「世界が腐っていてもハッピーに」椎名林檎の境地。

椎名林檎による、東京事変と自身に関するインタビュー続編。

東京事変は、2020年1月1日に「再生」することを発表し、今年6月に10年ぶりのニュー・アルバム『音楽』をリリース。この間には、新型コロナウイルスの影響で『Live Tour 2020 ニュースフラッシュ』が最初の2公演のみ実施、以降は中止となったほか、コロナ禍においてほかのミュージシャン同様に活動に制限が及ぶこととなった。

また椎名林檎は、2016年のリオオリンピック・パラリンピック(以下オリパラ)閉会式に於ける「東京2020フラッグハンドオーバーセレモニー」での任務に続き、2020年東京オリパラの開閉会式の演出企画チームの一員にも選出された。しかし、チームは2020年12月に解散となり、コロナ禍の影響を受けて迷走を続けるオリパラ問題にも巻き込まれる事態となった。椎名林檎に、東京事変の10年ぶりとなるアルバム『音楽』や、昨今の心境について話を聞いた。

椎名林檎、東京事変10年ぶりのアルバム『音楽』を語る。

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210608_sub2.jpg写真左から:浮雲(guitar) 、伊澤一葉(key)、椎名林檎(vox)、亀田誠治(bass)、刃田綴色(drums)

いまがいちばん同じ言葉で、たぶん、分かち合えるから。

――アルバム『音楽』は冒頭から「毒味」や「紫電」だったり、「闇なる白」、さらに名曲「緑酒」だったり、どの曲も見事にいまの気持ちを代弁してくれているように感じられます。実際、頭に来ることが多いじゃないですか。新型コロナウイルスに対して抗えないのかというと、もう少し早く入国規制をやっていたら違ったかもしれないし。

S:チキショー、その契機を考えると本当に腹が立つ!

――ありますよね(笑)。

S:サンドバッグも経験しましたし(笑)。

――ですよね。私は東京事変のツアーは最終日に行く予定にしていたから観られなかったし。あの頃、本当に大変でしたよね。ほかのアーティストやグループもそうでしたが、公演をどうするか当日に決定したり、バタバタで。東京事変は当初は実施したので、叩かれてしまって。でもそれに関しては、すごく悩んだと思いますし。

S:覚悟の上で、「こう言われるだろうな」って思っていたら、その通りで。家族を集めて「悪いんだがこれからしばらくこういうことが起こると思うから」「わかってます」といった会話はしました。

――凄い緊迫感! 林檎さんはそういったことを真っ先に体感してきたので、何に怒りをぶつけたらいいかわからない部分もあったと思うし、もちろん政府に対してやいろいろあると思うんですけど、だからこそ歌っておきたかったということはあるのではないですか? さらには某問題の時も、「急がば回れ」は当該者のことを歌っているのでは、と話題になったりして。

S:あぁ、らしいですね。おかしかった。本当、いろいろありましたね、そういえば。

――みんなこじつけたがるし、とはいえ、そのどれも林檎さんは関係しているんですよね。新型コロナウイルスの蔓延によって、コンサートをやっていいかというところから、オリンピックの式典のこともそうですし、あとうるう年と東京事変の活動というところもありますし、いろいろなことが重なってしまっていたので。

S:どう動こうとメッセージになるので、何を考えているかわかりやすいようにしないといけないだろうが、口で説明してもしょうがない。人が見ていないところで自分がやるべき行いを粛々とするまでだ、と考えて静かに過ごしていました。そんなに気持ちに任せて(歌詞を)書きなぐってやれって感じではなかったです。(笑)

――流石にそこは。

S:ではないが、なんだろう、やっぱり、若い方に対して、隣国に頭を下げ続けさせることとか、いろいろと、どう説明していいかずっとわからなくて。説明はできないけど、もちろん並行して大人がやるべきことはやっておきたい。とにかく目の前の問題がうんともすんともしないから、いろんな人に話をしに行ったりしているのに、何にも良くならない。だから、いち大人としてすごく情けないけど、世の中が変わらなかったとしても、生き抜く知恵を絞らなきゃいけないとも思う。どんな発想をすれば、世界が腐っていても関係なくハッピーな時間を過ごせるかということを、一緒に考える大人でいなきゃいけないということだけですよね。

