私たちを見守る映画『ベルリン・天使の詩』

昨年の夏から、何度となく思い出す映画が『ベルリン・天使の詩』です。

この映画が公開された1988年間頃、東京はミニシアターブーム。いまも残る日比谷シャンテ シネ2で観た時に買ったパンフレットが手元に残っています。
シャンテはパンフレットの表紙をラベンダー色とライトグリーンに分けていて、『ベル天』(私の周りの映画好きたちは、略してこう呼んでました!)は、ライトグリーン。こういう色彩の区別はとても効果的で、この記事を書くために戸棚の奥から探す時、すぐに見つかりました。

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シナリオの邦訳まで採録されています。ミニシアターブーム時は、どの映画館のパンフレットも本当に素晴らしい出来映えでした! 私の宝物です。

天使たちは、上空からベルリンの街を眺めます。ここに生きるさまざまな人々の声が天使の耳に届きます。雑音のようでいて、それらには強弱ありながら、天使の心に響き残る声もあるのかな……観ていてそんな気持ちになります。

たとえ現実で誰も自分の心の声に気づいてくれなくても、天使だけは気づいてくれているかもしれない。観客たちは、そんな思いを抱くのかもしれません。

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天使カシエルの役は、オットー・ザンダー。

ヨーロッパセンターの高いビルの屋上で縁に腰掛ける男性のシーン。男の心の声を聴きながら、天使カシエルは彼の肩に手を置きます。天使の姿は人間からは見えないので、男は、天使が必死に、飛び降りることを止めさせようと祈っていることに気づけません。
カシエルがどんなに願っても、男は地上へと身を投げてしまいます。カシエルは、天使という存在の無力さに深く傷つきます。

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『ベルリン・天使の詩』の主人公は、もうひとりの天使ダミエルです。永遠の命を授かり傍観する天使という立場を捨てて、人間として生きることを選択します。誰かの人生を見守るのではなく、自らの人生を生きて、有限の生を味わう生き物にトランスフォームするのです。

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ピーター・フォーク(右)が人間になった天使の先輩として出演。ダミエル役(左)はブルーノ・ガンツが温かみをもって演じています。

天使の瞳に映る世界はモノクロなのですが、人間の世界には色彩があります。天使ダミエルは人間になり、色彩を感じ、そして、豊かな髪をした空中ブランコ乗りの女性に恋をします。世界の色はもっと鮮やかになってダミエルを包みます。

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2021年春夏のルイ・ヴィトンのプレタポルテのショーが昨年10月パリのサマリテーヌで催された際、『ベンリン・天使の詩』の映像が一部使われました。ブランコ乗りマリオン(ソルヴェイグ・ドマルタン。後にヴィム・ヴェンダース監督のパートナーとなり、いまはお別れしてますが)が妖艶な姿を見せている部分が使用されています。

誰かが哀しみに堕ちていくことを救えたら、実体をともなったリアルなサポートのきっかけさえあったなら。
でも、この映画を観ると、ふと思うのです。その眼差しが見えなくても、その声が直接耳に届かなくても、人は誰でも「何か」に守られているのかもしれない、と。その存在に気づくか気づかないかは、その人次第なのですが。
観終わった後の、じんわりと残る温かな気持ちが、『ベルリン・天使の詩』がいつまでも人々の記憶に留まり、時代が変わっても愛され続ける理由なのでしょう。

『ベルリン・天使の詩』
●監督・脚本・製作/ヴィム・ヴェンダース 
●出演/ブルーノ・ガンツ、オットー・ザンダー、ソルヴェイグ・ドマルタン、ピーター・フォーク 
●1987年、西ドイツ・フランス映画 
●128分 
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