ボキューズ・ドール国際料理コンクール世界第3位に輝いた、浜田統之シェフにインタビュー。

インタビュー 2013.08.30

軽井沢に、一軒のレストランがある。席数はたった24、営業はディナーのみ。この小さなレストランが、アジアやヨーロッパをはじめ、世界各国の美食家たちの人気デスティネーションになっている。ここでは、キャビアやフォアグラといったフレンチに欠かせない食材は登場しない。料理の主役は、長野の自然。清流に生息する新鮮な川魚や、きれいな水を飲んで育った放牧豚やサフォーク羊、豊かな環境が育んだ野菜など、長野のテロワールそのものが味わえるのだ。

軽井沢でしか出会えない独創的な料理を編み出すのは、星野リゾートが運営する「軽井沢ホテルブレストンコート ユカワタン」浜田統之(はまだのりゆき)シェフ。唯一無二の"日本のフランス料理"を引っさげて挑戦した2013年度「ボキューズ・ドール国際料理コンクール」では、その味が世界に認められ、見事銅メダルに輝いた。自らを"フレンチの改革者"と呼ぶ浜田シェフに、受賞までの道とこれからの展望を伺った。


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プロフィール)
浜田統之(Noriyuki Hamada)/1975年鳥取県生まれ。イタリアンの厨房で料理人としてのスタートを切り、フレンチに転身。2007年軽井沢「ホテルブレストンコート」の総料理長に就任。「ノーワンズレシピ」ほかホテル内のレストランを束ねる。2011年にホテルのメインダイニング「ユカワタン」がオープン。。長野の豊穣な食材を自在にアレンジした料理"水のジビエ"が評判を呼ぶ。2013年1月、フランス料理のオリンピックとも呼ばれる「ボキューズ・ドール国際料理コンクール世界大会」で日本史上初の銅メダルを受賞。魚料理では世界最高得点を獲得。

----ボキューズ・ドールでの入賞後、変わったことは?

浜田統之シェフ(以下H) :僕自身は特に変わりませんし、今までもこれからも料理に対する思いは同じです。日本の食材を使ったフレンチを、日本から発信していきたい。輸入食材に頼ることなく、この土地の素材の素晴らしさを伝えたい。その思いを持って毎日厨房に立ち、フランス料理を作る。フランス料理の技法に日本人の感性を加えていく。ただそれだけです。レストランとしては、今年3月から8月末までは「ボキューズドール記念特別メニュー」をお出ししています。僕がボキューズ・ドールに出場するにあたり応援してくださった方たちに恩返しをしたいという思いから、本選で作った魚料理と肉料理を組み込んだコースになっています。国際大会に照準を当てたメニューなので、日本的な味や盛り付けがすこし強調されています。

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「6種のアミューズ」という色とりどりの石に乗せられた6つの美味たちは"懐石"をイメージしている。料理に合わせて石の温度を変え、料理の保温と保冷はもちろん、手に持ったときの感触も楽しむことができる。特筆すべきは、アミューズでありながらコース仕立てでもある点。左から「桃と若鮎のアミューズ」、「そば粉のクレープロール」、「トマトのガスパチョ」、「佐久鯉のブーダンノワール風」、「サフォーク羊のコロッケ」、「ブルーチーズとくるみ味噌のシュー」。ディナーの幕開けにふさわしい、可愛らしくて小粋な一皿。


----大会に出場するにあたって、プレッシャーはありましたか?

