"倍返し"よりもすごい!? 片岡愛之助さんの愛する出石・永楽館歌舞伎の魅力。

インタビュー 2013.12.16

実力重視と言われる上方歌舞伎で甘いマスクに「ラブリン」の愛称でも人気の六代目片岡愛之助さん。2013年はドラマ『半沢直樹』の金融庁検査官、黒崎駿一役の強烈な存在感で人気に火を付けた。ここ10年以上休みが1日もない、という多忙の中で座頭を務めて6年目になる出石の永楽館歌舞伎での公演は、今年も11月5日〜10日に行われ大盛況で幕をとじた。その、パワフルな舞台に込める思いとは?

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客席で見得を切る愛之助さん。インタビューは第一部と第二部間の貴重な休憩時間に行われたにもかかわらず、気持ちよく答えてくれた。

――素晴らしい舞台に遠方からのお客さん、そして何より地元の皆さんからの熱い気持ちが伝わる公演でした。「永楽館歌舞伎」出演のきっかけは6年前にリニューアルした永楽館からのお声がけだったとのことですが、その経緯をお聞かせください。

片岡愛之助(以下K):「お恥ずかしいことに、僕はお声がけいただくまで永楽館の存在を知りませんでした。関西が地元ですが、この辺(但馬)って旅にしろ何か目的がなければ来ないんですよね。僕は10年以上休みもなく、仕事の現場以外で旅に行くこともできない状態だったので。お話を伺った時はびっくりしたのですが、ぜひ務めさせていただきたいと思ったのです。
普通、劇場というのは少し特別な場所にあるもので、ちょっと行った離れの中にドンとあるんですね。永楽館をはじめて訪れた時、どんな場所にあるのかなと思ったら......民家民家民家、永楽館、民家、あれ!?という(笑)。普通に民家の間に建っていて立派なお屋敷という外観でした。ところが、よくよく知ると本当に歴史のある劇場で、中に入ると大正時代にタイムスリップしたような感じでしてね。いま劇場はかなり大きく便利になって、ほぼ自動になっていますが、こちらは昔ながらの手動ですし、サイズもこぢんまり。ああ昔の役者さんたち、大先輩たちはこういう場所でお芝居をしていたのだろうな、こうやって作品を作り上げて、それが現在に至っているんだと肌で感じて、初心に戻れると言うか。最初経験した時はすごくうれしかったです」


――今回の演目の見どころを教えてください。

K: 「僕はいつも自分がやりたい演目は度外視して、僕がお客さんだったら、この座組だったら何が観たいかをまず考えて、狂言演目を決めています。それ自体は松竹座でも永楽館でも同じなのですけれど、やっぱりわざわざここまで観にきていただくお客さんには「ここ」でしか観られないものをお観せしたい。それであえて、すべて「初役」に挑戦しています。常に第1回目をここでやりたい。もちろん初役は1回しかないですから、初めての役をお観せできる。昨年の『鯉つかみ』も久しぶりの復活で、それが成功してあとで東京の明治座でやりました。僕としても永楽館というのは杮落としから座頭公演を務めさせてもらっていて、これは役者にとって本当にありがたいことでもあり、やはり思い入れの強い劇場ですね。それこそ片岡十二集、『松嶋屋』の芸のひとつの『堀川与次郎内の場』も務めさせていただきました。まだ(永楽館歌舞伎は)6年目なんですけれど、僕も地元が大阪なので、ここへくると家に帰ってきた気持ちで。こちらの地元の方にもおかえりおかえりって言ってもらえるのがすごくうれしいんですよね」


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中幕『お目見得口上』にて。上村吉弥、片岡愛之助、中村壱太郎、坂東薪車の4方による笑いあふれる賑やかな口上。今年は『半沢直樹』の話題もちらほら。オネエ言葉の口上も要望があれば......と笑いをとるシーンも見られた。

――このあたりだと観光地として城崎温泉が有名ですが、訪れたことはありますか?

K: 「永楽館歌舞伎で泊まっていた出石のホテルが閉じて、第2回目からは城崎温泉に宿泊していたんですよ。ここまで城崎から通っていたのですが、温泉旅気分でとてもよかったんですよね。今年は出石に新しく宿が出来たので、今はまた近くに泊まっています。風情のある温泉街ですしもっとゆっくりと訪れたいのですけど、再来年までほぼ予定が決まっていてもう一切プライベートの時間がなくて......」

――今年はドラマの大ヒットもありましたが、テレビなど映像の中、舞台での演じることの違いは?

