懐かしさと親しみやすさでくつろぐ、WONKの『artless』。

くつろいだ時間を過ごしたい時にオススメしたい音楽は、WONKの最新アルバム『artless』だ。ありのままのオーガニックなサウンドには、洗い立ての綿素材のシャツを素肌に纏うような心地よさがある。そして、このアルバムにはいくつかの魔法が潜んでいるように感じられる。身体性のある、手のぬくもりや躍動感を感じられるサウンドに、既にゲームや映画といった動画配信でも使用されているドルビーアトモスという、どのような環境で聴いても立体的に音が聞こえる技術を使用(さらにスピーカーが多いほど楽しめる)。また、曲制作に取り掛かる前に、ボーカルの長塚健斗がこういう曲にしたいというイメージや歌詞の内容を伝えていたために、歌の世界観を中心とした曲作りになった。ゆえに、歌と一緒に漂っていられる、心身に優しい豊かな音楽が結実しているのだ。メンバー4人に話を聞いた。

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(写真左から) 井上幹(Ba, Gt, Synth & SE)、長塚健斗(Vo)、荒田洸(Dr, Sound Prog)、江﨑文武(Piano, Key & Synth)

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鼻歌から生まれてきた口ずさみやすい歌に、細部までこだわった演奏。

――1曲目「Intro」は、去年12月に開催された公演「WONK’ Playhouse」をイメージするような、つまりメンバーが住むシェアハウスという設定した場所に遊びに行くような、近しい雰囲気を感じました。曲作りやレコーディングで意識したことを教えてください。

江﨑文武:これまで打ち込みで曲を作り込むようなことをひと通りやってきたので、音楽に身体性を取り戻したい、自分たちの身体で演奏できることに軸を置いて作品を作ってみたいと思ったんです。もうひとつ、空間オーディオに対応した作品が出始めていた時期だったのですが、井上さんがゲームの分野でそれをずっとやっていて「面白そうだ」という話をしていたので、WONKの作品でも取り組めたらいいなということを井上さんに相談しました。

――2曲目「Cooking」は上質なフォーキーなサウンドでありながらコーラスの入り方がとても斬新。コーラスがなければレトロスペクティヴな懐かしさに浸れたのですが、このコーラスが爪痕を残して転調し、徐々にWONKワールドが広がっていくのがまたいいんですよね。

井上幹:荒田が作った曲です。そのコーラスのリズムが爪痕を残すというのは、荒田が「リズムのツーツッツッツーというのを入れたいです」っていうところから始まった曲で、だからこのリズムは固定で在るんです。

江﨑:それをコーラスがやったりドラムがやったり、ピアノがやったりベースがやったりしている。

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(写真) 井上幹(Ba, Gt, Synth & SE):ベース演奏、作曲・編曲のほか、レコーディングやエンジニアを務め、ほかにゲームのSE/BGM制作やサウンドデザインも行う。photo: Takahiro Kihara

――そこも聴いていて楽しいんですよね。「Migratory Bird」は?

江﨑:これは鍵盤のあるバンドではなかなか起こりえない構成の曲。もし長塚さんが一人で舞台に立つことがあった時に、ギターで伴奏して成立する曲にしたいと思ったんです。

井上:最近自分がいい曲だなと思うのは、編曲を消してすごいシンプルにした時に「いい曲だな」って思える場合が多い。今までWONKは、弾き語りをした時にキャッチーに感じるような曲作りをしていないんですよね。というのも、コード楽器を弾いて歌えるメンバーがいないから。荒田はドラマーだけど、歌が歌える。長塚は楽器が弾けないけど歌が歌える、僕と江﨑はコード楽器は弾けるけど、歌は歌えないんですよ。だからシンガーソングライター的な作り方を今までできなかったんです。

江﨑:歌を自己表現の手段と思っていないから。 

――そうなんですね。

井上:でもまたそこを飛び越えたらまたひとつ違う景色が見えるんじゃないかなと思ったのがこのアルバムで、僕が作ったこの曲も、たぶん他の曲も、鼻歌ベースで各々作った人が「こんなメロディがいいんじゃないか」というのをちゃんと向き合って作った気がします。

 ――ギターの音ひとつとっても最後まで丁寧に作られている気がします。

井上:僕が曲を作っているときは入れるつもりはなかったんだけど、荒田が何か入れたいと。

江﨑:スライドギターみたいの、井上さん入れてみないですか?って。

井上:その場ではできなかったので、家にあったチョコラBBの瓶でやりました。

全員:爆笑。

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先に完成した歌詞の世界観に、各楽器がサウンドスケープを描く。

