東京国際映画祭で観客賞を受賞! 話題の映画『レッド・ファミリー』。
エグゼクティブ・プロデューサーのキム・ギドクと、監督のイ・ジュヒョンにインタビュー。

インタビュー 2013.11.15

韓国で暮らす、隣り合う二つの家族。片方は平和で幸せそのもの、もう片方はいつもケンカばかりで崩壊寸前。しかし、円満に見える家族の正体は、実は北朝鮮のスパイチームだった......。第69回ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した『嘆きのピエタ』のキム・ギドク監督がエグゼクティブ・プロデューサーとして原案を手がけ、資本主義と共産主義、双方の矛盾をシリアスに、ときにユーモアを交えながら描いた映画『レッド・ファミリー』。10月17日~25日に開催された第26回東京国際映画祭では、コンペティション部門に出品され観客賞を受賞した。映画祭に際して来日したキム・ギドクと、本作が長編デビュー作となった監督のイ・ジュヒョンに、作品への思いや見どころを伺った。

131111_redfamily_01.jpg

フランスで映画とデジタル・アートを学び、これまで短編アニメやドキュメンタリーを製作してきたイ・ジュヒョン監督(左)と、本作の原案を手がけたキム・ギドク監督。


―― エグゼクティブ・プロデューサーを務められたキム・ギドク氏は、ご自身の実体験をもとにした作品を手がけられることも多いですが、今回、南北の問題をテーマに選んだ背景は?

キム・ギドク(以下K):「『レッド・ファミリー』においては、私が経験した何かを基にしたというわけではありません。朝鮮戦争以来、長らく朝鮮半島が南北に分断されているという現実があり、歴史的な深い痛みが続いている。これを終わらせるべきではないかという考えがありました。また、北朝鮮と韓国との問題であるはずが、アメリカ、中国、ロシア、日本なども巻き込み、あたかも国際問題のようになっています。しかし、本来は北と南で自らこの問題を解決すべきなのではないかと。ですから、この映画の中ではそれを"家族の抗争"として見せながら、解決点を探していこうと思いました」


―― 南北の対立というテーマを家族の問題に落とし込んだことで、外国人からも理解しやすいストーリーになっていると感じます。日本の観客には、どのような部分に注目して観てほしいですか?

K:「おそらく、観客のみなさんもちゃんと理解をしてくださると思うんですが、片方の家族は資本主義の家族。お金が最高で、すべてだと思っています。一方の家族は理念が最高だと思っている。でも、いずれも正しくないんです。お金がすべてでもないし、体制というものがすべてでもない。あくまでも、お互いを理解することが一番大切なんです。また、日本でも実際に拉致被害者の方がいらっしゃいますし、北朝鮮の核問題もあり、韓国と立場は違うけれども、地理的に近く、共通の問題で悩んでいると言えると思います。こういった危険な問題を解いていくには、人間的な相互理解というのが非常に大切になってきますよね。だから、韓国も日本も北朝鮮も、大きな意味でひとつの家族だという認識を持って、これからの未来を一緒に生きていくべき。日本のみなさんには、こういう点を意識して観てほしいです」

131111_redfamily_04.jpg

イ・ジュヒョン(以下L):「作品の中でこんな言葉が出てきます。『理念も国境も思想も、全部、アクセサリーのようなものだ。飾りにすぎない』と。国境のような、ふたつの家族の垣根を鳥が越えるシーンも、とても象徴的だと思います。朝鮮半島においては、今は理念によって線が引かれ、南と北に分かれていますが、一体何が問題で、何と戦っているのかということを考え直す、そんなきっかけにこの映画がなってくれたらいいなと思います」


―― 冒頭のアニメーションのシーンも印象的でしたが......。

L:「あれは、実際の脱北者の方たちにいろいろな話を聞いて作りました。彼らは、有刺鉄線の柵を越えて逃げる夢を今でも見るそうです。そのシーンをイントロで挿入してみました」


131111_redfamily_02.jpg

© 2013 KIM Ki-duk Film. All Rights Reserved.


