1人3役をこなす新人ラプスリーにインタビュー
Music Sketch 2016.04.28
19歳にしてソングライター、パフォーマー、プロデューサー......と、1人3役をこなすイギリスからデビューした話題の新人、ラプスリー(Låpsley)。その低音から高音へと伸びる歌声などから、"ポスト・アデル"と評されることが多いですが、当然ながら本人は誰かと比較されたり、一括りにされることを嫌がります。一体どんな女性なのか、今月4月に初来日したラプスリーに話を聞いてきました。

スウェーデン人の母親の名字がLåpsleyで、それをアーティスト名にしたそう。
■ ネットにあげた曲を機に17歳でマネジメントと契約。
― 音楽の楽しさを知ったのは何歳頃からですか?
ラプスリー(以下、L):「5歳からピアノなどを習い始めて、曲作りは13、14歳から。プロデュースは3年前からMacについているGarageBandを使って、2年前からLogic Pro Xを使ってプロフェッショナルにやりだした。ミュージシャンとしてのキャリアを本格的に始めたのは2年前からよ」
― 音楽で生活していこうと決めたのは何歳だったの?
L:「その17歳の時。最初に自分の曲をネット上のSoundCloudにアップしたのが2013年の終わり頃で、17歳だったの。大学に進むために6ヶ月間勉強に集中していたんだけど、レコード会社やマネジメントから『契約したい』とメールが来て、悩んだけど音楽の道に進むことにしたの。当時は地学、特に火山を専門に研究したくて、日本についてもいろいろ調べていたのよ」
― そうなんですね。ご両親のCDコレクション、例えばジョニ・ミッチェルやフリートウッド・マック、スミスなどを聴いていたそうですが、エレクトロニック・ミュージックへの興味はいつ頃から湧いてきたの?
L:「14歳ね。Tychoとかアメリカン・ダラーとか聴くようになって、それからレイヴパーティやクラブにも行きだした。エレクトロニカが好きで、テクノにも夢中になって、DJやプロデューサーといった職業や、モジュレーターといったエフェクターなどにも関心を持つようになったの」
「Station」作曲、歌、演奏、プロデュースなどラプスリー1人で担当した。2014年1月に発表。
■ エネルギーが有り余っているので、何でもやりたい性格。
― 曲を作り始めたきっかけは?
L:「最初の頃はもっと実験的でちょっとディープな感じ。表面的にはアンビエントだったりR&Bだったり。自分が歌えなかったら、誰かに歌ってもらおうと思っていた。最初は誰かのために書いてるわけでもなくて、自分の部屋で楽しんでいるだけだったから、歌詞は適当に書いていたの。それをSoundCloudにアップした途端、いろんな人が聴くようになって、レコード会社からメールが来るようになったわけ」
― 14歳の頃から勉強もしながらクラブにも行くって、どんな子どもだったの?
L:「エレクトロニック・ミュージックは大好きだったけど、女子校だったし、私の趣味を知ってる人は少なかったかもしれない。私はアカデミックな子で、英語も数学も科学も好きで、何かを学ぶことにすごい情熱がある。ピアノはうまくはなかったけど、オーボエも演奏していたし。あとホッケーチームのキャプテンをやって、1人乗りのセイリングでも結構いい成績を収めていたわ。とにかくいろんなことに情熱的なの(笑)。両親が自分を応援してくれることもあるけど、私はエネルギーが有り余っているので、忙しくしていないと落ち着かないというか、何でもやりたい性格なのよ」

話していても快活で優等生的な雰囲気が伝わる。
■ 2本のマイクで、歌声を使い分けるこだわり。
― すごいですね。楽曲に話題を移すと、男の人の声が曲に入っているのは、自分の声をエフェクトしているのですか?
L:「そう、変えているわ。エラ・フィッツジェラルドやエイミー・ワインハウスみたいな男の人っぽいディープな声が好き。あとビヨンセのような太い声も。それで機材を使ってそういう声を作って歌ってみたの」
― その一方でサウンドそのものが詩的で、鉄筋や木琴のような音が繊細に使われていたり、声を重ねたハーモニーの使い方も美しいですよね。
L:「ありがとう。私の音楽はミニマルだから、それぞれの声や音のディテールがとても大切なのよ」

