ユニークな音色も魅力!上原ひろみの新譜『Sonicwonderland』。
Music Sketch 2023.09.13
毎回、さまざまなプロジェクトを立ち上げ、斬新な新作を発表するピアニストの上原ひろみ。今回はキーボードを弾く楽曲が増え、大学時代の友人オリー・ロックバーガーが歌う楽曲もあり、そしてバンド編成もアドリアン・フェロー(ベース奏者)、ジーン・コイ(ドラム奏者)、アダム・オファリル(トランペット奏者)を迎え、アルバム『Sonicwonderland』を完成させた。早速インタビューしてきた。
左からアドリアン・フェロー(ベース奏者:ジョン・マクラフリン、パット・メセニーなど多数のミュージシャンと共演)、アダム・オファリル(トランペット奏者:キューバ・ジャズ音楽家の祖父をはじめ、ラテン・ジャズ一家に育つ)、上原ひろみ、ジーン・コイ(ドラム奏者:ラリー・カールトン等と共演)
作曲家魂に火をつけたベース奏者アドリアンの演奏
――新プロジェクトのHiromi’s Sonicwonderを始めるきっかけは何だったのですか?
きっかけはベース奏者のアドリアン・フェローです。アドリアンとは、2016年に当時やっていたトリオ・プロジェクトの代役として来てもらって、何公演か一緒に演奏したんですけど、初めてとは思えない相性の良さがありました。そこから彼が演奏することを念頭に置いた曲を書きたい、一緒に演奏したい……と思わせてくれたんですね。作曲家として火をつけられるようなプレイヤーだったというのが大きいです。その新しいバンドをやるにあたっていろいろ曲を書き進めて、音像がだんだんはっきりとしてくるなかで、その音像に近いミュージシャンたちを探していき、このメンバーが揃いました。
――ベースとドラムのリズム隊に加えて、トランペットを入れることにしたのは?
リズムセクションに加えて、もうひとつ音のレイヤーが欲しくて、曲を書き進めながらその楽器を何にしようか探していました。「ポラリス」という曲ができた時に、それがトランペットだって、本当にお告げみたいな感じで見えたので(笑)、トランペット奏者ですごく音がふくよかで、深くて、すこしダークで、エフェクトペダルを使える……、そういうサウンドを探していって、アダムを見つけました。
――「ポラリス」を聴いていて、まさにトランペットが歌っているように感じていました。特にトランペットの旋律の後にピアノの演奏が来て、その旋律を拾ってトランペットがもう一度上がってくる、あの部分がすごく好きです。
わぁ、ありがとうございます。
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ユーモアにあふれた音色が新たなインスピレーションに
――今回のアルバムは、ゲーム音楽やマーチング・バンドを思わせるような「ボーナス・ステージ」をはじめ、「ゴー・ゴー」や「トライアル・アンド・エラー」などから、上原さんの遊び心やチャーミングな部分がこれまで以上に出ていると感じました。自分でもこれまでとは違うモードでやっている感覚はあったのでしょうか。
このプロジェクトは、キーボードを弾きたいという欲求が強くあって始めました。キーボードって私の中でピアノとはまた違う位置にあって、すごくユーモアに溢れた楽器なんです。なので、そういう要素は必然と増えていると思います。作曲するにおいても、この楽器はピアノと比べて音が伸びたり曲がったりしますし、音色も違いますし、その音が持っているインスピレーションが全然違うので、曲作りに関しても出てくるものが違ってきますね。
――キーボードだと、ピアノよりも多彩に音を創れるし、演奏や音の出し方にも幅が広がるため、どんどんアイデアが湧き出てくるという感じだったのでしょうか。
そうですね、いろんな面白い音だったり、音色にユーモアを感じたり、そこから何かインスピレーションが沸いてきて、っていうのはありますね。
――このNordという楽器を弾きたくなったきっかけは?
きっかけは特にありません。2007年か2008年くらいにキーボードを結構フィーチュアしたアルバムを作っていてのですが、それ以来なかなかがっつり弾く機会が最近なくて、ちょっとまたやりたいなぁと思って。
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バークリー音楽大学時代の友人オリーがシンガーとして参加
――男性のヴォーカル曲「レミニセンス」も入っていますね。
歌っているオリー・ロックバーガーは、シンガーであり、ソングライターでもあり、ピアノ奏者でもあるのですが、バークリー音楽大学時代の同期で20年以上の仲なんです。ずっとお互いの活躍を応援し合ってきましたが、2021年の初めにこの曲が完成した時にオリーの声が自分の頭の中に聞こえてきて。それで「一緒に作詞をしてくれない?」って連絡したら、「いいよ」って返事が来て、学生のノリですね(笑)。Zoomで意見交換しながら、一緒に作詞をしました。
――歌詞の内容を教えてください。
本当に大切な人を思って歌う曲にしたくて、その関係性というのも、ロマンスのある関係かもしれないし、親子かもしれない、兄弟かもしれない、友人かもしれない、それはわからないけれども、ただあまり会えない、または二度と会えない人に贈るというのは決めていました。そのなかで「ここは季節を感じる歌詞にしたい」、「自然に関する言葉を入れたい」とか自分の希望を話して、二人で書き増してきました。
――オリーのソロアルバムやMister Barringtonというバンドの作品も聴いてみたのですが、今回の方が彼の特徴的な声質が俄然出ていると思いました。
Mister Barringtonもソロ作も、かなり古いですからね。最近は共作ばかりやっていて、ルイス・コールとも一緒にやっていましたけど、自分の作品はあまり出していないんじゃないかな。このバンドを始めた時に、「トランペットが入ったバンドにオリーの声、いいと思うんだよね」、「あの時に作った曲を入れるっていうのはどうかなぁ」って彼に提案して、その後は、「ちゃんと二人の作品が日の目を見ることができて、仕事にも還元されて良かった」と話していました。
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公私問わず、挑戦することは自分の人生の充実に繋がる
――新しいチャレンジができたと感じる時はどういう時ですか?また、一緒にやっているミュージシャンの才能を伸ばしていきたいなどと意識しますか?
新しい人たちと新しい音楽をやること自体が、とても大きいチャレンジだと思っています。
才能を伸ばしたいなんていう、そんな烏滸がましいことは考えないですけど、それぞれが輝くシーンがあればいいなと思います。日が当たるというか、そして4人がそれぞれを照らし合うような関係だといいなとは思います。
――ありがとうございます。最後に、上原さんにとって人生を充実させてくれる軸となるものを教えてください。
公私問わず、挑戦することは自分の人生の充実に繋がるなと思います。新しいことをやるというのはとても大変なことで、どうなるかわからないからワクワク感が大きいし、一から作らないとならないので達成感も大きい。予定調和がないというか、それが自分の探し求めたいものであるのか、と考えます。
上原ひろみ/ピアニスト。1979年静岡生まれ。17歳の時にチック・コリアと共演。ボストンのバークリー音楽大学に入学し。在学中にジャズの名門レーベル、テラークと契約。2011年スタンリー・クラークとのプロジェクト作『スタンリー・クラーク・バンド フィーチャリング 上原ひろみ』で第53回グラミー賞「ベスト・コンテンポラリー・ジャズ・アルバム」を受賞。2021年「東京2020オリンピック開会式」に出演。活動は多岐にわたる。
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音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
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