――そうなりますよね。

S:結局20年前から変わってないと、ずっと思っていたんです。子どもが大人になった時に、母が自分との時間を犠牲にしてまで、何を作っていたのか。知られた時に、恥ずかしくないもの、単純にわかるものを残したいと思っていたので。それはずっと変わっていないです。だけど、今回グッと力が入っちゃうのは、たぶん、(みなさんに)わかっていただけると思うから。これまで同じことを書いてきたつもりだけど、いまがいちばん同じ言葉、簡単なボキャブラリーで、たぶん、分かち合えるから。

――まさに、そうですね。

S:だから「絶対、いま書かないといけないだろうな」とは、確かに思っていました。あと、曲がすごく呼んでいたというか、メロディがそういうメッセージを欲しがっていた。

――メンバーもみなそういう思いで曲を作っていたということですね。

S:たとえば「緑酒」はだいぶ前に伊澤が作曲したのでコロナとかは関係ないけど、そうだと思いますし、自由とか尊厳とかいうことを歌う曲、邪推かもしれないけどそういう思いを感じましたね。

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真面目にやっていると、向こうから語呂が合ってきちゃう。

――そういえば、「ただならぬ関係」のミュージックビデオの映像が、まさに東京オリンピックでした。

S:あれは未だオリンピックが東京だと決まっていなかった時です。メンバーが運動好きだし、当時のアルバムのタイトルだったスポーツというテーマがみんな好きで。あの頃は、オリンピック、パラリンピックのことなんて全然詳しくなかったし。

――たまたま偶然だったんですね。

S:偶然です。ミュージックビデオにはメンバー以外が関わっているから、児玉裕一監督とかはすごく意識していたかもしれないですね。

――みなさん、どのくらい先のことまで考えて活動しているのでしょう。今回の「再生」はうるう年という偶然から始まったのかもしれないけれど、偶然とは思えないことも多いですし。林檎さん自身は、どのくらい先のことまで考えて予定を組んでいるの?

S:今朝、くらいの振り返りです。いつも振り返り人生。このドアを出た先のことなんて一切考えない、考えられない、本当に。

――でも、アルバム発表後のツアーのことなど考えますよね?

S:それは考えるし、児玉監督ともよく話すんですけど、真面目にやっていると、向こうから語呂が合ってきちゃうんですよね。一生懸命やっていると、それだけで。いろんな都合をロイヤルストレートフラッシュにしてやれとか、欲に事欠かない『金の斧、銀の斧』のような話があるじゃないですか。でも、望んでないから。ヒットも望んでないし、そんなにお金持ちになりたがってないし(笑)。
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東京事変と椎名林檎のこれから。

――東京事変はこれからどう活動していくのですか?

S:バンドのみならず、みなさん、いまはなかなか一同に会せない。となると、会えることがあるなら、何か残したいと考えていってもいいのかなと思い直しています。あまりにメンバー全員が忙しいからとにかく2020年で完結させなきゃって思っていたんです。けど、ノルマを達成できなかった件に関してみんなのフラストレーションが溜まっているので、ツアーとか、機会があればやるかもしれないです。

――コロナ禍に入って、林檎さんは落ち込んだことはありましたか?

S:ないですよ。もう全然違うんだから、なつみさんに初めてお目にかかった頃とは、まるで別人のようにいまは本当にふてぶてしいオバサン(笑)。

――そんな(笑)。

S:我ながらずうずうしさにびっくりする。(『三毒史』で)書くものを書いたら、「あぁ、終わった終わった」って、私も棺桶に片足を突っ込んでいるような気持ちになって、あとは人生余り分と思っているんです。

――では、アーティスト椎名林檎としては、これからどう生きていく感じで?

S:もう本当、オバサンとして在るしかない。むしろ無事オバサンになれたっていうのがすごい。満足です。

――えっ?(耳を疑う) ママ友が集まって、「私たちオバサンになったわよね〜」っていうのはあると思うんですけど。

S:ううん、単独で。相対値とかじゃないです。自分ひとりで。

――そんな。では、オバサンである三カ条をあげるとしたら?

S:何もかもが気にならない! 自分も! 他人も! 世界も! これで三カ条ですかね。

――凄い!(笑)。

S:最強です、いつ死んでもいいし、もう何でも幸せ。

東京事変
https://tokyojihen.com

210608_210609Al_01.jpg特製ハードケース、写真帖『仕事中』(40ページ)、マキシシングルCD『赤の同盟』(全3曲)付き『音楽』(初回生産限定盤)¥4,500/ユニバーサルミュージック。通常盤(¥3,300)もあり。

*To Be Continued

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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