NY生まれの繊細でオーガニックなジュエリー。デザインから制作まで手がけるSatomi Kawakitaさんインタビュー。
インタビュー 2012.04.11
無数の小さな宝石を散りばめた、びっくりするほど細く華奢なリングがあるかと思えば、ごろんと大きな石が存在感を放つリングもある。そのどれもがオーガニックな、手作りのあたたかみを感じるフォルムで、手にすっとなじむ。これらのリングをデザイン、そして鋳造以外のすべての工程をひとりで行うのがSatomi Kawakitaさんだ。
Satomi Kawakitaさんが作り出す繊細なリングの数々。
ニューヨークを拠点とするKawakitaさんは先日、アメリカンラグ シー 青山店・名古屋店・神戸店にて、日本では初めてとなるとランクショーを開催。クリエイティブな発想を、経験に裏付けられた高い技術力で形にしていくKawakitaさんが、ブランドについて、ジュエリー制作の魅力について語る言葉はとても生き生きしていて、彼女が好んで扱う個性的な宝石たちのように煌いていた。
Satomi Kawakita
大阪府出身。吹きガラス制作、ビーズ織りアクセサリー制作を手がけた後に渡米。ニューヨークのStudio Jewelersでジュエリーメイキングの基礎を学び、2003年よりマンハッタン・ミッドタウンの工房にて、宝石の石留め職人としてマスターセッターRichard Scandaglia氏に師事。08年に自身のブランド、Satomi Kawakita Jewelryをスタート。現在、マンハッタンのスタジオで、ダイヤモンドセッターの技術を生かし、鋳造以外のすべての工程を行う。アメリカのニューヨークを中心に、イギリス、日本の約30店舗で商品を販売中。
――ジュエリー制作を始めたきっかけは?
「以前、吹きガラスを5年ほどやっていましたが、素材やスケール感との相性に悩み、やめてしまったんです。でもその先もずっとものづくりをしたくて、次に出合う素材とは一生付き合っていきたいと思いました。その後、語学留学で訪れたアメリカで、前から興味があったジュエリーを本格的に学ぶためにNYの専門学校に通い始め、すぐに魅了されました」
――ジュエリー制作を始めた当初、もっとも楽しいと感じたことは?
「歴史が長く、技法もいろいろあって、学べば学ぶほど興味がわいてきましたね。ジュエリー制作には大きく分けると彫金とキャストというふたつの手法があります。彫金は、メタルの棒を切って、温め、丸めて指輪をつくる、というやり方。私は、キャストのほうの"ロストワックス"という手法で作っています。ワックスを削って自分の作りたい形を作り、その周りを石膏で固めて、熱することでワックスが溶け出す。そうすると石膏の中に指輪の形が残るので、そこに溶けたメタルを流し込みます。ワックスは柔らかいから、彫金よりも自分の思う通りの形が作れる。手のひらにおさまるほど小さなスケールのなかで、世界観を表現できるのがすごくおもしろくて。しかも身につけられるし、人にも見てもらえる。一石二鳥ですね(笑)」
指輪制作に使われる石膏の型。
――卒業後しばらくはダイヤモンドセッター(石留め職人)をされていたとか。
「卒業したらジュエリーの仕事でNYに残りたいなと思い、学校の先生に毎日、"何か仕事探してや"って言い続けてました(笑)。それである日先生が紹介してくれたのが、ダイヤモンドセッターの仕事だったんです」
――Kawakitaさんのように、ジュエリーをデザインして、石もセッティングする人は珍しいのではないですか?
