世界を旅するヤング・マジックの2人が奏でる、人生の音楽

ガムランなどの深遠な響きに神秘的な女性ヴォーカル、心身を心地よく揺らすビート……。ヤング・マジックの最新アルバム『Still Life』は、あまりの居心地の良さにずっと浸っていたくなる音楽だ。

ヤング・マジックは、インドネシアのジャカルタ生まれのメラティ・マレイ(Vo,Gt)と、オーストラリアのシドニー生まれのプロデューサー、アイザック・エマニュエル(Syn,Gt,Pad)による2人組。2009年の結成当初は4人組でスタートしたそう。何より注目されたのは、メンバー各自がメキシコ、アルゼンチン、ブラジル、アメリカ、スペイン、ドイツ、アイスランド、イギリスなどでフィールド・レコーディングして集めてきた音を、活動の拠点としているニューヨークで曲の形にしていたことだった。

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(写真左から)メラティ・マレイとアイザック・エマニュエル

その楽曲はトロ・イ・モアやビーチ・ハウスなどを輩出した名門レーベルのCarparkから評価され、すぐに契約。そこからリリースされた1stアルバム『Melt』(2012年)は当然のようにアメリカで絶賛された。2作目『Breathing Statues』(2014年)からはメラティとアイザックによる現在のデュオの形態となり、このアルバムもモロッコ、パリ、プラハ、オーストラリア、アイスランドなどでフィールド・レコーディングした音を基にして制作した。これら2枚は実験的な要素も感じられる、神秘的かつエレクトロ色強い音楽だったが、この3作目『Still Life』(2016年)は一転して親しみやすいメロディが軸となった、ポップな音楽に仕上がっている。この1月末に初来日公演を行った2人にインタビューしたところ、旅好きな2人とあって、日本に来るのは3回目という。

「Lucien」

■世界各国を旅して回るコスモポリタンな2人

—最初の2枚のアルバムは世界各地を回って集めた音で曲を作っていましたが、今回はメラティの故郷であるインドネシアに1ヶ月滞在して作ったそうですね。

メラティ(以下、M):「そうなの。私はジャカルタで生まれて11歳まで暮らしたけれど、それから家族と一緒にオーストラリアのゴールドコーストへ行き、高校と大学はオーストラリアの学校に通ったの。卒業後して21歳の時にニューヨークへ行ったわ。1ヶ月間も故郷に戻ったのは5年ぶりくらいよ」

アイザック(以下、I):「メラティが先にインドネシアへ行って、僕が後から合流した。このアルバムはインドネシアの伝統音楽にフォーカスして、そこからコンテンポラリーなNYの音楽と組み合わせていったんだ」

M:「伝統的な音楽を聴いたり、自分の家族の歴史を辿ったりしながら、いろいろ発見することばかりで興奮したわ。アイザックが来てからはその音楽を聞かせたり、ガムランやマーケットに溢れる音をフィールド・レコーディングしたりしていたの」

—アイザックはヤング・マジックの最初の頃から世界を回って音を集めていましたが、コスモポリタンな人に育ったのは何故?

I:「子供の頃から海外で作られていた、海外の要素が入った音楽が好きだった。そういう面白い音楽を聴いているうちに、僕は国外へ行ったことがなかったから、世界中を回ってみたくなったんだ。音楽に魅了されたのはもちろん、各国の文化もリスペクトしているし、どこへ行ってもそこにしかない自然の音があるし、流れる水の音にしても、町の人々の会話にしても、僕には魅力的だった。つまり、それが僕にとってファブリック・オブ・ライフだったんだ。自分の人生で自然と培われてできた、自然と織り込まれてきたファブリック・オブ・リアリティというのかな。人々は社会の中でそういう音を忘れてしまいがちなので、それでそういった音をクリップして音楽にできないかと思ったんだ」

「Sleep Now」(official audio)

■インドネシアの伝統音楽とニューヨークの多様性を融合

—今回インドネシアで過ごしてみて、何が一番刺激になりました?

I:「人々が丁寧で親切だし、日常生活とアートが分かれていないことかな。僕にとって伝統的な音楽やダンスや芝居はとても美しいもので、西洋のそれらから感じる印象とは随分違う。西洋ではカルチャーは生活の一部だったりするからね。しかもインドネシアの楽器の音色は永遠の響きを持つようで美しい」

M:「(西洋の音楽とは)音階が違うしね」

I:「あと様々なストーリーがあるよね。古い神話もあれば、現代の逸話のようなものもある」

—それらは歌詞やメロディの曲作りにどう影響しました?

