【犬山紙子】1万円のTシャツ
犬山紙子がいま思うこと 2021.06.11
文:犬山紙子
いつからか半袖のTシャツがしっくりこなくなった。肉のつき方が変わってきたからなのか、どうもTシャツの爽やかさに対し「ちょっと待ってくれ、眩しすぎるよ君」と体が引いた状態になってしまう。
photo : iStock
しかしTシャツがないと夏が始まらない。ザブザブ洗えて、涼しくて、そんなに高くなくて、何にでも合って。いや、どんなボトムスにも合うけど、体には合わなくなってきた……。
自虐をしたいんじゃないのです。夏のスタメンが合わなくなったらどうすりゃいいの?って軽く混乱しているのです。
Tシャツが似合うのだったら、パステルコーデとかしたいんです。今年はピンクとグリーンの組み合わせがやたらと可愛く見えるんですよ、多分CHANELのパステルカラーパンプスを見て気持ち持って行かれただけなのですが。
とりあえず折衷案として半袖ではなく5部袖。襟ぐりもそこそこ空いていて、ボディ部分はタイト目でクロップド丈のものだとしっくり着そうな気がするんですが、なかなか見つからない、見つかっても1万くらいする。
そう、これを書いている今、その1万円のTシャツを買うかどうかものすごく悩んでいるんです。買ったら絶対たくさん着る。しっくり来るはずだし、きっと「この夏の相棒!」って話しかけるし、インスタにも「このTシャツが本当に素晴らしい」とか書くでしょう。でもTシャツに1万か......。FIGARO様で書くことじゃないと思いつつ、躊躇してしまうのはなんなのでしょう。今朝ソシャゲに1万課金したくせに......。(いや、これはいま石がお得に買えるキャンペーン中だからなんです信じてください)
ねえ、これを読んでいる皆様、かなり気に入ったTシャツが1万円だったらどうしますか? そこまで馴染みのあるブランドというわけでもないんです。憧れのブランドという立ち位置でもない。こんなことでずーっと悩んでいる友人がいたら「悩んでる時間がもったいないから今すぐ買っちゃえ」って言うのに。こうやって結局買わないで、私はこの夏「なんかしっくりこないなー」と思いながらも半袖のTシャツを着るのかもしれません。そして自分の目がTシャツ姿に慣れた頃秋を迎えるってわけです。
そうです、「Tシャツが似合うように体を引き締めよう」なんて1ミリも思わないのがポイントです。なんのポイントかは知りませんが......。
イラストレーター、エッセイスト。1981年、大阪府生まれ。2011年『負け美女 ルックスが仇になる』(マガジンハウス刊)にてデビュー。
テレビのコメンテーターとしても活躍する。2017年に1月に長女を出産。