「ほとんどいないですね。珍しがられます(笑)。ダイヤモンドセットなど専門的な部分は外注している人が多い。私は自分でセットできることで、作品の幅が広がっていると思います。石を見て、あ、この石なら私だったらこんなセットをするな、とアイデアが浮かんだり。例えばナチュラルな形や色の石なら、普通の職人さんが滑らかに、ぴかぴかに磨いて仕上げるところを、私はハンマーの跡を残して、つやを出さずに仕上げたりします」
左から、R0610 GD¥45,150、R1601 BK¥23,100、R0409- GD¥155,400
――いろいろなタイプのリングをたくさん重ね着けするアイデアも素敵ですね。
「実は、アメリカに留学したばかりの頃、収入がなくて金が買えないから、シルバーや真鍮で作っていたのですが、ある時、ひとつだけ金の指輪を作ってみたくなって。金は重さで金額が決まるので、できるだけ軽く、安くすむようにと思って作ったのが、私の細い指輪の始まりなんですよ(笑)。お金が貯まるたびに1個ずつ作っていたから、最初の頃は細い指輪ばっかり(笑)。できあがるたびに重ね着けしていったら、表情が出ておもしろいな、という発見がありました」
Kawakitaさんの繊細な指輪ならではの、重ね着けの提案。
――いろんな偶然がいまにつながっているんですね。
「ダイヤも、高価だからなかなか買えない。最初にダイヤを1粒買ったときは、すごく緊張しましたね(笑)。ダイヤモンドセッターとして働いていた頃に作っていた指輪はオーソドックスな形ばかりで、技術は学べたけれど、ものに魅力を感じられなかった。どうして全部同じ形にするんだろう?って。それで最初に自分で作った指輪は、ゴールドに大きさの違うダイヤモンドをランダムにセットしたものだったんです。意図していなかったけれど、ダイヤモンドをセットできる技術を身につけられたことは、結果的にすごく役立っています」
――Kawakitaさんにとって、ダイヤモンドという素材の魅力はどんな点でしょう?
「ダイヤモンドセッターの仕事に就くまでは、実はまったく興味がなかったんです。でも仕事でプラチナやゴールド、ダイヤモンドを扱い始め、単純にきれいだな、と思いました。これが自然界で生まれたものだと考えると、すごく神秘的だなあと思って。いちばんきれいに見えるカットを施し、丁寧に磨くと、小さくてもすごく輝くんです。人間って光るものに惹かれるのかもしれませんね。身に着けているジュエリーがさりげなくきらっと光ると、特別な気分になれる。ダイヤモンドは他の石と比べて輝きが全然違う。やっぱりダイヤは王様だなあって思います。その中でも最近は、グレーや黒、茶色など色のついたものや、薄くスライスしたダイヤモンドもよく使っているんです」
セットされるのを待つ指輪と石。
――そういったダイヤモンドはどこで見つけるのですか?
「マンハッタンの47丁目は通称"ダイヤモンド・ディストリクト"と呼ばれていて、ジュエリーの問屋街なんです。メッキや磨きなど、何十年もその世界で生きている職人さんがいっぱいいる。私みたいな人が歩いていると場違いな感じ。で、ダイヤモンドディーラーたちは人を見て態度を変えるんす。最初は値段ふっかけられたし、アジア人だから若いと思われて余計甘く見られたし・・・そこで鍛えられましたね(笑)。私にとってNYのお父さん的存在だった、ダイヤモンドセッティングの会社のボスが、買い方なども全部教えてくれて、サポートしてくれました。
段々私が買えることがわかってきたら、奥からいろいろ出してきて見せてくるんです(笑)。彼らはプロだからいろんなことを教えてくれて、それがすごくおもしろい。ダイヤモンドディーラーにとってはグレーや茶色のダイヤモンドは白いものに比べて安いし、グレードが落ちるけれど、私はおもしろいと思うから、"奥にあるの全部出してきて!"って(笑)。やっと最近そういう買い方ができるようになりました」
――仕入れるお店は決まっていますか?
「決まっています。5軒ほどあって、足を運ぶたびに、何か入ったら電話してね、と伝えています。で、"入ったら電話してって何人かに言われてるけど、いちばんに電話したから見に来い"なんて連絡がくると、たぶんみんなに言ってるのが分かってても"10分で行くから、誰にも見せたらあかんで"って(笑)。そういうやりとりがストレートですごくおもしろい。ばんばん言葉で戦って、つつみ隠さずやりとりして、大阪人の私には合っている。最近、私が自分でセットしていることを知ると、"姉ちゃん、やるな!"みたいな感じで、見る目が変わったみたい。向こうもだんだん私のことを認めて、応援してくれています。
技術的な部分はひととおり対応できる自信があります。だから、自分のブランドを確立させるまでは時間がかかったけれど、全部インハウスだから、納品が早い。スタジオには道具が全部揃っていて、お客さんの目の前でサイズ直しもできます」
扱う道具も繊細なものが多い。細かい作業は苦にならない、というKawakitaさん。
――デザインのインスピレーションはどんなときに沸いてきますか?