―― イ・ジュヒョン監督にとっては、今回が初の長編作品ですね。最もチャレンジングだった点、難しかった点があれば教えてください。

L:「長編作品を撮るということ自体が、私にとっては大きな挑戦でした。これまで手がけてきた作品はドキュメンタリーやアニメーションだったので、たくさんのスタッフと一緒に作るのではなく、ドキュメンタリーであればその対象だけ、アニメーションの場合は何もないところから自分で作りだすという作業でした。しかし今回は現場に俳優を始め、たくさんの人がいて、その人たちとコミュニケーションを取りながらの作業だったので、なにかをみんなで作りだしていくことはとても興味深いものになりました。同時に、難しいことでもありました」


―― そういった今回の経験を生かして、今後はどのような作品を撮りたいですか?

L:「キム・ギドク監督にお会いして、以前の自分は作品を作るにあたって、ストーリーよりも"どういう方法で作るか"という手段や道具にこだわり、気を取られすぎていたのではないか、と思いました。でも、真の映画というのは、まずはストーリーがそこにあるべきで、人間のメッセージがあるべきだということを学んだので、次に撮る作品においても、まずはそこで自分が何を言いたいのか、ということを考えていきたいですし、人間の内面を描くような作品を撮っていきたいです」

131111_redfamily_03.jpg


―― お二人は、来日された際に訪れるお気に入りの場所はありますか?

K:「以前は、京都や奈良によく行きました。韓国との文化的なつながりを感じることができるので。古代史までさかのぼっていくと、朝鮮半島と日本はある意味兄弟といえるほど、いろんな似た部分があったはずです。近代史以降、国と国との競争心のようなものも生まれ、つながりが離れてきてしまっていますが、京都や奈良で文化に触れると、その距離を縮めてくれるような鍵があるように感じます」

L:「私は今回が2度目の来日なので、日本については知らないところばかりです。若者たちがたくさん集うと聞いている渋谷や新宿に行ってみたいですし、核をテーマにした作品の構想を練ったこともあるので、広島や長崎、特に広島では、映画『ヒロシマ・モナムール』の舞台を訪れたいです。あとは、ジブリスタジオにもぜひ行きたいです!」

131111_redfamily_05.jpg


『レッド・ファミリー』


【ストーリー】
北朝鮮のスパイチームが普通の家族を装い韓国に暮らしている。彼らは幸せな家族のように見えたが、北ではそれぞれの家族を持つ特殊工作員である。北からの命令で様々なスパイ活動を実行するうち、彼らの間に感情的な絆が生まれ、互いのミスをカバーするようになっていた。やがて彼らは致命的なミスを犯してしまう。それは、共産主義の踏み絵をするよう自らを追い込むものだった。


監督:イ・ジュヒョン
エグゼクティブ・プロデューサー/原案/編集:キム・ギドク
出演:キム・ユミ、ソン・ビョンホ、チョン・ウ、パク・ソヨン

photos:Eisuke Asaoka

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest
Business with Attitude
コスチュームジュエリー
35th特設サイト
パリシティガイド
フィガロワインクラブ
BRAND SPECIAL
Ranking
Find More Stories

Magazine

FIGARO Japon

About Us

  • Twitter
  • instagram
  • facebook
  • LINE
  • Youtube
  • Pinterest
  • madameFIGARO
  • Newsweek
  • Pen
  • CONTENT STUDIO
  • 書籍
  • 大人の名古屋
  • CE MEDIA HOUSE

掲載商品の価格は、標準税率10%もしくは軽減税率8%の消費税を含んだ総額です。

COPYRIGHT SOCIETE DU FIGARO COPYRIGHT CE Media House Inc., Ltd. NO REPRODUCTION OR REPUBLICATION WITHOUT WRITTEN PERMISSION.