『ワン・フロム・ザ・ハート』にはシネマの魔法が詰まってる!

何度もリピートして『ワン・フロム・ザ・ハート』について触れてきている。それくらい大好きな映画。

ラスベガスの街を舞台にしたかったけれど、そうはいかない......だから、セットでラスベガスを作ってしまった巨匠フランシス・F・コッポラ監督による夢物語のような作品だ。

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目もくらむようなショートカットの美女(ナスターシャ・キンスキーが演じる)が綱渡りをするサーカスのシーンに陶酔し、やさぐれた中年の男女が喧嘩別れしそうだったりしなかったりする模様がヤケにリアリティがあったり。極めてシンプルなストーリーなのだけれど、スクリーンの中にたくさんのときめきがある。主役は、むしろキラキラしたネオンが彩るラスベガスのセットなのかもしれない。

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左のナスターシャ・キンスキーは当時もっとも好きな女優だった。フレデリック・フォレストはコッポラ作品の常連俳優。

初めて観たのは、高校生の時だった。恋だの愛だのなんて、興味はあっても実体験が伴わない年齢。そんな時分であっても、冴えない男ハンク(フレデリック・フォレスト)が、失いそうになっている長年付き合ってきた恋人フラニー(故テリー・ガー)が去ろうとしている空港で、彼女に向かって「You are my sunshine」を上手とは決して言えない声で歌うシーンで思った。

「ロマンティックとは、たぶん、こういうことなんだろうな」と。

素敵でなくていい。キレイでなくてもいい。上手や巧みでなくてもいい。けれど、心がこもっていて、どこか切なく、完全に手に入りきらないこと......それがロマンティックってことなのかもしれない、と。

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フラニーとハンク。中年の恋はいかに?

コッポラ監督は、一度作った作品を何度も編集し直すという。時代に合わせて、自身の考えの変化に合わせて、新しい作品に生まれ変わらせてゆく。

『地獄の黙示録』で大成功した直後、彼は『ワン・フロム・ザ・ハート』を撮った。巨大セットに資金をつぎ込みすぎたせいで、破産までしてしまった。それでも、本作のみならず、自身が手掛けたさまざまな作品に、コッポラ監督は現在も手を入れ続けている。その執念にも、どこかロマンティシズムを感じてしまう。そんなコッポラの偉業を讃えて、昨年から『70/80年代 フランシス・F・コッポラ 特集上映-終わりなき再編集-』という上映が組まれ、本作含め数本の作品が新しい姿となって公開されている。

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誰が何と言おうと、テリー・ガーは愛らしくて素敵な俳優なのだ。

2024年10月29日に逝ってしまった俳優テリー・ガーの姿をスクリーンで観られることは何よりうれしかった。

『ヤング・フランケンシュタイン』『ミスター・マム』『ザ・プレイヤー』『アフター・アワーズ』『トッツィー』『デブラ・ウィンガーを探して』。私の心に残る、ウィットが利いたアメリカ映画には、いつもテリー・ガーの姿があった。決して美人じゃあないし、親しみやすすぎてむしろハリウッド女優という言葉は似合わないタイプかもしれない。でも、彼女が出ると、画面はなんともいえないユーモアや間(ま)が生まれて、映画を「よりおもしろく」素敵にする役者だと思っている。

本作で彼女が演じるフラニーは、最後、誰を選ぶのか? ラスベガスに暮す中年カップルの恋の結末はいかに? 華やかなかりもののような場所だからこそ、おしゃれでない恋に観客の目が気持ちが向かう。コッポラ監督の人間観察のユーモアにも共感してしまう。

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そしてもうひとつ、この映画の絶対的魅力は音楽にあり。トム・ウェイツとクリスタル・ゲイルによるサントラ盤を何度聴いたことか! レコードもCDも持っている。トム・ウェイツの渋いダミ声とクリスタル・ゲイルの透明感のある美声。そんなふたつの声が、なんとも言い表せないくらいかっこよくおしゃれにハモるのだ。

『ワン・フロム・ザ・ハート リプライズ ‐4Kレストア版‐』
●監督・共同脚本/フランシス・フォード・コッポラ
●出演/フレデリック・フォレスト、テリー・ガー、ナスターシャ・キンスキーほか
●1982年、アメリカ映画 
●93分 
●全国にて順次公開中
© 1982 Zoetrope Studios

編集KIM=編集長森田聖美 2024年よりフィガロジャポン編集長。フィガロ歴約30年。旅、ファッション、美容、カルチャーなど、現場時代はマルチで担当。多趣味だが、いちばん大切にしているのは映画観賞。格闘も好きでMMAなどよく観戦に行く。旅は基本的にひとりで行くのが好み。チミーグッズをこよなく愛する。

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