梅雨に入ると雨ばかりで、暗たんたる気持ちになりがちだけれど、鎌倉に暮らしているとそうでもない。というのも、あちこちで紫陽花が色づき、見ごろを迎え、心を穏やかにしてくれるからだ。

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材木座海岸の夕暮れ。夏が近づいてくると、夕焼けの色合いがぐっと濃くなってくる

この町に暮らし始めた10年ちょっと前は、それほどでもなかった気がするのだが、その華やかさは年々知られ、紫陽花で有名な寺院の混雑様といったら、びっくりするほど。北鎌倉の明月院や長谷の長谷寺の紫陽花はとくに知られていて、後者は表の通りに「〇〇分待ち」という電光掲示板まで設置されるようになった。確かに2か所とも、その紫陽花の見事な様には私自身も目を奪われた経験がある。機会があったら、足を伸ばしてもいいかもしれない。

でもやっぱり、混雑は避けたい…。というのであれば、なんとなく散歩をしているだけでも、あちこちで紫陽花に出合え、楽しめるのが、鎌倉のいいところ。うちの庭にも、もとの持ち主が植えたピンク色の紫陽花が、これといった手入れもしていないのに、毎年、可愛らしい花(ではないけれど、花とここでは言わせてもらう)をつけてくれる。

紫陽花だけでなく、この時期はあちこちでつぎつぎにさまざまな花が咲く。とくに犬を飼うようになって、そして子どもが産まれて、目的なく散歩をする機会が増えたから、そんな出合いが増えたのかもしれない。

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町内会広場にある桜の木の実(さくらんぼ)。子どもたちは甘いことを知っていて、色づくと皆が食べにくる

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愛犬・椿との朝散歩。町内の奥まったところに畑があり、さらに奥から裏山へとつづく、地元の人しか知らない道がある

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ところで、鎌倉で紫陽花をよく見かけるのは、土質が紫陽花に向いているから、と聞いたことがある。けれど、なにより湿度が関係していると思う。三方が山に囲まれて、一面は海。とはいえこの湿気、紫陽花にはいいのかもしれないが、家のなかではカビの大敵だ。カビによる驚く事件はたびたび耳にしており、思い出してもぞっと鳥肌が立つのは、「ひと月ほど家を開けたら、和室の一面の畳がうっすらと埃で覆われている?と手で払ったらカビだった!」という話。

カビ問題については、鎌倉に引っ越す前に、在住の友人にアドバイスを度々受けた。木や竹のカトラリーは絶対に引き出しに仕舞わないこと。鞄や靴などの革製品も風通しのいいところに置く。カメラは絶対に防湿庫へ、などなど。たくさんの言いつけを守ったにも関わらず、いくつかの物にカビを生やしてしまい、泣く泣く処分したこともある。好きでいくつか持っていた籐のカゴは、カビを生やすことが怖くて、実家に置いてきたまま、それもどうかと思うが、10年以上眠ったままになっている。

海の近くに暮らすと、この湿気とは、いつでも戦いなる。とはいえ、いずれ慣れてくる、というか折り合いがつけられるようになる。それよりも、花の話。この時期、気候もいいので、海に行く機会も増えてくるのだけれど、その道中で、淡いピンク色の八重咲きのタチアオイが庭先に咲く家があって、花をつけるのがもうそろそろのはず。一度、見惚れていたら、住人がたまたま出てきたので、立ち話をした。駅前の中華屋脇に同じタチアオイが咲いていて、種をもらってきて、パッパッと蒔いたら咲いたのよ。と、本当かな。いつか、私も種をもらってきて、庭先に蒔こうと思っている。

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梅雨前に咲き乱れる、鎌倉・安養院のツツジ。娘はこの頃、ツツジの蜜が甘いことを知りすぐに摘もうとするので、目が離せない

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夏本番は日差しが強いので、梅雨とはいえ6月は子どもと海遊びをするのにちょうどいい。水辺でひと遊びしたあと、着替えておやつタイム

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長女が1歳のとき、家の近くで。庭にも紫陽花はあるのだけれど、あちこちできれいに咲いているので、つい写真を撮りたくなる

photography & text: KIKI

KIKI

モデル。1978年生まれ、東京都出身。武蔵野美術大学造形学部建築学科卒。雑誌をはじめ広告、テレビ出演、映画などで活躍。エッセイなどの執筆も手がけ、旅や登山をテーマにしたフォトエッセイ『美しい山を旅して』(平凡社)など多数の著書がある。現在、文芸誌『小説幻冬』(幻冬舎)にて書評を連載中。インスタグラム:@campagne_premiere

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