アデル『21』がこんなにも売れるわけ①
Music Sketch 2012.02.29
イギリスの女性シンガー・ソングライター、アデルのセカンドアルバム『21』がものすごい勢いで売れています。昨年1月に発売され、1年間で1,530万もセールスし、2011年にいちばん売れたアルバムとなりました。その前年にいちばん売れたレディー・ガガ『ボーン・ディス・ウェイ』が580万枚だったことから比べても、いかに驚異的に売れているかわかると思います。そして現在も売れ続け、世界で1,800万枚以上もセールス。順を追って、そのすごさを紹介していきましょう。
記録的なセールスになっているアデルの『21』。日本でも大ヒット中。
まず2011年のうちに、以下の3つがギネスブックに認定されました。全英チャートでは初登場第1位になってから11週連続1位を記録し、それまでマドンナの持っていた記録を塗り替えた上、18週の第1位を獲得、アラニス・モリセットとシャナイア・トゥエインの持っていた記録も破り、女性ソロ・アーティストとして現在も最高記録を更新中。また女性アーティストとして、初めて2曲のシングルと2枚のアルバムが同時に全英チャートのトップ5圏内にランクインし、ザ・ビートルズが1963年に達成して以来の快挙を成し遂げました。そして、アルバム『21』が全英チャート史上初めて年間(1/1~12/31)で300万枚を売り上げた作品としても記録になりました。
第54回グラミー賞では、ノミネートされた6部門すべてで受賞。最優秀レコード賞「ローリング・イン・ザ・ディープ」、最優秀アルバム賞『21』、最優秀楽曲賞「ローリング・イン・ザ・ディープ」という主要3部門に加え、最優秀ポップ・ソロ・パフォーマンス「サムワン・ライク・ユー」、最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバム『21』、最優秀短編音楽ヴィデオ「ローリング・イン・ザ・ディープ」、余談ながら、プロデューサーのポール・エプワースも、最優秀プロデューサー賞を受賞。
また、イギリスの音楽界で権威のあるブリット・アワード2012でも最優秀アルバム『21』と最優秀女性ソロ・アーティストの主要2部門をアデルが獲得し、ポールも最優秀ブリティッシュ・プロデューサー賞を受賞。ポールはフォスター・ザ・ピープル『トーチズ』やフレンドリー・ファイアーズ『パラ』、フローレンス・アンド・ザ・マシーン『セレモニアルズ』なども手がけていますが、アデルの作品にかかわったことがいちばん大きいと思います。
第54回グラミー賞で最優秀短編音楽ヴィデオを受賞した「ローリング・イン・ザ・ディープ」
『21』は受賞後もセールスを伸ばし続け、初登場でともに第1位を飾った全英および全米チャートで、再び上昇し、21週も第1位に輝き、全世界20か国で第1位を記録(2012年2月27日時点)。特に全米チャートでは、マイケル・ジャクソン『BAD』がトップ5位に38週キープしていた記録も抜いています。昨年は"アデル・イヤー"と呼ばれていましたが、今年もますますセールスを伸ばし、音楽業界に旋風を起こしそうです。
では、なぜアデルの歌がこんなにヒットするのでしょうか。まずは大ヒット曲の「ローリング・イン・ザ・ディープ」を聴いてみて下さい。この曲はR&Bシンガーのジョン・レジェンドが真っ先にアカペラでカヴァーしたのをはじめ、リンキン・パークやパティ・スミスなどがライヴなどで歌ったことでも知られ、人気テレビ番組『glee/グリー』でも真っ先に取り上げられました。キャストに聞くと、「歌っていて、とにかく気持ちのよいナンバー」だそうです。
音声だけですが、ジョン・レジェンドがカヴァーした「ローリング・イン・ザ・ディープ」。こちらもすばらしい。
『21』発売前にインタビューした時、アデルは次のように話していました。
「『ローリング・イン・ザ・ディープ』をファースト・シングルにしたのは、アルバムの中で私がいちばん気に入っている曲のひとつだから、というのが理由のひとつ。あと、他の曲はあそこまでポップ路線ではないでしょ。例えば『セット・ファイアー・トゥ・ザ・レイン』を先に出したら、その次に『ローリング~』というのは考えられないな、と思って。この曲は最初のシングルにしない限り、シングル・カットされる機会がないような気がしたの。たぶん、私がまた『チェイシング・ペイヴメント』的なバラードを出してくると予想している人は多いと思うのね。『ローリング~』はその予想の真逆をいく曲だから、私の違った面をここで押し出すこともできると思った。最初の作品が結構シリアスだったから、みんな私のことをかなり暗くて大人しい人だと思ったみたいだけど、そんなことはなくて、愉快なところもあるし。この曲だったら間違いなく、私の違った側面を見せてくれるんじゃないかな、と。音楽的にもけっこう面白くて、ポップっていったけど、そこにブルースも盛り込まれているしね」
デビュー・アルバム『19』は、当時の大失恋を元に19歳で作ったアルバム。『21』も終わってしまった恋愛をきっかけに書いた曲ばかりですが、『19』の時はもう明日がないくらいに落込んだ精神状態で作っていたものの、『21』では成長し、特に「ローリング・イン・ザ・ディープ」では、「そんな経験にも価値を見出して、自分を肯定したい、という気持ちを表している」そう。どちらが浮気したとかそういう理由ではなく、お互いが状況をうまく立て直すことのできないまま関係を終えたため、お互いのことをありのままに書いて、なんとかできたらよかったのにと願いつつ、でも別れた後に浮かんでくる怒りや動揺や、斜に構えてみたり、悲しくなったりという感情の浮き沈みを、しっかり曲にまとめていったといいます。
こうして聴いてもメロディ自体にグルーヴがあって、曲としてもよくできているのがわかります。
そして元々この曲はアデルがアカペラの状態で準備してあったほど、歌い出しからしてインパクトの強いメロディになっています。それだけに誰もが口ずさみたくなってしまう、1度聴いただけで覚えてしまうインパクトの強さがあったのでしょう。
しかも、この歌い出しのカッコイイ歌詞!
There's a fire starting in my heart
Reaching a fever pitch
And it's bringing me out the dark
このメロディにこの歌詞、アデルの歌いっぷりに一気に引き込まれ、歌が進むに連れて表情を付けていくサウンドアレンジも魅力的で、まさにファースト・シングルにもアルバムの1曲目にもふさわしいすばらしいナンバーに仕上がっています。
*To be continued

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
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