「いちばんアイデアがわくのは地下鉄の中です(笑)。NYに住み始めた頃、200丁目という家賃の安い辺鄙な場所に住んでいて、会社まで長い道のりだったから、地下鉄に乗る時間が長かった。日頃いろんなものを見て、インスピレーションを得たのが頭の中に溜まっていて、それが出てくるのが地下鉄の中(笑)。自分のフィルターを通しておもしろいと思った形やテクスチャー、雰囲気を、これをメタルでやったら、こんな形に作ったらおもしろいだろうな、とアイデアが浮かんでくるのをずっと地下鉄の中でスケッチしていました。そしてそれを家に帰って作る、という毎日でした」
――Kawakitaさんの商品のなかで特に人気なのは?
「結婚指輪とエンゲージリング。ブランドを始めたときは、結婚指輪をつくるなんて思っていなかったけど、ダイヤモンドを使っているから、結婚指輪を探す人の目に留まるみたいです。ネックレスやピアスも作っているけれど、圧倒的に人気なのが結婚指輪。私のスタジオは一般公開していないのですが、ウェブサイトに載っているものを実際に見たい、と言う人がけっこういて、そうするとスタジオに来てもいいですよ、と伝えてアポイントを取る。スタジオでは商品を全部お見せできるようにしています。
結婚指輪を選ぶときって、カップルにとって人生で最高に幸せな時期ですよね。お客さんはすごくハッピーで、出会ったきっかけとか、いろんなエピソードを話してくださったりして、そういう瞬間に立ち会えることは貴重。すごく感謝されるし、こんなにいい仕事はないな、って思います。結婚指輪は一生するものだから、作っている人に会えるのはお客さんにとってもうれしいみたいですね」
左から、R1704-GD¥47,250、R1001B GD¥173,250
――今回、日本では初めてのトランクショーでしたが、アメリカではよくされていますか?
「よくやっています。ジュエリーのスケール感や繊細さは、写真では伝わらないから、商品を置いてもらっているお店で、1~2日でも商品を全部見てもらえる機会をつくりたいと思って。指が太い人には大ぶりなものをすすめたり、年を重ねて節が立ってきた女性には、細いものよりもボリュームのあるものをすすめたり・・・私も、お客さんの雰囲気などを見ながらお見立てするのを楽しんでます」
――これから挑戦してみたいこと、作ってみたいものはありますか?
「一点もののジュエリーを作りたい。おもしろい石をいっぱい買い揃えて、いま金庫に眠っているんです(笑)。なかなか新作をつく時間が取れないから、生産体制を整え、ある程度人に任せられるようになったら、作りたいですね。忙しいというのは贅沢な悩みだけれど、ブランドとして成長していくためには、新しいものを作り続けなければいけないし、お客さんも待っていてくれていると思います。
正直、ブランドをあまり大きくしたくはないんです。みんなが知っていて、どこででも手に入るブランドにはしたくない。最近やっとひとりアシスタントを入れて、主人も制作を手伝ってくれています。主人はビジネスの先輩だから、仕事の方向性などをアドバイスしてくれるし、今回トランクショーで使った什器も彼が作ってくれたんです。家内制手工業みたいですが(笑)家族に支えられています。ブランドを始めたからには責任があるから、いまのスケールで、自分の信頼している人たちと一緒に、続いていけたらいいなと思っています」
Kawakitaさんのスタジオには、鋳造以外のすべての工程を行える道具が揃う。
ジュエリーデザインという仕事を心から楽しんでいるのが伝わってくるSatomi Kawakitaさんのジュエリーは、現在、アメリカンラグ シー 青山店、名古屋店、神戸店で取り扱うほか、オフィシャルサイトでも日本からのオーダーが可能だ。そして商品すべてを実際に目にすることができ、Kawakitaさん自身に話を聞くことのできるトランクショーが、また日本で開催される日がいまから待ち遠しい!
アメリカンラグ シー 青山店 03-5766-8739
アメリカンラグ シー 名古屋店 052-269-2610
アメリカンラグ シー 神戸店 078-334-4055