M:「インドネシアからの異なった要素を自分で選びながら、多様化したNYで新たな音楽として作っていけたのは面白かったわ」

I:「メラティがNYに戻ってから、僕らは3人の友人のミュージシャンに会ったんだ。プロデューサーのエリン・リーヨーと、チェロ奏者のケルシー・マックジェキンス。彼女はシンガーでもあるし、最近はサンファのアルバムでもチェロを弾いていて話題だよね。ドラム奏者のダニエル・アレハンドロ・メンドーザはボリビア出身のパーカッショニストで、興味深いリズムを叩く。友人と作ったことからの影響は絶対だし、それで気持ち良かったと思うし、インドネシアに行ったことでヴィジョンがクリアになったこともあると思う。メラティは自分のパーソナルなストーリーを知ることができたからね」

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1月28日落合Soupでのライヴの模様。映像が放つインパクトも強い。Photo : Miki Matsushima

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まるで儀式のようなパフォーマンス。大きい会場の時はダンサー含めた5人編成になるという。Photo : Miki Matsushima

■父の死を経たアルバムで、心を清められた

—今回のアルバムは、土着的な音使いがある一方で、メロディがキャッチーで美しく、聴いていて心が安らぎます。今までのアルバムと違うのは、自分のルーツを省みたからこそリラックスできた部分と、NYの友達も参加して作ったから穏やかになれた部分があったのかもしれないですね。

M:「そうね、まずはテーマを絞れたのが良かったと思う。父が亡くなって、それをきっかけにインドネシアに帰ってみようと思ったわけだし、失ったものを通して、人生や愛というものを見つめ直すことができたから」

—アメリカ人だったお父さんはイリノイ州からジャカルタへ移住しましたが、それはメラティとは逆の生き方ですよね。今回、自分のDNAで再認識したことはありますか?

M:「誰かを失うことは人生のプロセスの1つよね。父と一緒に過ごした時間が短かったのは後悔したけれど、母からいろいろ話を聞くことができて、父は豊かで色彩鮮やかな人生を過ごしたように思うわ。その話を知ったのは良かったと思う。曲作りに関していえば、1ヶ月ほど川のほとりの小屋に籠り、音楽制作に打ち込めたのも良かったと思うわ」

—私も同じような経験をしていて、このアルバムに癒される部分があったのは、メラティがそういう過程を経て音楽を作っていたからかもしれないですね。

M:「そういってもらえて嬉しいわ。私たちの音楽は救いになるのであれば……。私にとって自分が成長できたと思える曲は『HOW WONDERFUL』で、自分自身どこへ行きたいのか、何と繋がりたいのかなど、人生を理解しようと学ぶような気持ちで自分の気持ちを表現した歌なの」

—今回は、これまでのアルバムジャケットとも随分違いますね。

I:「そうだね、特に2枚目のアルバムはミックステープのようなものだったし、作品としてもフェイスレスだったから」

M:「前の2作は世界各国の音を集めたコラージュ作品ね。私たち自身も若くてやりたいことに溢れていたから、音楽もエネルギーがあってハイパーだった。どこか謎めいていて、言葉もパズルのようにコラージュしている。でも今回のアルバムは個人的な作品だし、すごくナチュラルに内側から歌詞を書いているの。直接的で個人的なフィーリングに満ちているわ。だからアルバムジャケットは写真にしたし、滝の中にいる私の顔は濡れていて、ある種の洗礼を受けているような状態のものなの。アルバム自体、インドネシアの儀式である『ニュピ』(「サカ暦」の新年にあたり、バリ・ヒンドゥー教徒にとって精神修養に専念する最も重要な日)のようなものだから。このアルバムを完成させたことで、清められた部分が多いと思うわ」

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「Default Memory」 (official audio)

—次はどのような方向に進みたいですか? もうアイデアはありますか?

I:「このアルバムは2年前に作ったものだから、もう数ヶ月したら作り始めるよ。とってもいいアイデアがあるんだ」

M:「ホント?(笑)。今、私の中で一番関心があるのは、アメリカがどうなるかということ。反政府のコミュニティがどうなって行くか、気になっているわ」

—そうなると、サウンド的に強いものになる?

M:「そうね、そうなるかもね(笑)」

I:「僕らはカオスな世界に生きながら、平和やハピネスを音楽の中に探そうとしているから、そうはならないと思うよ(笑)」

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東京の町並みを楽しむYoung Magicの2人。

*To be continued

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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