――私がいまいちばん聴いているのが「Euphoria」です。音数はミニマムなのに、聴くたびに発見があって楽しくて。

井上:僕がギターの弾き語りで作ったんですけど、この曲に関しては音数を極限まで少なくしたというテーマがありました。

――日常生活を想起させる歌詞も歌い方もブレスの区切りも、メロディにはまっていて、音楽の魅力満載で。

井上:僕はこの曲の歌のレコーディングには立ち会えていないんですけど、他の曲は荒田がした息継ぎの話とか、表現の話といったディレクションがすごく大きかったと思っていて。荒田がソロで、自分で歌うようになったことも、ひとつ見えてくる景色が変わったのかなと側から見てて思いました。

長塚健斗:レコーディングに井上と荒田がずっと立ち会ってくれてて、事細かに自分が届かないイメージのところやニュアンスについて意見をもらえるので、すごくやりやすかったですし、力み過ぎずにできましたね。

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(写真)長塚健斗(Vo):ビストロ料理を中心にシェフとしての腕前も一流で、TV番組で披露することも多く、また、商品開発やイベントも開催。photo: Takahiro Kihara

――「Butterflies」は、最初聴いた時にゴシックホラーのジェイムス・ブレイク、エドガー・アラン・ポーの世界をイメージしてしまいました。

江﨑:僕が作ったんですけど、僕はWONKの中で曲を作る時はバラード枠と決めていて、今回も静かな曲を作りたいなと思っていて。アルバム制作に向けて合宿に入る時に、荒田が「今回俺はビートの質感にすごくこだわる」と言っていたので、そこからブラシを使ったビートを作ってもらって、組み立てていきました。1曲くらいヴィンテージ感のあるシンセサイザーの音が鳴るという曲もあっていいかなぁと思って作った曲でしたね。

井上:シンセベースも打ち込まないで、身体性という意味でもリアルタイムに弾いて。鍵盤弾きじゃないので、難しいフレーズをやるのが難しい(笑)。めちゃくちゃ練習しました。

――ドラムでは新しいチャレンジはありました?

荒田:ブラシは、まぁこういうふうなのがいいって言われたので、すぐできました。あとは井上さんと同じで打ち込みがメインになっていないので、そこが久しぶりのチャレンジングではあったですね。

――歌はどうでした?

長塚:これは他の曲の倍、時間が掛かりました。夜の街を回る蝶みたいなイメージで歌詞を書いていたんですけど、他の曲は割と朝感があったりとか、明るい感じなのに対して、この曲はちょっとダークというか、重苦しくて。緊張感というか、ブレスの置き方だったり、リズムの取り方が難しかったですね。でも新しい表現というか、このレコーディングでみえたところがかなりありました。

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結成時からはじめて日本語の歌詞に取り組んだ「Umbrella」。

――「Umbrella」は、小学校の下校の時間に流れるような、NHKの「みんなのうた」のような親しみやすさ、素朴さを感じていて、これこそアートレスだなぁと聴いていました。ただ、後半の英語の部分でやはりWONKらしさが出てきて、そこで安堵したり。

全員:(笑)

――日本語の歌詞で、誰でも楽しめるシンプルな歌を作ったのは何故ですか?

江﨑:井上さんが言っていたように、シンプルに歌としていい曲を最近愛おしく思えるみたいな点は僕もすごく同意したいところで。僕はジュニアオーケストラにいた時に合唱団の伴奏もやっていたし、意外と現代音楽で攻めの表現をやっている巨匠が、「ぞうさん」とか子どもにも刺さるアプローチもやってて、そういう曲も作りたいなと思っていたんです。同じ伴奏の形式が繰り返されていて、みんなすぐにメロディを覚えられるという曲をやってみたいなと思って、作った曲ですね。

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江﨑文武(Piano, Key & Synth):個人としてKing Gnuやmillennium paradeなどに参加するほか、作曲家・プロデューサーとして楽曲提供や音楽監督などを担当。photo: Takahiro Kihara

――日本語の歌詞はどうでした?

