愛とリスペクトから生まれた、魅力溢れるアルバム3枚
Music Sketch 2014.12.12
いつもぎっしり書いてしまうので、今日は入り口を広げてゆるりと3枚のトリビュート系のアルバムをご紹介します。といってもどれも素晴らしい内容で、聴きながら次の展開がどうなるのかとワクワクしたり、完璧な内容に身の引き締まるような思いをしたり、そして新たな魅力が加えられて、その楽曲や演じているアーティスト、オリジナル曲をさらに好きになってしまう作品ばかりです。
■ 『Why no Clammbon!? 〜クラムボン・トリビュート』
1枚目は、クラムボンの結成20周年を記念して発表された『Why no Clammbon!?
〜クラムボン・トリビュート』。参加しているのはストレイテナー、蓮沼執太フィル、salyu×salyu、レキシ、ハナレグミ、NONA REEVES、Baffalo Daughter、downy、GREAT3、TOKYO No.1 SOUL SET、HUSKING BEE、青葉市子、Mice Parade(featuring Chancellor)、小室哲哉(収録順)で、メンバーに縁のある14組がクラムボンの名曲を思い思いに表現しています。
最初の歌い出しの時点で誰が歌っているのかわかるほど、各アーティストの個性が歌やサウンド、アレンジに出ているのはもちろん、クラムボンやその楽曲に対する深い愛情やリスペクトをたっぷり感じることができ、しかもクラムボンの原田郁子、ミト、伊藤大助の3人から醸し出されるふんわり温かく包み込んでくれるような優しさと同じ雰囲気がどの楽曲からも溢れてきて、それも嬉しいですね。私はデビュー当時からクラムボンが大好きで、ここに参加しているのも大好きなミュージシャンが多いので、もう繰り返し何度も聴いています。活動が長いだけに、「はなればなれ」を筆頭に人気曲は数多いのですが、ここに選ばれた曲で、自分がしばらく聴いていなかった曲からの再発見もありました。フィガロジャポン読者にはクラムボンを知らない人がいるかと思いますが、このトリビュート・アルバムから興味を持っていただくのも逆に新鮮かもしれません。オススメです。
参加アーティストのコメントはこちら→
http://columbia.jp/clammbon20th/COCP-38844.html
■ 『宇多田ヒカルのうた −13組の音楽家による13の解釈について−』
2枚目は、デビューから15周年イヤーを迎えた宇多田ヒカルの曲を取り上げた『宇多田ヒカルのうた −13組の音楽家による13の解釈について−』。こちらのコンセプトは「自らがソングライターとして第一線で活躍されているアーティストに限定して、自由に宇多田ヒカルの楽曲を表現してもらおうというもの」。宇多田にとって大先輩にあたる井上陽水や岡村靖幸から、現在日本の音楽シーンを席巻する24歳のDJ/トラックメイカー/プロデューサーであるtofubeatsがtofubeats with BONNIE PINKという形で、ジャネット・ジャクソンなどの大ヒットメイカーとして知られ、宇多田の曲もプロデュースした御大ジミー・ジャム&テリー・ルイスまでもピーボ・ブライソンと一緒に参加しています。他にも椎名林檎、浜崎あゆみ、ハナレグミ、AI、吉井和哉、LOVE PSYCHEDELICO、加藤ミリヤ、大橋トリオ、KIRINJIと、計13組の多彩な顔ぶれが揃っています。
このアルバムを最初に聴いて感じたのは、各アーティストの気合いの入り方がハンパでなく、曲や宇多田本人に対する愛情やリスペクトもありつつ、まるで対バンやコンペ並みの真剣勝負を想起させ、この楽曲を通して自分を次なるレベルに引き上げようとしてチャレンジしているかのような密度の濃さ。「SAKURAドロップス」をラテン調に振り切って、Nora(オルケスタ・デ・ラ・ルス)とのデュエットで大人の歌に仕上げた1曲目の井上陽水から本当に凄いことになっていて、それぞれの才能全開ぶりを感想に書き出すとキリがないほど、こちらも音楽の奥深さを堪能できてオススメです。ちなみにデビュー前の宇多田ヒカルさんを取材する際に聴かせてもらった2曲のうち1曲が「Time Will Tell」。今聴いても大好きですね。
参加アーティストのコメントはこちら→
http://www.utadahikaru.jp/15th/album_info.html
■ 畠山美由紀『歌で逢いましょう』
3枚目はトリビュートアルバムではなく、畠山美由紀のアルバム『歌で逢いましょう』。でも、ここで歌われている曲や歌手に敬意を示していることから考えれば、トリビュート作品と呼んでもいいかもしれません。これは購入してみたらとても良く、思わず彼女のホームページから取材を申し込んでしまったほど。畠山美由紀はソロ活動以前から、Double Famous やPort of Notesなどでも活躍しているシンガー・ソングライター。この作品は日本でお馴染みの演歌や歌謡曲に新たな息吹を吹き込んだアルバムで、畠山曰く「カヴァーという気があまりしなかったんです。ジャズ・スタンダードのことをカヴァーとは言わないじゃないですか。それと同じ感じで、既にみんなの歌になっているというか、人生を歌っている名曲集という気持ちで歌っていました」とのこと。彼女自身、カラオケに行くと必ず歌ってしまうという美空ひばりの「悲しい酒」のように、"彼女のスタンダード、彼女自身の歌"になっていて、しかもバンドとスタジオに入って一発録音のテイクをそのまま収録した程よい緊張感のせいか、まるで目の前で歌っているかのような臨場感がダイレクトに伝わってきます。
なかでも圧倒的なのはサックスをはじめとするファンキーな演奏に歌が踊る「おんな港町」と、歌と演奏がお互いにインスピレーションを感じながらパフォーマンスしていく、即興性溢れる「圭子の夢は夜ひらく」。この2曲のカッコ良さには何度聴いても痺れます。他にも「シクラメンのかほり」「かもめはかもめ」などお馴染みの曲が多く、特にカラオケ好きな方には必須の一枚になるのでは? とはいっても、そのアレンジは前述のようにファンキーだったり、「越冬つばめ」のようにファド風だったり、その音楽性も豊か。私は自分の歌にしてしまっている濃度の高い畠山美由紀の歌いっぷりに魅了され、またそれぞれの曲がヒットしていた昭和の時代に思いを馳せながら、このアルバムを聴いているとついアルコールを呑みたくなってしまいますね。
このアルバムの情報はこちら→
http://rambling.ne.jp/utadeaimasho/index.html
*To Be Continued

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
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