シャーロット・デイ・ウィルソン、最新アルバム『シアン・ブルー』を語る。

Music Sketch 2024.10.19

初来日ながら富士山麓で開催された朝霧ジャムに出演し、単独公演も大盛況のうちに終えたカナダ出身のシンガー・ソングライターのシャーロット・デイ・ウィルソン。シャーデーのような深みのある魅力的な歌声に加え、曲作りの巧みさ、マルチな楽器演奏やプロデューサーとしての才能も兼ね備え、その評価は年々高まるばかり。自信作である最新アルバム『シアン・ブルー』を携えて、ワールドツアー中の彼女にインタビューした。

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1993年生まれ、カナダ・トロント出身。EP『CDW』(2016年)でデビュー。ドレイクやジョン・メイヤー、ジェイムス・ブレイクらが彼女の歌をサンプリングし、パティ・スミスが「Work」をカヴァーするなど、多方面から注目される。彼女自身もシド(ジ・インターネット)やケイトラナダ、バッドバッドノットグッドなどと共演し、活躍の場を広げてきた。

マルチミュージシャンであり、自分の理想の楽曲を作るためにDTMを学ぶ

――音楽にはどのように親しんできたのですか?

両親が早い時期からピアノといった音楽レッスンを受けさせてくれて、あとグレード6(日本の小学校6年生に相当)の時に学校のバンドでサックスを吹き始めたの。この楽器を選んだのは、弦楽器はやりたくなかったし、サックスがクールだと思ったから。私はモータウンミュージックがずっと好きで、モータウンの音楽のホーンセクションには必ずサックス奏者がいたし、特にサックスソロに興味を持ったの。

――音楽一家に育ったのですか?

父はプロまでは行かなかったけれど楽器を演奏していて、母も音楽がすごく大好き。あと叔母さんふたりが音楽の先生をしていて、母方の祖母も歌を歌っていた。楽器をやるようになったのは父からの影響が大きいわ。父にとても後押しされたから。

――そのような環境で、いつ頃に自分の歌や曲を作る才能に気づきましたか?

前から自分は音楽が上手だと思っていたわ。人前まで歌った時に、みんなが楽しんでいるのがわかったから、才能があるとは思っていたけど、いちばん強く自覚したのは最初の作品『CDW』で自分が書いた楽曲を公表してから。その時の反響がとても良かったので、単に自分の周辺の人たちが身内的に褒めてくれているだけではないことがわかったの。

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サックス演奏と歌を担当しつつ、次第に歌声の魅力に取り憑かれて

――ピアノやサックスの他に、ギターやドラムなども演奏できる一方で、DTM(デスクトップミュージック)にも凝るようになったんですよね。プログラミングを利用して曲作りをするようになったのは同じタイミングだったのでしょうか?

ある時点で、自分がピアノでもサックスでもプロの演奏者になれるほどではないと気づいたの。その高校生の頃にDTMという技術を使うことで自分のサウンドをより良くできると知って、それが自分の楽器やツールとなっていくうちに、プロダクションを全て繋ぎ合わせていい音楽を作ろうということになったの。

――具体的には?

高校の時に自分の好きな曲、たとえばメイヤー・ホーソーンの「グリーン・アイド・ラヴ」の全ての要素を、音楽ソフトのガレージバンドやMIDIキーボードや少しインターフェイスを使って作り直そうと、自分の好きなようにやってみた。そこから大学に入って自分の曲を作るようになったの。

――当時から音には徹底的に凝ったのでしょうね。自作曲ということでは、『CDW』に収録された初期の「Work」からあなたの音楽要素であるR&Bやゴスペルクワイア、エレクトロニカといった特徴を感じますが、この独自の音世界というのは、いつ頃から出来上がってきたのでしょう? 

大学を中退した頃ね。音楽活動に忙しくて学業に専念できなかったの。

――大学を辞める時には、ミュージシャンとして身を立てることを決めていたのですか? 

アーティストになることは決まってはいなかったけれど、音楽が好きだったので、音楽業界に携わりたいという気持ちはあった。私にとって音楽は得意なものであり、自分も自信があったので、自分が進む方向に悩むことはなかったから。

――曲作りの一方で、声もとても魅力的ですよね。たとえば「Changes」ではサックスと声の使い方が印象的でした。早くから自分の声をどう使うかを意識して曲作りをしていたのですか? 