長塚:鍵盤の伴奏の上にメロディを最初につけた頃から始まったんですけど、割とその時のメロディがそのまま採用されている部分があって、その時に半分くらい日本語にしたいなぁという話をしたんですよ。一部書き始めたら、日本語で全部いけるんじゃないかなぁと思って、その時に、ブロックごとに設定する人物像、子どもだったり、10代の若者だったり、恋人だったり、そういうふうになって、大勢の人に対して歌うグローバルな曲になった感じです。

――これまでずっと英語で歌っていた人がこんなに日本語で歌と気恥ずかしくならなかったですか?

長塚:僕よりメンバーの方が、それがあると思います。

井上:音節として英語の方がシンコペーション的なリズムだったり、譜割りの関係でカッコ良く入れるとか、そういうところで今まで僕らがやってきた音楽には適した言語だったと思うんですけど、一方で「Umbrella」みたいな曲は、もちろん英語でも成立するかもしれないけど、日本語でもしっかり曲として成立するようなイメージがあったので、曲に寄り添えていればいいのかなという気持ちがありましたね。

 

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個々の活動も盛んゆえ、よりWONKの音楽世界も広がっていく。

――たとえばブルーノ・マーズはハワイでずっとカバーバンドをやっていたので、そのレトロスペクティヴ的な技巧やセンスはもう抜群だし、そこにアンダーソン・パークが入ったので、シルク・ソニックがあれだけ万人に受けるのは当然だ思っているんです。一方、WONKはこれまで音楽通を唸らせる凄い楽曲が多かったけれど、今回の親しみやすい曲はなんとなくシルク・ソニックのスタンスに近いような気がしたんですね。

江﨑:凄い分析ですね。今作と直接的な繋がりはないにせよ、シルク・ソニックの作品の話とかは盛り上がってしていましたし、あとは聴きやすさというか、いい歌ものにしようというのは今回のアルバムに通底しているかなと思います。

――ところでいうまでもなく活動が多岐にわたる四人ですが、個々の仕事とWONKでは、どちらが攻めやすいのでしょうか?

江﨑:どちらがどうということはないのですが、僕のソロはジャンル的にWONKとはとても遠い位置にいる。攻め方ということでは、僕はピアノをどう使うかということだけにフォーカスしていて、アップライトピアノの録り方をスタジオの人と研究するみたいなことをやっていて。あまりWONKでは攻めてこなかった部分ですね。今回は自分のソロで実験して、WONKに還元することができたかなと。

荒田:WONKもわりと実験の場という側面が強いですけど、CM、曲制作でいろいろ実験したことに対して手札を増やして、kiki vivi lilyをプロデュースする時とかにどの手札を使ったらいちばんマッチした楽曲制作のフローとか音になるのかな? というところで落とし込んでいるので、案件次第というか人次第ですね。実験の場と落とし込む場は分けています。

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荒田洸(Dr, Sound Prog):WONKのリーダー。ソロ活動ほか、浪人アーケストラにも所属。ほかにWONKのレーベルEPISTROPHのkiki vivi lilyのプロデュースなど。photo: Takahiro Kihara

――せっかくなので、攻めているオススメがあれば教えてください。

荒田:kiki vivi lilyでいったら「Radio」という曲のイントロなんですけど、かなり攻められたかなと。音の作り方はポップスの流儀ではなかったですけど、出来上がってすごく良くなったので。「Onion Soup」で歌とピアノを一緒に録ることはかなり実験的だったんですけど、江﨑も録っているスタジオだから良かったし、うまいぐあいに楽曲の雰囲気ともあってベストな制作だったと思います。

――Spotifyでもそういったクレジットが出ればいいのにと思います。

江﨑:そうですよね。スタジオも書いてくれたりしたら、ね。

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『artless』EPISTROPH/ Virgin Music Label and Artist Services ¥3,300

https://virginmusic.lnk.to/artless

http://www.wonk.tokyo/

 

*To Be Continued

LIVE INFO
■artless tour
6月17日(金) 札幌 cube garden
6月24日(金) 福岡 BEAT STATION
7月8日(金) 仙台 Rensa
7月10日(日) 東京 恵比寿The Garden Hall
7月15日(金)名古屋 E.L.L.
7月16日(土) 大阪 Billboard Live OSAKA
7月18日(月) 横浜 Billboard Live YOKOHAMA
8月5日(金) 東京 Billboard Live TOKYO

■FUJI ROCK FESTIVAL '22(SMASH)
7月29日(金)苗場スキー場(新潟県)

 

 

text: Natsumi Ito

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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