優しさの先にある強さ、『永遠の0』

祖母が亡くなり、深い悲しみに泣き崩れる祖父。しかし、その祖父と自分は、血が繋がっていなかったことがわかる。戦地で命を落とした実の祖父とはどんな人物だったのか? 
佐伯健太郎(三浦春馬)は、姉(吹石一恵)とともに実の祖父の姿を探す。日本が敗戦国となった第二次世界大戦も終わりに近い頃、戦地に赴いていた祖父は、当時の同僚何人かにこう表現される——あいつは臆病者だった——それによって、かえって調査に燃える方向に導かれていくのだが。現在の自分と同じ26歳で命を落とした祖父=零戦パイロット、宮部久蔵(岡田准一)。司法浪人を続ける将来が覚束ない健太郎青年にとっては、「臆病者」の血を継ぐのはなんだか悲運な心持ち。姉からの提案で始めた実祖父の調査は、零戦パイロットでありながら、当時の大日本帝国軍にあって「死にたくない」と言えた宮部を尊敬していた、というある同僚の言葉を聞いて、新たなスタートを切る。

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もっと知りたい、という気持ちが健太郎を動かす。映画公開当時のインタビューで三浦春馬は、ドキュメンタリー映画などを観ると聞き手は語尾を伸ばして対応していることが多く、健太郎を演じるうえでもそれを取り入れた、と語っている。
「聞く力」は他者を動かす力だとも思う。多くの人には語りたい物語があって、真剣に受け止めてくれるか、記憶に残してくれるか、は話し手にとってとても大事なことだから。本作の登場人物たちも、戦争という人間の負の部分のことだからこそ、誰かれかまわずではなく、最も語るべき時に真摯な聞き手を得て、当時起きていたことを受け継ぐべき時が来た、とバトンを渡すように語り切っていく。良い聞き手は、物語を繋ぎ伝える重要な存在なのだ。
最初から最後まで、さまざまな事実に出合っても決して強くなりきらない健太郎がいい。ここで、本人が持つ弱さを完全に乗り越えてしまったら、かえってリアリティがなくなってしまう。一貫して繊細さを失わない悩める人物を三浦春馬は演じている。

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相対するのは生きる時代が違うので、共演シーンがまったくない岡田准一の宮部久蔵。三浦春馬は自分が出演しない岡田のシーンの撮影現場を見学に行ったそうだ。
宮部は心の芯が強く、生きる目的があって、いつも他者の幸せに心を配る完璧さを持っている。男同志の妬みを誘発するくらい高い哲学があるゆえ、真の味方が宮部のために尽力し動くような理想の昭和の男を演じている。日本に残してきた妻子を想い、寄港で1日だけ家族と過ごした時、「生まれ変わっても私は戻ってきます」という言葉を残して戦地に再び赴く。
生きざまという言葉は時に陳腐に響くかもしれないが、宮部のように、他者を想う優しさの先に強さがある人物は、その生きざまゆえの救いが必ずある、そんなメッセージが本作には宿っている。
零戦機からぴょんと降りる時の岡田准一の姿はとてもしなやかで美しい。身体性が優れた人ならではの動きだ。最近、若手俳優にインタビューすると、多くが格闘技をふだんからやっていると答えるが、それは岡田准一の影響が強い。日本映画界のアクションを引っ張っていく、まさに中心人物だ。

本作の山崎貴監督は、人間ドラマをVFXにのせてメッセージする作り手。飛行機のシーンがどんなに素晴らしくても、それは伝えたい人の生きざまがあるからこそ。10月29日まで監督の出身地である長野県の、松本市美術館にて「映画監督 山崎貴の世界」が開催されているので観に行きたいと思っている。

最後に、ある紙漉きの職人の方がおっしゃっていたことを。
「実際に会った三浦春馬という人は、日本に古くからいる心の強い男という印象だった」
本作では繊細な聞き手を演じていたが、三浦春馬の本来のDNAは、大和魂のある強い人物だったのではないか。

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『永遠の0』
●監督・共同脚本・VFX/山崎貴
●共同脚本/林民夫
●出演/岡田准一、三浦春馬、井上真央ほか
●2013年、日本映画
●本編144分
●DVD『永遠の0』(通常版) 販売・発売:アミューズソフト¥4,180
●原作/百田尚樹
©2013「永遠の0」製作委員会

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