H:寝る間もなく練習ばかりしていましたが、精神的に追い込んでいくタイプなので、案外平気でしたね。でも、"勝ちに行く"という意思はありました。今回は食材のみならず、器や木のトレーまですべて日本のものを使って勝負をしました。震災後でもあったし、日本の工芸のよさをもっと世界の人々に広めたくて。関わってくれた人々の思い、すべてを背負って闘うわけですから、必ず表彰台に立ちたいと思いましたね。そのためには、僕が満足する料理というだけではダメ。日本の食材を100%生かしながら、世界各国の審査員たちにリーチする味とプレゼンテーションでなくては。そのあたりのさじ加減は難しくもあり、面白くもありました。結果としていただいた銅メダルは、僕の力だけでは決してもらえなかった。いうなれば、僕はFIのレーサーで、クルマを作る人や整備する人などのたくさんのプロで作り上げるチームの一員。チーム全員で受賞したという気持ちが強いですね。


----ユカワタンで使用されている器はすべて気鋭の陶芸家、青木良太さんの作品ですが、青木さんとの出会いと、彼の器に料理を盛ることについてお聞かせください。

H:もともとは僕の一目惚れ。青木さんじゃなくて器に、ですよ(笑)。ユカワタンのオープン前に、とあるギャラリーで彼の作品を見て惚れ込んだんです。新しいレストランの器はすべて青木良太さんのものを使おうと決めて、オリジナルの食器を特別に作ってもらいました。実際本人に会ったら年が近いこともあって意気投合したんです。"日本から世界一を発信したい"という思いや、まだ古い部分もある陶芸や料理の世界を変えていこうという考えなど、彼とは共鳴するところが多い。分野は違うけれど、クリエイター同士、すごく刺激し合っている関係ですね。
僕は料理も盛り付けも、食材や自然からインスピレーションを受ける方。器から料理を発想することはありません。だから、料理ごとにやたらと皿を変えることはあまりしていません。単色の丸い器に、シンプルに盛る。皿の色や柄の役割は、食材やソースがします。そのときに青木さんの器はとてもしっくりときますね。和食器だし、使っていくと傷や欠けも出てきますが、それも味のうち。青木さんに金継ぎを教わって、直しながら大切に使っています。

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壁にかけられた「ボキューズ・ドール国際料理コンクール世界大会」の表彰状。中央の鹿を象ったオブジェは、青木さんがシェフに贈呈したもの。


----この秋からコース料理の構成が大幅に変更になるとか。

H:予約制のコース料理は、料理人にとっては都合がいいですが、お客様にとってベストではないと思います。お客様だって体調や気分で食べたいものは変わりますよね。だから、食べてくれる方ひとりひとりに合わせて対応していく、限りなくオーダーメイドのコースへと進化させます。きちっとメニューを決めて作るのではなく、食べる方の要望を聞き、素材の状態を見極めて、お客様と食材の最もいい関係を探り当てていく作業ですね。こちら側の負担は増えますが、メニューが自由になれば、うなぎ1尾、きのこ1本からでも仕入れられる。使える食材の幅が広がり、質もさらに上げることができると考えています。


----軽井沢に来て6年目を迎えますが、もしほかの土地でレストランを開くとしたら?

H:どこでもいいですよ、田舎なら。今までも都会のど真ん中で働いたことはないし、あまり興味もありません。常に自然に触れられて、すぐそばに新鮮な食材がある。そんな環境で料理をしたいですね。田舎は不便でお客さんも少ないと思われがちだけど、食材に関しては圧倒的なアドバンテージがある。そしてその食材を味方につければ、都会のレストランとはまったく違う表現方法がとれる。生産者の方々と密にコミュニケーションをとって、食材について教えてもらったり、こちらの望む食材作りを一緒にできたりすることが、何にも代え難いのです。日本の豊かな食材をフレンチの技法で料理して、日本はもちろん世界の人たちに広めていくことが、僕の仕事だと思っています。

星野リゾート「軽井沢ホテルブレストンコート ユカワタン」
長野県軽井沢町星野
営)18:00〜20:30(L.O.)
Tel. 0267-46-6200(ホテル代表)
※要予約

ディナーコース¥15,750円、¥18,900(すべて税込み、サービス料別)
※アラカルトメニューあり
※ボキューズドール記念 特別メニューは8月末で終了

http://restaurant.blestoncourt.com

>>「ブレストンコート ユカワタン」のコース全品をクローズアップ!

photos : TORU OSHIMA texte : TOMOKO KAWAI

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