一時期バンド活動をしていることがあって、その時にサックスとヴォーカルの両方を担当していた。曲の中でも演奏と歌を交互にやっていたので、その頃から歌への興味が始まったのだと思う。周りの人も、私は歌うようにサックスを吹くとか言っていたし。

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声を活かして、思い出を繋ぎ合わせた記憶のコラージュのような音楽に

――おもしろい!そうなんですね。歌声のことでいうと「I Don't Love You」は、声のレイヤーやエフェクト、しかもピッチのズレをうまくコーラスに取り入れるなどして芸術性が高く、すごく好きな曲です。あの歌詞だからそういう構成になったのか、それとも先にメロディやサビの構成が決まり、そこから歌詞のストーリーが生まれたのでしょうか。 

最初にコーラスがあったのよね。コンテンポラリーで陳腐な曲にしたくなかったので、そこからどう発展させていくかを悩んで、とにかくおもしろいプロダクションにしたいと思ったの。自宅からスタジオへ行く間の景色を眺めていて、「思い出を繋ぎ合わせた記憶のコラージュのようにしたい」と思いついて、プロダクションもそういった響きになるようにしたの。

――「Over The Window」で背後に聞かれる人の話し声もそうですが、「Cyan Blue」もドアを閉める音が収録されるなど、日常を思わせるフィールドレコーディングも効果を生んでいると思います。「Cyan Blue」はアルバムタイトル曲にふさわしい名曲だと思いますが、どのようにして生まれた曲なのでしょう。 

この曲は結構紆余曲折したのよね。そもそもは共同プロデューサーであるジャック・ロショーン(H.E.R、ダニエル・シーザーほか)とインディー・ロックの曲を作っていたけど、ギターのメロディだった部分が、いまある曲の歌のメインのメロディになっている。結局、最初に作っていたバージョンのサウンドはあまり気に入らなかったので使わずに、ギターのメロディだけ採用して、それをピアノのメロディにした。そうして曲が出来上がったわけ。曲の内容は、自分が若い頃に感じていた感動や深い感情みたいなものに再びアクセスしたいということを歌っているわ。

――アルバム『シアン・ブルー』はすべての音の細部までこだわったと思うので、ライヴで曲を再現するにあたり、音の構成には悩んだと思います。そしてステージ左端のミュージシャンがキーボードの他に、ハープやチェロを演奏するなどして魅了されました。ただ、曲の核となるベースの音はライヴでは打ち込みだったような。でも、そのサウンドはすごく良かったです。

ならOKね(笑)。5人目のバンドメンバーを連れて来られる予算があれば、もちろんベース奏者を連れてきたんだけど、今回何曲かはギターがそのパートを低音で弾いて、他はプログラミングを使った。大まかな構成は私のアイデアだけど、今回はバンドと一緒に曲を発展させたいというのがあったから、彼らのアイディアも入れて、各々の個性というのも加えてあるの。

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自分の音楽で、普段は話せないことや語れない感情に近づいているのかもしれない 

――曲作りにもサウンドプロダクションにもアイデアがあふれているように感じるのですが、どのような時に曲を作りたくなるのですか?

退屈な時間というか、暇な時間に曲を書きたいと思うのよ(笑)。ちょっと妙な答えかもしれないけど、私は10代の頃からそうやって自分の暇な時とか退屈な時に曲を作ってきたので、まだそれが続いていて、大人となったいまでは敢えてそういう時間を作るようにしている。ツアー中に作曲する人もいるけど、私は自分にとって余裕のある時間と空間を作ってから制作活動に入ることが必要なの。

――では、あなたの音楽でいちばん表現しやすい感情は何だと思いますか?

憧れや切望ね。曲作りは無意識で行うというか、無意識になることだと思うけど、私は自分の魂が本当に求めている、感じている、近づきたいところに行っていると感じる。つまり、普段は話せないこととか、語れない感情に近づいているのかもしれない。

――最後に、あなた自身の構成要素となった音楽や小説、映画などがあれば教えてください。

影響はいろいろなものから受けているので、ピンポイントで言うのは難しいわ。あえて挙げるとしたらブラックミュージックは本当にすごく大好きだし、黒人がいちばん音楽が上手だと思っているので、とても影響を受けている。私の歌い方もそうだと思う。あとは、女性は強いし美しい存在なので、影響を受けているわ。同郷の詩人のアン・カーソンや、『シアン・ブルー』のインスピレーションのひとつにもなっているマギー・ネルソンの『Bluets』、あとミランダ・ジュライの名前を挙げておくわ。 

――お疲れのところ、ありがとうございました。

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クィアと自認するシャーロットの歌にはsheを対象にした歌が多い。『シアン・ブルー』¥2,860/XL Recordings/Beat Recores

*To Be Continued

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