文楽 『曾根崎心中』を手がける、
現代美術作家、杉本博司さんインタビュー。〈前編〉

インタビュー 2010.11.30

※このたび、東北地方太平洋沖地震により被害を受けられた皆さまには心よりお見舞い申し上げます。本日、3月16日、小田原文化財団広報部より、杉本文楽 曽根崎心中の公演中止のお知らせがあったことをご報告致します。チケットの払い戻しについては、3月18日(金)午前10時に神奈川芸術劇場HPにて案内があるそうです。
神奈川芸術劇場HP www.kaat.jp/


ニューヨークを拠点として世界を舞台に活躍する現代美術作家、杉本博司さん。今年の夏、彼が人形浄瑠璃を手がけるというニュースが発表され、話題をさらった。


1126news_1.JPGお初の人形を持つ桐竹勘十郎さん(左)と杉本博司さん(右)。

演目は『曾根崎心中』。18世紀に初演された近松門左衛門のこの作品を、杉本さんが構成・演出・美術・映像まで担当、原文に忠実に構成されるという、前代未聞のプロジェクトだ。また、人間国宝の吉田簑助さん(人形)と鶴澤清治さん(三味線)が今回のプロジェクトに賛同して参加。そして約300年の時を経て復活される序曲「観音廻り」では、当時の演出にならって桐竹勘十郎さんによる一人遣いの人形が登場、衣裳にはエルメスのスカーフを用いるなど、見所満載だ。

この公演は2011年3月、神奈川県・横浜に誕生する神奈川芸術劇場の開館記念公演の一環として上演される。先ごろ一時帰国して準備を進める杉本さんに、作品にかける思いを聞いた。


――人形浄瑠璃『曾根崎心中』を手がけることはいつから構想されていましたか。

「以前から、文楽を手がけてみたいという気持ちはあったんです。それが具体的になったのが、2011年に新しくできる神奈川芸術劇場の杮落としのプログラムで何かやりましょうというお話をいただいてから。昨年は小田原文化財団を立ち上げ、古典演劇の復曲・復活、現代的な再解釈といった、古典芸能をプロモートするということをひとつの目的に掲げており、せっかくだから文楽をやろう、ということになりました」

――『曾根崎心中』という作品のどのような点に特に惹かれましたか。

「この作品は近松門左衛門の代表作であり、"世話物"の第一作目なんです。それまで文楽ではもっと歴史的な題材を扱っていましたが、この作品のルポルタージュ性、速報性が当時の人々を驚かせた。いまのようにニュースメディアがない時代に、事件が起こってから1カ月以内に文楽の舞台に上げるというのは、それだけでセンセーショナル。メディア として革命的な仕掛けだったと思うんです。

爆発的な大ヒットになりましたが、その影響で心中が大流行してしまい、社会的問題と化して、初演から20年後に当時の江戸幕府はこの演目を禁曲にしています。それから300年以上経ち、昭和30年に復曲されたわけですが、近松の時代の演劇の形式は踏襲されず、現在いくつかあるバージョンでは、初段の『観音廻り』という重要な曲が削られているので、完全復曲を目指すことには意味があるのではないかと思いました。近松 の時代の浄瑠璃本を元に、忠実に再現しようと考えたのです」


1126news_2new.jpg舞台装置として使用される梅暖簾。

――その「観音廻り」が現行曲で省略されているのは何故だと思われますか。

「おそらく江戸初期には、観音廻りの33箇所というのは、いまの人たちがディズニーランドに行くような感覚だったのではないかと思います(笑)。苦行を簡略化し、1日で 33箇所巡ればご利益がある、というようなエンターテインメント性があり、ブームになった。お寺の名前を聞けば、当時の大阪の人たちは、ああ、あの観音様だな、と具体的にイメー ジできた。でも300年以上経った現代では、みんな名前を聞いても何のことか分からないから、演劇的な緊張感を保つのことが難しい、ということだと思うんです。33箇所 すべて名前が出てきますが、退屈になってしまう。そこをどのようにして、演劇的な舞台空間として、緊張を持続できるようにするかというのが、 今回のひとつの大きな挑戦です。

そのために舞台装置も、文楽の書割から完全に離れて、抽象化された、映像も多用した舞台にしようと考え、実際に33箇所を巡ってきました。場所は移ってしまったところもありますが、33箇所のうち24箇所が現存しています。道標だけが立っている所もある。それを映像で、闇のなかでスク リーンに ぼうっと映し出して、それに向かってお初がお祈りをしながら道行を行く、という設定にしています。

元禄時代の初演時には、お初を辰松八郎兵衛という人が一人遣いの人形でつとめ、人気を博したと聞き、その一人遣いの人形も復活させようと、いま新しくつくっています。辰松八郎兵衛は、手品師的で、いろいろな演出をして、観客を飽きさせないための小道具や仕掛けにすごく凝っていたそうです。ただ、その記録があまり残っていないので、いろいろ想像しながら、仕掛けをつくっていこうと考えています。伝統とは、固定化されて、絶対に変えてはいけないものではないと思うんです。指は10本 あるから、全部使えば10通りの動きができるはず(笑)。いままでの文楽の舞台と違うことをするけれど、実は近松時代の原曲に近づけていて、それが逆にいちばん新しいことだというのがおもしろい。二重否定のようで、それが現代的であると思うんです」


1126news_3.jpg杉本博司さん。現代アートのギャラリーのような東京の自宅にて。

*後編はコチラ


『杉本文楽 曾根崎心中』
●3月23日~27日
●神奈川芸術劇場 ホール
S席¥5,700、A席¥4,200、B席¥3,000
問い合わせ先:神奈川芸術劇場 Tel 045-633-6500
http://sugimoto-bunraku.com
http://www.kaat.jp
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