20代のアイコンとして、フランスで圧倒的な支持を得る俳優ルイ・ガレルにインタビュー。

インタビュー 2012.07.19

news_i120719main01.jpg


現在フランスで20代の若者のアイコンとして、圧倒的な支持を得る俳優といえば、ルイ・ガレルを置いていない。ヌーヴェルヴァーグ最後の巨匠として知られるフィリップ・ガレル監督を父に持つ知性派の彼は、単に人気俳優としてではなく、いわば彼の世代のオピニオン・リーダー的な存在として独特のポジションを築いている。

5歳のときに父親の監督作(『Les baisers de secours/救いの接吻』)に、母で女優のブリジット・シーと共に出演した後、コンセルバトワールで演技を学び、2002年、ベルナルド・ベルトルッチがパリの五月革命を題材にした『ドリーマーズ』でブレイク。その後ガレル監督の『恋人たちの失われた革命』に主演し、セザール賞の有望新人男優賞を受賞した。私生活では21歳年上の女優ヴァレリア・ブルーニ・テデスキをパートナーに持つだけに、29歳とは思えない成熟した一面が印象的だ。

モニカ・ベルッチと共演した新作『灼熱の肌』と『愛の残像』の、フィリップ・ガレル監督2作品が立て続けに公開になる機会に、話を聞いた。

▶ルイ・ガレル(Louis Garrel)
パリ出身、83年6月14日生まれ。5歳のときに父フィリップ・ガレル監督作に出演した後、俳優を目指し17歳で本格デビュー。ベルナルド・ベルトルッチの『ドリーマーズ』でブレイクする。その後父の監督作にすべて出演するなか、『恋人たちの失われた革命』でセザール有望新人賞を受賞。フランソワ・オゾン(短編)や、クリストフ・オノレら刺激的な監督たちと組む傍ら、自身も短編を監督し、映画制作に意欲を見せる。


「男女間における関係というのは、とても複雑で神秘的なものだよね」


――モニカ・ベルッチとフィリップ・ガレル監督の組み合わせというのは、かなり意外な印象がありますが、『灼熱の肌』で彼女の恋人役として映画に参加するのはどんな気分でしたか。

ルイ・ガレル(以下L):「すごく不思議な感じだったよ。彼女のことは僕も父もよく知らなかったし、イタリア出身で、お互いとても異なるタイプだったから。フィリップとモニカはとてもリスペクトし合っていて、現場はすごく穏やかだった。でも僕は彼女にキスさえしていない。フィリップに、『ふたりのあいだにあるのは愛だ、キスじゃない』と言われたから(笑)」


news_i120719main03.jpgルイ・ガレルがモニカ・ベルッチの恋人役として熱演する『灼熱の肌』©2011 - RECTANGLE PRODUCTIONS / WILD BUNCH / FARO FILM / PRINCE FILM

――ガレル監督はリハーサルに時間をかけることで知られていますが、今回はどのように進んだのでしょうか。

L:「1年ほど前から準備が始まったのだけど、しょっちゅう会っていたわけではなく、ときどきリハーサルをしたり、会ってただ喋るだけのときもあった。フィリップはもともと絵画が好きで、絵画と映画の関係に興味を持っている。だからフレームの構成にとても気を配るんだ。そのためにリハーサルは、フレームの構成を決めながらセットですることの方が多い。映画監督になる前は画家になりたかった人だから、いわば画家のように映画を作るというか。彼にとってセリフはそれほど重要ではなく、もっと実験的なスタイルに興味があるんだ」

――あなたはガレル監督がコンセルヴァトワールで教える生徒でもあったわけですが、父親が監督だということで特別な安心感を覚えますか。

L:「うん、ただそれは父親だからというより、自分は彼の作品が大好きで尊敬しているし、彼のやり方が好きだから。でも父との関係はむしろ友だちのような感覚に近いよ」

――本作と比べて『愛の残像』は、同じ運命的な愛をテーマにしながら、愛の亡霊が登場するなどもっとスピリチュアルな世界を扱っていましたね。ああいう作品での役作りは難しかったですか。

