ジーナ・ローランズに憧れて。

1981年、映画『グロリア』が公開された時、まだ高校生だった。別の映画を観に国鉄の渋谷駅の改札を出て、ビルにかけられた広告を目にした時に度肝を抜かれた。片手に銃を構え、もう一方の手で小さな男の子を庇い、いまで言うところのミモレ丈のスカートをはいて大股広げて地面にハイヒールで立つブロンドの女性の映画ポスター。

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©1980 Columbia Pictures Industries, Inc.  All Rights Reserved.

『グロリア』とジーナ・ローランズとの出会いはこれが最初だった。衝撃的にカッコよかった。作品も、ティーンだった私の目には不思議に映った。アクションなのにどこか野暮。むしろ生活感がある。ニューヨークの街にはとても憧れていたけれど、人種のるつぼという表現がストレートに響いてきて、キラキラしたイメージだけを追いかけてた自分の心理にも気付かされた。

タバコを吸い、いつも機嫌の悪いグロリアに母性を見出すのは、フツーの論理や表現からかけ離れていて、若かったワタシは一回転脳を回さないと作り手のメッセージを理解できなかった。でも、憧れた......グロリアと、一重というか奥二重?のクールな女優ジーナ・ローランズに。

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『グロリア』 ●監督・脚本/ジョン・カサヴェテス ●出演/ジーナ・ローランズ、ジョン・アダムス、バック・ヘンリーほか ●1980年、アメリカ映画 ●121分 ●DVD \1,551 デジタル配信中 発売・販売:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
©1980 Columbia Pictures Industries, Inc.  All Rights Reserved.

やがて、ニューヨークインディーズ映画が世界的にトレンドとして認められ、ジョン・カサヴェテスという映画作家が亡くなった後に、レトロスペクティヴ上映が東京のミニシアターでも行われるようになった。もちろん通い詰め、全作品を観て、劇場パンフレットを購入し、現在も大切に持っている。

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こういうレトロスペクティヴの場では、『グロリア』はあまり上映されず、それ以前に制作された『フェイシズ』(68年)、『こわれゆく女』(74年)、『オープニング・ナイト』(78年)、『ラヴ・ストリームス』(83年)などで構成されていた。ジーナ・ローランズの夫でもある『グロリア』のジョン・カサヴェテス監督は、本作があまり好きではなかったという説もある。ただし、どの作品でも女優ジーナ・ローランズは異様な存在感を放っていた。

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『フェイシズ』 ●監督・脚本/ジョン・カサヴェテス ●出演/ジョン・マーリー、ジーナ・ローランズ、シーモア・カッセルほか ●1968年、アメリカ映画 ●130分 ●Blu-ray ¥2,750 発売・販売:キングレコード
©1968 JOHN CASSAVETES

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『こわれゆく女』 ●監督・脚本/ジョン・カサヴェテス ●出演/ジーナ・ローランズ、ピーター・フォーク、マシュー・カッセルほか ●1974年、アメリカ映画 ●146分 ●Blu-ray ¥2,750 発売・販売:キングレコード
©1974 Faces International Films,Inc.

『フェイシズ』は人間の心の動きを追って追って絵にしていく作品。『こわれゆく女』は神経質な妻に手を焼きながらも夫婦の間に愛は続くみたいな作品。『オープニング・ナイト』は実生活で夫婦だったジョンとジーナが最初で最後の夫婦役を演じた舞台BTSもの。『ラヴ・ストリームス』はなんとベルリン国際映画祭で最高賞の金熊賞を受賞した、まさにタイトル同様、「愛とは流れゆくもの」という台詞が心に響く映画。

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『オープニング・ナイト』 ●監督・脚本・出演/ジョン・カサヴェテス ●出演/ジーナ・ローランズ、ベン・ギャザラ、シーモア・カッセルほか ●1978年、アメリカ映画 ●144分 ●Blu-ray ¥2,750 発売・販売:キングレコード
©1977 Faces Distribution Corporation

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『ラヴ・ストリームス』 ●監督・共同脚本・出演/ジョン・カサヴェテス ●出演/ジーナ・ローランズ、ダイアン・アボット、シーモア・カッセルほか ●1983年、アメリカ映画 ●139分 ●Blu-ray ¥5,280 発売・販売:アイ・ヴィー・シー
©2022 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.

アメリカのインディーズ映画の世界で憧れの存在でもあった夫婦のクリエイションに触発された映画人たちは多くて、91年にはジム・ジャームッシュが『ナイト・オン・ザ・プラネット』でジーナ・ローランズを起用した。89年にはウディ・アレンが『私の中のもうひとりの私』でヒロインに。

そして現在、息子のニック・カサヴェテスと娘のゾーイ・カサヴェテスも映画監督をしている。97年のニック・カサヴェテスによる『シーズ・ソー・ラヴリー』は恋愛の本質を射抜く作品だと思う。ニックは他の作品でもよく母親を自身の監督作に女優として登場させた。おまけに、『シーズ~』の脚本はジョン・カサヴェテスによる。だからこそ、愛とは? 結婚とは? というテーマに対して深い考えが根底に横たわっているのだと思う。ゾーイ・カサヴェテスは『ブロークン・イングリッシュ』(2007年)でジーナ・ローランズを起用している。ゾーイは、ファッションブランドのミュウミュウが行っている女性クリエイターサポートプロジェクト「女性たちの物語」(気鋭の女性映画監督にミュウミュウの衣装を用いて短編映画を作成する)でも第1回作品のメガホンを握った。

まさに映画一家を形成し、子どもたちも映画業界で活躍している素晴らしい家族。現代で言えば、それは"セレブ的"なのかもしれない。ただ、私がジーナ・ローランズに憧れたのは、セレブ的な(要素を持つ)映画業界の大女優、というスペックではまったくない。

母性と愛について、不器用前面に出して観客に考えさせてくれる演技を見せてくれたこと、ローレン・バコールにも似たクールな眼差しで超絶カッコいい役柄なのに、その中に人間の欠点を忍ばせて演じてくれたこと。俳優という職業が、観客に届けるメッセージのなかで最も大切な「人間の感情とは何か」を考える動機に、いつも私にとってなってくれていたことが、憧れの女性である理由だ。

出演作を、また観直す時間をとらねば!

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