39歳、顔を変えた日。
犬山紙子がいま思うこと 2021.12.10
文:犬山紙子
先日顔を変えてきた。
40年弱付き合ってきた顔を変えることは「もしかすると後悔に襲われるかもしれない」と怖さ半分、「でもやっぱり変えたいようなあ、そっちの方がしっくりきそうだものなあ」という期待半分。
どこを変えたかというと眉です。
眉のアートメイクが昨今非常に自然で、2、3年でかなり薄くなるらしいという情報を得たまろ眉の私は1年間悩んでいました。2、3年で薄くなると言っても彫るわけだから、ずっと残る可能性だってある。万が一気に入らなかったらその2、3年しんどいだろうなとか。そもそも医療行為だしなとか。あとは、一番心の底にこびりついていた気持ちは「生まれたままの顔を自分が愛せなかった証拠になるんじゃないだろうか」ということと。
でも、私は30歳をすぎたあたりから「メイクをした顔も私の本当の顔だ」と思うようになっていた。だって、自分の美意識に沿って選び、施したメイクはまさに私の個性そのものだし、それでしっくりきているんだから、それは私の本当の顔のはずだ。メイクをしない顔にしっくりくる人も、私のようにメイクをした顔にしっくりくる人も、その人のしっくりが「本当」なんだと思っている。そしてその本当は状況で揺らぐものだとも思う。
私は高校生の頃から毎日眉を描いていた。校則の厳しい高校だったので、放課後に描く。バレて怒られたこともあったけど、それでも描いた。そこから20年以上日々描いているのである。20代前半くらいまでは細く描いて、徐々に太くなり、30代後半で太さのピークが訪れ、最近は「眉頭から気が生え続けていたらこれくらい生えていたのでは」という感じで描いていた。眉を描くことに「社会の美の基準に合わせなきゃいけないのは辛い」という気持ちは全くなく(ブラをしなきゃいけないこと、乳首が浮いてるのがNGな空気には嫌だなという気持ちがある)むしろ嬉々として描いていた。だって、そっちの顔の方がしっくりくるから。私の美意識はもちろん社会の美の基準に影響を受けたもののはず、それでも私は主体的に描いていた。
もうそんだけ描いてきたんだから、私は眉のある顔が好きなんでしょうよ。「生まれたままの顔を愛さなきゃいけない」みたいな価値観も、そりゃ愛せたら良いけれど、愛さなきゃいけないとなると途端に苦しくなる。そもそも生まれた顔は自分で選び取れない。その顔に対する解釈は選び取れるけれど、それはそれでポジティブに変えていくのも難しいところもある。だからこそ、ボディポジティブやボディニュートラルという概念が今身近にあることを喜ばしくも思っている。最初からその概念を知って、それで思春期を迎えたかったから。
まあ、眉のないすっぴんもどこか気が抜けていて呑気な感じがして嫌いではなかったけれど、すっぴんにも眉があるなら私はそっちのほうが好き、ただそれだけの話でした。
というわけで、アートメイクを施した後、私のアイデンティテイは崩壊しなかったし、自分で選び取って得たものだがら堂々としてられるし、この顔は私の本当の顔だと思っている。誰かに「あなたの顔は醜いですよ、こう直しなさい」と言われたり、それまで気に入ってたのに社会の中で不安が煽られて「あなたは、こう変えないとやばいですよ」と言われたりという動機だったら、多分こういう気持ちにはなっていない。そういうことを言う人や企業は本気でどうかと思う。どうかと思うどころかなくなってほしいと思う。
脱毛もダイエットもそう、したい人はすればいい。でも「しなきゃやばいよ!」と企業側が煽ってお金を払わせるの、ほんとどうかと思う。そして煽らない広告を出す企業を私は好きだなと思う。
さて、眉のアートメイク。どんな感じで入れたかというと2、3年で薄くなるとはいえ、残ることも考え細眉でいれました。これで細眉が流行っても大丈夫! 外出時はペンシルで気持ち足したりしてます。メイクが楽だ……。施術は私の感想だとほとんど痛くもなく、仕上がりも大満足です。違和感もなし。
このタイミングで赤ちゃんの時の写真を見てみると、なんともいえない魅力のある私がそこにいた。まあ、眉がどうこういう前に髪が爆発しているがそれもかわいい。顔を変えたからって生まれた時の顔がかわいそうなものになる、だなんてことも特になかった。赤ちゃんの時の私の顔も、あと選び取った今の私の顔も(縮毛矯正もしてます)どっちも私の顔ということで。
photo : Kamiko Inuyama
アートメイク入れたくらいで大袈裟なと思った方もいるかもしれないけど、自分の顔って大袈裟になっちゃうものだと思うのです。
※アートメイクは医療行為です。MRIを撮る時も申告が必要になります。しっかりリスクを考え、医師と相談することが大切です。
イラストレーター、エッセイスト。1981年、大阪府生まれ。2011年『負け美女 ルックスが仇になる』(マガジンハウス刊)にてデビュー。
テレビのコメンテーターとしても活躍する。2017年に1月に長女を出産。