K: 「舞台と映像はまったく違いますね。舞台は役者のものですけど、映像は監督のものですから監督がすべてです。たとえば、監督のOKがでた時に、自分ではしっくりいかなくてもう一度テイクを重ねても前のほうがよかったりする。監督は画面の中で見てますからそこでOKがでたらそれがベストなんですよ。だから僕らは言われたとおり演じるのが一番よい。
舞台はお客さんとのキャッチボールで、お客さんと役者で作っていきます。ある種、真逆の面白さがありますね。映像では画面の中で成立させる世界がある。たとえばドキッとするシーンで目をギロッと動かすだけで映像でなら成り立つけど、舞台でやっても誰も気付いてくれませんよね。表現もそうですが舞台では空間をすべて支配して使って、お客さんを楽しませよう、とキャッチボールするんです。ただ、役を作って役になり切って役の性根を掴んで演じるという面では、歌舞伎にしろそれ以外の舞台にしろ、テレビや映画でも同じです」

――舞台と映像。演じる上で正反対のものと同じものを、上手くそれぞれに活かしているのですね。

K: 「そうです。歌舞伎で身に付けたことを映像で、映像で勉強したことを歌舞伎で活かせるといううれしさ、喜びは大きいです。歌舞伎役者でよかったなと思う時ですね。僕が歌舞伎以外にもさまざまな仕事をするのは、役者としても経験を積んで経験値を上げるのもそうですが、歌舞伎をひとりでも多くの方に知っていただきたいという思いからです。そして劇場に足を運んで歌舞伎を観て欲しい。 歌舞伎に興味がない方に聞くと、だいたい観たこともないのに難しそうだとか何言ってるかわからないとか言う。それって食わず嫌いじゃないですか。だからこの記事を読んだ方は、もう僕に騙されたと思って(笑)劇場にきてください。まずは僕らと同じ空間を経験していただきたいです。実はありがたいことに10月の松竹座も完売で今回の永楽館も2時間で完売してしまったのですよ。だから! ともかくこの記事を読んだらすぐ電話して、チケットを取ってください(笑)」

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後幕『四変化 弥生の花浅草祭』天保3年初演の変化舞踊。浅草神社の三社祭の山車に飾られた人形をモチーフとして「神功皇后と武内宿禰」「三社祭」「通人・野暮大尽」「石橋」の全段通しで上演した。写真上段は三社祭の漁師を舞う愛之助、写真下段は天竺の聖地に現れた獅子の精が勇壮に毛を振り舞い納めると、獅子の座に直る。

――もし、長期のお休みをとれたら行ってみたい場所はありますか?

K: 「僕は巡業で日本全国を飛び回りますけど、楽屋と劇場の往復ばかり。その中から決めるならやはり城崎温泉がおすすめです。これは贔屓で言う訳でもなくて、それこそ城崎温泉で温泉に入ってもらって、本日(11/6)カニの解禁日でしょ、名産のカニを食べて、歌舞伎観て、皿蕎麦食べていただくという。これが国内の旅としてはスペシャルなコースですよ。永楽館歌舞伎は来年もありますから。これは盛りだくさんで得した気分になりますよね。
海外に行くとしたらラスベガスに行きたい。行って本場のショーを生で鑑賞したいです。世界を魅了するエンターテインメントに演者として触れておきたいと思うのです。やっぱり僕は役者しかすることがないですからね」

★madame FIGARO.jp では、城崎温泉・出石の旅特集を近日公開予定! お楽しみに。

profile_ainosuke131216.jpg【PROFILE】
片岡愛之助/AINOSUKE KATAOKA

1972年大阪生まれ。5歳より松竹芸能で子役として活躍、9歳で13代目片岡仁左衛門の部屋子となり、92年に6代目片岡愛之助を襲名。映画やドラマの出演もこなし、「ラブリン」の愛称にて上方歌舞伎界で絶大な人気を誇っている。2013年はドラマ『半沢直樹』での強烈なオネエキャラで全国的に大注目となり「ここ10年以上休みが1日もない」生活は当面続きそう。
※上方舞、楳茂都流4世家元でもあり3代目 楳茂都扇性(うめもと せんしょう)を襲名

>>オフィシャルブログ「気まぐれ愛之助日記」はこちら


photos:NORIKO YAMAGUCHI texte:MISAKI HATAKEYAMA

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