ライヴでもマイク2本で声を使い分ける。4月10日@東京ドームシティホールでの公演から。撮影:古渓一道
「Falling Short」自分の声にエフェクトをかけて、男性の声のようにして聞かせている。
■ 一番大切なのは、自分のために曲を書くということ。
― そんな中で、「オペレーター」だけはちょっと違うタイプのナンバーですね。
L:「そうなの。ソウルミュージックやディスコミュージックをベースにしているから。あのチャカ・カーンのベースを弾いているオットー・ウィリアムズにわざわざベースを弾いてもらったのよ」
― あなたは自分でプロデュースできるのに、The xxを手がけたロディ・マクドナルドや、スウィング・アウト・シスターを手掛けるなど、80年代から活躍しているポール・オダフィ、あと新鋭Mura Masaなどのプロデューサーが複数参加しています。彼らにどのようにヘルプしてもらったの?
L:「ポールの場合はとても年上でキャリアもあるから、ソウルミュージックに関して彼なりの違う観点から見てくれるし、映画音楽もエクスペリメンタル・ミュージックもやっているので、一緒にやって自分の音楽の可能性を広げたかった。ロディはエンジニアのような役割で、テクニカルな面でまだ自分ができなかったことを彼が埋めてくれた。Mura Masaは同世代だから感覚を共有しやすかったわ」

弾き語りで、しっとり聴かせるナンバーも。撮影:古渓一道
― プロデュース、曲作り、シンガー、演奏などできる中で、これからはどれを一番自分の軸としてやっていきたいですか?
L:「曲作りね」
― その中で一番大事にしているのは?
L:「レーベルや社会から求められるものを意識したり、チャートに入るために何かをしたりとかではなくて、曲作りは自分の頭の中のものを外に出すセラピーのようなもの。最初から自分のために曲を書くという姿勢は変わっていないわ」

「ライヴの90パーセントはその場で演奏しているわよ」と、打ち込みより生演奏を重視したステージ。撮影:古渓一道
― このデビューアルバムで痛みなどを吐き出して、次のステップに進めたと思います? 人として成長できたというか、抱えていた問題を自己解決できました?
L:「はい。その時に自分が抱えていたものを全部これで吐き出せた感じがするし、解決したと思うわ。どの時期の自分を歌っているかというのは曲によって違うし、ボーイフレンドとの関係とか結構ネガティヴに思っていたことが多いけど、みんな吐き出したから前に進めたと思う。ただ、どれも自分のために書いている曲なので、それを人前で歌うことが自分の中ではしっくりこない。怖くなったりする。これから数年やっていって、パフォーマンスはもっと良くなっていくのではと思っているわ」
「Hurt Me」 "私を傷つけるのなら、もう少し傷つけてみたらどう?"という歌詞が印象的。
― では最後に、読者にオススメの映画や本があれば教えてください。
L:「映画はイギリスのインディーズ系が好きで、低予算で作っている『サブマリン』がお気に入り。アークティック・モンキーズのアレックス・ターナーがサウンドトラックを担当しているの。あと、アラン・ベネットが原作・脚本の『ザ・レディ・イン・ザ・バン(原題) / The Lady in the Van』を日本に来る前に機内で見て、とても良かった。この2つに共通するのは人間関係の描き方にとても引き込まれるのよね」
ラプスリーのオススメの映画1『サブマリン』(2011年)
ラプスリーのオススメの映画2『The Lady in the Van』(2015年)
話していると、北欧系らしい体格の良さもあってか、また優等生的な自信からか、19歳とは思えない落ち着きぶり。とは言っても、人前で歌を披露することには試行錯誤している様子でした。今年はこれから北米や北欧をツアーしてまわり、そしてアメリカで人気のフェス、ロラパルーザにも出演が決定しています。この1年でどのくらいパフォーマーとしても成長するのかとても楽しみですね。

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*To Be Continued

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
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