本文中の作品ほか『ミッキー17』(2025年)や是枝裕和監督『ベイビー・ブローカー』(22年)の映画音楽も手がける。
ポン・ジュノ監督も信頼する、映画音楽作曲家の創造源とは?
チョン・ジェイルという名前を知らなくても、ネットフリックスで話題になった「イカゲーム」や第92回アカデミー賞で最多4部門を受賞した『パラサイト 半地下の家族』の音楽を手がけた作曲家といえば、ピンと来る人は多いだろう。
「映画音楽を創作する醍醐味を知ったのは『オクジャ』で、この映画の監督ポン・ジュノと仕事をするようになってから。人工的に作られた子豚のロードムービーのようなストーリーにとても感動したので、その良さを引き出すように音楽を創ることがとても自分のためにもなった。監督が対話しながらポテンシャルを引き出してくれるので、自分の才能を生かす場にもなったと思っています」
ポン・ジュノ監督の作品は、社会風刺からコメディ、ホラーやSFなど、ジャンルを自在に横断する予測不能な展開ゆえ、音の選び方も豊富だ。そこには長年にわたりクライアントの依頼に合わせて作曲してきたことが生かせたという。
「『イカゲーム2』の『Way Forward』という曲はユニークな作品のオープニングなので、小学生が使う楽器を使って、音も拍も合わないような変わった感じと、ノスタルジックな感じをミックスしながらおもしろい音楽を作りました。『パラサイト』では裕福な家族と貧困な家族が出てくるので、優雅であったり悲壮であったり、その差が実感できる複雑な音を表現するのにはバロック調の音楽が合うと感じました。なので当時はヴィヴァルディをよく聴いていました」
もともとヴィム・ヴェンダースや黒澤明、今村昌平などの監督したヒューマニズム作品を好んできたという。2023年に名門デッカ・レコードからソロアルバムの依頼が来た時は、自分の原点に戻るようなピアノのインストゥルメンタル作品集『Listen』を発表した。
「コロナ禍があったり、ロシアとウクライナの戦争や気候変動があったり......といったいろいろな問題があるなかで、私たちの何が良くなかったのかなと考えた時に、お互い自分の話をするだけで、あまり"聞く"ということをしていなかったな、と感じました。地球や動物といった生命体も、ずっと私たちに問いかけているのに......。そこで『Listen』をタイトルにして、曲作りを始めました」
26年2月の来日公演には、韓国の伝統楽器のケンガリやチャングなどの演奏家も参加。曲もオーケストラで演奏するのにふさわしい楽曲を選んだという。
「映画音楽は場面に合わせた音を使うので不自然なものもあるでしょうが、ステージでは音楽家がお互いを感じながら演奏するので、新しくそこだけで伝えられる生の感動が生まれる。曲を聴けば『あの場面だな』と思い出したり、新しいものとして感じたりもあると思うので、楽しんでいただけたらうれしいです」

『チョン・ジェイル―オーケストラ・コンサート―』
2026年2月21日17時から、東京文化会館大ホールで『チョン・ジェイル―オーケストラ・コンサート―』が横山奏指揮、東京フィルハーモニー交響楽団演奏で開演。すでにヨーロッパツアーで好評を得た楽曲を中心に、前半はドラマや映画、後半は『Listen』から演奏予定。
https://tickets.kyodotokyo.com/jungjaeil/
*「フィガロジャポン」2026年2月号より抜粋
photography: Tomoko Hidaki text: Natsumi Itoh