L:「たしかにあの映画ではもっと心理的な探究を必要としたし、精神的なテンションが求められた。ただある部分では自分との共通点もあったから、それほど難しいというわけじゃなかったよ。大恋愛というものは決して消えない、という考えには納得できる。それに死と隣合わせであるがゆえのロマンティシズムも、とてもロマンティックで魅力を感じる。たとえば死んだ後に人々がまた出会うとか、あるいは夢の中で互いに繋がりを持つとか。自分にはそういう経験はないけれど(笑)、あり得ないことじゃないと思う」


news_i120719main02.jpg『愛の残像』© 2008 - Rectangle Productions / StudioUrania

――あなたが演じた青年フランソワは、運命的に出会ってしまった女性と、もともとのフィアンセの間で揺れ動きます。つまりロマンティックな情熱と現実的な相手との狭間で選択を迫られるわけですが、あなた自身はどちらの形の愛に対して、より共感を覚えますか。

L:「うーん...なんて言えばいいかな。男女の間における関係というのはとても複雑で神秘的なものだよね。でもそこには、一時的な感情だけではない、努力も必要だと思う。以前、作家のリルケが、"子供というのはお互い融合し合うように相手を好きになる、でもその一方で時間をかけて相手を愛する方法もある"と書いていたのを読んだことがある。とても触発される言葉だったよ。つまり彼は誰かを本気で愛するなら、それなりに努力しなくてはいけない、ということを言っているわけで、僕もまさしくその通りだと思う。人を愛するということは、簡単なことじゃないんだ(笑)」

――伝説的な映画監督を父に持ち、偉大な俳優を祖父(故モーリス・ガレル)に持っても、あなたにはあまりコンプレックスがないように見受けられますが。

L:「いや、コンプレックスを感じることもあるよ。でも必ずしも感じなくてはいけない、ということもないと思う。でも人間なら誰もがコンプレックスを持っているんじゃないかな」

――逆に、同世代の人々からの嫉妬は気になりますか。

L:「それはそうでもないな。俳優の間にはちょっと競争意識があって、自分だって他の俳優のことを嫉妬することはある。でもそういう感情はダイナミックな原動力を生み出すと思う」

――フィリップ・ガレルはアーティストとして、アートに人生を捧げて来た人だと思います。今日そういうタイプのアーティストが生きていくのはとても困難だと思いますか。

L:「アーティストにとって、お金がなければタフだと思う。現代は自分を表現する方法も変化しているし、アーティストのポジションは、お金に多くを負っているから。お金という手段がないなかで自分を表現するのは難しいと思う。だからお金とアートの関係というのは、常にラブ&ヘイトのような、矛盾と愛に満ちた関係と言えるんじゃないかな」

texte:KURIKO SATO


『愛の残像』
●監督/フィリップ・ガレル
●出演/ルイ・ガレル、ローラ・スメット
●2008年、フランス映画
●配給/ビターズ・エンド
www.bitters.co.jp/garrel-ai
●108分
シアター・イメージフォーラム(03・5766・0114)にて公開中。

『灼熱の愛』
●監督/フィリップ・ガレル
●出演/モニカ・ベルッチ、ルイ・ガレル、モーリス・ガレル、セリーヌ・サレット、ジェローム・ロバール、モーリス・ガレル
●2011年、フランス映画
●配給/ビターズ・エンド
●95分
7月21日(土)よりシアター・イメージフォーラム他、全国順次ロードショー。

*micの映画コラム「きょうのもシネマ日和」の『愛の残像』レビューはコチラ

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

清川あさみ、ベルナルドのクラフトマンシップに触れて。
フィガロワインクラブ
Business with Attitude
2024年春夏バッグ&シューズ
連載-鎌倉ウィークエンダー

BRAND SPECIAL

Ranking

Find More Stories